第15話深夜の密会 二人の約束

 食事を終えた俺達一家は仲良く帰った後におやすみを言って分かれた。

 大人はみんなが酔っ払っていたので、起きて来る事は無いだろう・

 

 気配を隠蔽した俺は、またしてもリンキに身代わりを頼むと家を抜け出した。

 「主、約束を忘れず守る事は良い事ですが、私への林檎を忘れていませんか?忘れていますよね?それだけは駄目だ!やっちゃならない事だ!林檎戦争が勃発しますよ?林檎紛争と林檎論争も起きますよ?」


 林檎成分が枯渇した駄馬が壊れてしまったようだ。

 ドサッと林檎を一山出して部屋を飛び出す。


 「馬が旨い事言ったら、美味い物が手に入った!これが本当のお馬さん?」


 ダメダコイツ......ハヤクナントカシナイトイケナイヨー

 全然面白くないし旨い事言ってない気がするんだが......分からん。

 考え事をしている間に正門に着いてしまった。


 「ケイ様ですね?アーネスト様がお待ちです。どうぞこちらへ」


 兵士に案内されて、正門を潜ると篝火が焚かれて即席のリングが出来ていた。

 中心に腕を組んで立っているのは、辺境伯なんかでは無く、一介の武人だった。


 「来たかケイ、話は後にしよう。まずは全力で戦ってくれ。俺の見立てが正しければ、お前は俺よりも強いはずだ。遥か高みの力を見せてくれ」

 

 凄い洞察力だと思った。

 ヒントが有ったとはいえ、この短期間でここまで看破してくるのは、流石としか良い様が無い。


 相手は既に戦闘モードに入っているのだ。これに答えなくて何が男か。


 「分かりました。行きます!」


 加速した俺は、瞬時にアーネストの裏に回りこむと回し蹴りを放つ。

 この戦いに合わせて、一部のステータスを開放した蹴りは重く、辛うじて盾で蹴りを防いだアーネストだったが、ズザザザザーーっと轍わだちの様な後を作りながら強制的に後退する。


 「10歳の子供の蹴りで吹き飛ばされ、魔力エンチャントで強化されている黒鉄製の盾に足跡が残るかよ......やはり見込みは間違っていなかったな」

 「我が武、存分にお見せしましょう」


 瞬歩で懐に潜り込んだ俺は、プレートメイルの胸部を掌打で打ち抜く。

 ボコンと掌の形に陥没した鎧を脱ぎ捨てて、アーネストが笑う。


 「いいぞ!これだ!周辺国と不可侵条約なんぞを結んだお陰で、この力を振るう機会がなくなってしまった。しかし、今この時に全力を出せる相手を見つけた。神よ......感謝します」


 「あああああ!!!!!!」


 気合を入れたアーネストの筋肉が膨れ上がり、一回り大きくなる。

 増加した瞬発力を使って、突進してくるかと思ったが、瞬動術を使用してきた。

 ステータスには乗っていなかったはずなので、この戦闘での経験で成長したのだろう。



    アーネスト・ライト (53) LV231 種族 ハイヒューマン ジョブ 辺境伯

  HP 3510/3510 MP 2800/2800

 スキル 『生産技能』狩猟 LV74 

      『便利技能』ステータス LV81 鑑定 LV90 カリスマ LV73

      『特殊技能』【基礎LV150】【刻印】

      『戦闘技能』格闘 LV82 武具習熟 LV77 兵器習熟 LV76 指揮 LV89 肉体強化 LV71 精神強化 LV61 威圧 LV63 瞬動術 LV1

      『魔法技能』火魔法 LV65 


 「やはり俺はまだまだ強くなれる!もっと見せてくれケイ!強さとは如何なる物かをこの身に刻んでくれ!」


 細身のショートソードを二刀流で振るうアーネストの剣技は完成されており、どれだけの研鑽を重ねたのか見て分かる程の実力だった。

 数十万回と振るわれたであろう太刀筋は、精密でありながら凄まじい威力を秘めていた。

 剣圧で地面が抉れ、その威力を理解出来る程の爪跡が残されていた。


 「ぬりゃ!ふはぁああああ!!!」


 二刀の剣撃を紙一重で避けると剣圧で服が持っていかれるので、余裕を持って避けてから反撃を加える。

 上手く反応して盾で受け流そうとするが、螺旋回転を加えて銃弾の如く打ち放った正拳が、盾を半分に叩き割る。

 

 「これならばどうだ!」


 火魔法を使ったアーネストは、二本の剣に魔法を纏わせる。



  アーネスト・ライト (53) LV231 種族 ハイヒューマン ジョブ 辺境伯

  HP 2876/3510 MP 2580/2800

 スキル 『生産技能』狩猟 LV74 

      『便利技能』ステータス LV81 鑑定 LV90 カリスマ LV73

      『特殊技能』【基礎LV150】【刻印】

      『戦闘技能』格闘 LV83 武具習熟 LV78 兵器習熟 LV76 指揮 LV89 肉体強化 LV72 精神強化 LV62 速度強化 LV1 魔力制御 LV1 魔纏 LV1 威圧 LV63 瞬動術 LV2

      『魔法技能』火魔法 LV65 


 また、アーネストが進化した。この戦闘の経験を、凄い勢いで吸収して学習している。

 

