第16話王都への旅立ち

 あの晩、アーネストには一部だけ真実を伝えた。

 全てを伝える事は、逆にアーネストを危険に晒す可能性があるからだ。


 俺が転生前の記憶と力を持ち、転生前に蓄えた財を自由に引き出す事が出来る事。

 多くの神から加護を得ている為、通常では不可能な事を可能にする力がある事。

 それを聞いたアーネストは納得すると、ニヤリと微笑みこう言った。


 「ケイよ、本日より俺とお前は、志を同じくする真の友だ!公の場では拙いが、プライベートな場では、敬語や丁寧な言葉使いなど要らん、歳も上なのだから気楽に話してくれ」

 「確かに中身は200歳超えた爺さんですけどね。まぁその都度使い分けさせて貰いますよ」


 そんなやり取りをした後、王都へ行くスケジュールを調整しなければならないので、詳しい予定を聞いた所、出発は2日後の早朝に飛龍スカイドラゴン便が来るので、それに乗って王都へ行くそうだ。

 以外に早いと思ったが、王都で武術大会が開催されるのは5日後だと聞いて納得した。

 飛竜便なら王都まで半日で到着出来るらしい。


 王都へ到着してから2日は自由にして良いらしいが、教会へ行ってジョブを得る事だけは、忘れないように言われた。

 滞在用の宿は確保されているらしく、高ランク冒険者が良く使用する名店らしい。

 個室で風呂付き、質の良いベッド有りらしいし、食事も美味しいので期待してくれとの事だった。

 

 私も行く!ライムも行く!とギャーギャー騒がしかったが、レインの一喝で鎮圧された。

 おかげで、この2日間は姉妹に奉公する事になったが、無事に旅立ちの朝を迎えた。


 「ケイ、辺境と王都は勝手が違う、王都ではスリや犯罪者も居るから十分に用心するんだぞ?」

 「何かあればアーネスト様が動いて下さる事になっているけど、用心を怠っては駄目よ?」

 「ケイはしっかりしているから、ミーシャを行かせるよりも安心して送り出せるけど、これだけは言っておくわね。命を失う位ならば、相手から命を奪ってでも生きなさい!」


 親は心配はしているが、俺なら大丈夫だろうという気持ちが強いらしい。

 それに比べてこのブラコン姉さまときたら。

 

 「水には気を付けるのよ?知らない人に誘われてもついて行っちゃ駄目よ?毎日、朝昼晩は必ずお姉ちゃんの事を思い出すのよ?」

 

 と前日の晩から、呪文のようにしつこく言ってくる始末である。


 「おにーちゃんいってらっしゃい!おるすばんはライムにまかせて!」


 レインから何を吹き込まれたのか分からないが、妙にライムが張り切っているので、ここは話に乗っておくのが正解だろう。


 「それじゃ、ライムに任せるからよろしくね!良い子にしてたらお土産買ってくるよ?」

 「うん!ライムいいこにしてるよ!」


 張り切る妹の頭を撫でて分かれると、アーネストと共に飛竜便の籠に乗る。 

体長5メートル程もある飛竜が大きく翼を広げ、空へと舞い上がる。

 全身を風の魔力で覆う事で、慣性や空気抵抗を意のままに操る飛竜は、想像とは桁外れの速度で飛行を始めた。

 時速200kmは出ているだろうか、風を切って飛ぶ飛竜が抱える籠から、外の景色を楽しんで見ていると、いつの間にか時間が過ぎており、空の旅はあっという間だった。


 王都正門前にある広場には、大規模な飛竜の離着陸場所があった。

 連絡先が豊富にあるのだろう、行き先に合わせてエリアが分かれているようだ。

 中でも、遠方に行くのだろう一回り大きくて頑丈そうな籠には、食料の積み込みが行われている。

 

 「ケイ、正門で衛兵の検問を受ける必要は無い。我々は貴族用の入り口から入るから、俺について来るんだ。」


 アーネストが向かう場所には豪華な馬車が置かれていた。

 手前に立っているのは御者と、執事服を着たナイスシルバーである。


 「お待ちしておりました。アーネスト様が王都に来られるのは、半年振りで御座いますな」

 「うむ、また数日間世話になるが、よろしく頼むぞ。今回は客を連れているのだ、この少年は私だと思って接するように、他の者にも申し伝えておけ」

 「畏まりました。失礼を働く者が無いように、厳命しておきます」


 馬車のドアを開けてくれたので中に入ると、驚きの世界が広がっていた。

 空間魔法の技術を応用しているのだろう、2メートル半程のスペースが、2倍の5mという広大な空間に変化している。

 中にはメイドが控えており、既にティーセットが並んでいた。


 席に着くと何処から取り出したのか、香ばしい匂いがするアツアツのスコーンが置かれ、ティーカップに紅茶が注がれていく。

 とても良い香りだ。熟練の技術で淹れられた上質の紅茶がフワリと香り、鼻腔をくすぐるのに合わせて、自然と頬が緩んでしまった。

 俺は初めての王都で緊張していたのだが、嘘のようにリラックスしてしまった。


 「ふふ、システィが淹れる紅茶を飲んだら、他の者が淹れた紅茶は飲めなくなってしまうな」

 「アーネスト様ったら、私の様な者には勿体無いお言葉で御座います」


 20代半ば位のメイドはシスティという名前らしい。

 線が細くスレンダーな体型と、ゴシックエプロンドレスが妙にマッチしており、流れるような手捌きがデキる女としての魅力を更に引き出していた。

 

 「うむ、素晴らしいな。この紅茶を飲む為だけに、王都へ足を運んでしまいそうだ」

 「はい。これだけの物を出されたら、僕もアーネスト様の言う事を認めざるを得ませんね」

 「殿方にそう何度も褒められると、照れてしまします。これ以上はご容赦を」


 頬を染めたシスティだったが、一礼して後方に下がると気配を薄れさせて目立たなくなる。

 一流のメイドは様々なスキルを併せ持つ優秀な人材だな。


 「ケイ、門は通過したが、今日より二日間は自由に王都で過ごすと良い。宿の代金は先払いしてあるし、食べたい時に食事が出来るように都合を付けてある」

 「ありがとうございます。本日は教会に行ってジョブを得たら、ゆっくり休もうと思っています」


 飲み干したカップを置くと、コポコポとお代わりが注がれる。

 さっそく一口飲んで紅茶を楽しんでいると、ジャラリと硬貨が詰まった皮袋がテーブルに置かれる。

 

 「これが王都での滞在費だ。遠慮せずに好きなだけ使ってくれ」

 「優勝の褒章で金貨を50枚も頂いているのに、僅かながらという前置きだったはずの滞在費が、金貨では無く、白金貨で20枚とは......一体私にどんな買い物をしろと仰るのですか?」


 白金貨は1枚が金貨100枚の価値を持つ、つまり金貨2000枚だから、日本円に直すと2億円に相当する。

 ニヤリと笑ったアーネストは口を開くとこう告げた。

 

 「いやぁ、王都でしか買えないような、名工が作った剣と鎧を買うはずだったのに、どこかの親切な方が、それ以上の物をプレゼントしてくれたので、用意してきた資金が全部余ってしまってな」

 「成程、つまり使い道が無くなったから、原因である私に予算を丸投げすると?」


 冷たい視線を向けながら威圧するつもりだったが、口に含んだ紅茶が美味過ぎ微笑んでしまった。システィが悪いわけではないが、タイミングが悪すぎた。


 「それに、お前がその金を何に使うかも興味がある。遠慮はするな、その金は俺個人が国から報酬として貰い受けた個人の資産だ。税収でもなければ、辺境伯として蓄えた金でも無い」


 そこまで言われると、断るのも気が引けてくる。

 ここで返金した所で、別の形で受け取るように仕向けるだろう。アーネストはそういう男だ。


 「分かりました。使いたい分だけ使って、余ったら辺境の為になるよう」

 「駄目だ!全部使い切りなさい。その使い道を許す位ならば、既にそういう分配をしてから渡している。お前が思っているよりも私は金持ちだぞ?」


 ぐぐぐ、退路を断たれたか。仕方あるまい、俺も覚悟を決めよう。


 「後悔しないでくださいよ?そう言われたからには、石貨1枚も返しませんからね?」

 「そうだ!それで良いのだ!男児たるもの時には豪快に行く事も必要よ」


 話をしている間に、目的の宿屋に着いたみたいだ。

 馬車が停止して、御者と一緒に御者台で座っていた執事が扉を開けてくれる。


 「ケイ様、この宿の最上階にある貴族が宿泊に使用する、スイートルームをご用意しております。備え付けのベルを魔道具と交換しておきました。鳴らして頂けば、私がご用件を伺いに参りますので、気軽にお呼びください」


 「クロードは同じ宿に待機を命じてある。道案内でも何でも自由に使ってくれ」

 「遠慮はご無用でございます。何時如何なる場合でも即座に参上致しますので、王都に滞在する間は、私めの主人になったと思って頂いて結構でございます」


 一人で十分だと思っていたのだが、真剣な目で話すクロードさんの気迫に押されて、了解の返事を出してしまった。


 「分かりました。何か困った事があれば、迷わずに呼ばせて頂きます」

 「畏まりました。我が主に恥を掻かせる事が無いように、全力で役目を果たさせて頂きます」


 こうして、長いようで短い旅路は終わった。

 宿に着いた俺は、チェックインした部屋の豪華さに若干引いたが、ここまで来ると気にしても仕方が無いだろうと割り切った。


 荷物を置くと、教会の場所をクロードに確認すると、都の景色を自由に見たいからと案内を断って歩き出した。

 この時は分からなかったのだ。


 運命の出会いという物は、時と場合に関係無く訪れる。

 まさか、自分にとってのそれが今日だなんて......。

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