 「この魔法剣をどう返す!?」


 ビュッ!ビュッ!と炎を纏った二刀が鼻先を掠めると、炎に炙られた前髪がチリチリと焼け焦げてしまった。

 続け様に切り返した刃を繰り出すアーネストにこう返す。


 「そうですね......こうします」


 炎を纏った剛剣の刀身を、両手の親指と人差し指で掴み取る。


 「何!?この剣を手で止めるかよ!」


 魔力の供給を続けている剣は未だに炎を上げ続けているが、平気な態度で掴み続ける俺に驚愕している。


 「はぁ!!」


 気合を入れて咆哮すると、バキィンと刀身が半ばで圧し折れた。

 中々の業物だが、この戦闘には耐えられなかった。

 折れた剣を投げ捨てたアーネストは、格闘戦に移行するつもりらしく、構えを取る。


 「ぬぉおおりゃあああああ!!!」


 体重の乗った右ストレートを向けて来るが、化勁かけいで受け流した俺は、がら空きの腹部にボディブロウを打ち込んだ。

 くの字に折れ曲がったまま宙に浮いたアーネストは、そのまま崩れ落ちた。


 「かはぁ......ぐう......効いたぞ......ケイ」

 「ここらで終わりにしましょう。内蔵にかなりのダメージがあるはずですから、これを飲んでください」


 腰のベルトから下げている、アイテム入れから出した様に装って回復薬を出して手渡す。


 【高位回復薬ハイポーション】「レアリティ SR」

 薬草と魔力水を使用して作られた、効果の高い回復薬。

 通常の製法とは異なり、製作者独自の製法で作られている為、模倣は極めて難しい。

 使用されている薬草や魔力水の品質も極上であり、高位回復薬の枠を逸脱している。


 使用者のHPを85%回復する。使用後は10分間、HPが徐々に傷が回復する。


 「何だこのハイポーションは!....いや、無知は罪というが、この場合は好奇心は猫を殺すだな」


 何かを悟ったようなスッキリした顔で、ハイポーションを飲み下すアーネスト。

 その効果の高さに驚嘆したが、出所を問いただそうとしなかった。

 この高潔で賢い男ならば、信頼しても良いだろうと俺は判断した。


 「ケイ、俺はお前の事情を追及しないし、誰かに広めよう等とは思わない。だが、その力は過酷な辺境では必要不可欠な力だ。我が民を守る為にどうかこれからも力を貸して欲しい」


 俺は慌てて、頭を下げたアーネストに声を掛ける。


 「頭を上げてください!辺境伯が平民の倅なんかに頭を下げる必要なんかありません」

 「いや、立場など飾りだ。俺はこの辺境を豊かにする為ならば、プライドなどゴブリンのエサにしても良い。民の命に代えるような価値は無い」


 この瞬間、俺はアーネストという男の生き様に心から惚れた。

 権力が嫌いな我が父親が、どうして心から臣下の礼を取るのか、俺はようやく理解した。

 アーネスト辺境伯は、本物の貴族以上の貴族だ。

 この男にならば命を捧げても良いと、他人に心から思わせるだけの価値を持っている。


 「駄目にした鎧と剣の代わりはこれを使ってください」


 【双剣 阿修羅・羅刹】「レアリティ SR」

 膨大な魔力を隕鉄に込めて、高度な技術で鍛造された双剣。

 波打つような波紋と、薄く纏った白い魔力光が芸術品としても一級の美観を作り上げている。

 その刃は鋭く、鋼鉄製の鎧などバターでも切るかのように切断する。


 【黒魔法銀の全身鎧ガルム】「レアリティ LG」

 ミスリルをアダマンタイトでコーティングした全身鎧。

 『軽量化』『温度変化軽減』『衝撃軽減』『対魔力防御』『刺突武器無効』『治癒能力強化』『状態異常治癒』のエンチャントが付与されている。

 地獄の番犬をイメージして作られた鎧は、主を守り・主に忠実であり・主に尽くす意思を込められて創造されており、意思を持つ。


 【アームズリング】「レアリティ SR」

 装着者が指定した武具を登録して専用化し、内部で保管できる指輪。

 意思に応じて、瞬時に着脱が可能になる。

 内部に保管している間は、武具の清潔化・修復が自動で行われる。


 「馬鹿を言うな!愛用していたとはいえ、あの程度の武具など王都に行けば幾らでも用意出来る。国王でもこんな馬鹿げた性能の武具は所持して居らんよ!」


 俺は首を横に振ると、言葉を続ける。

 

 「貴方は、この国......この辺境に無くてはならない存在です。決して無駄に命を落とす事があっては為らない!父が貴方に本気の忠誠を捧げる理由を理解しました」


 「しかし、強大な力は持ち主を狂わせる。戦いを好む俺が一番良く知っている」

 「ならば、道を誤れば私が介錯致しましょう。その武具に相応しい主であり続けてください」


 長い沈黙が、張り詰めた空気を更に重く感じさせる。

 言葉に込められた思いが、これほどのプレッシャーを持つのかと、アーネストは今までの人生を振り返る。

 男とは、貴族とは、と自分に問いかけ続け、戦いに命を散らしていった部下の遺志を受け継ぎ生きてきた。

 我が子の未来の為に、辺境の明日を作る為に、笑顔で散っていった同胞の命を背負って生きる。


 「ケイよ。お前の心、確かに受け止めたぞ。この国の...いや!大陸の歴史に名を刻む程の生き様を見せてやる!俺達が辺境に夢見た希望を形にする。この国の守護者として...俺は未来を導くぞ!」


 その覚悟に反応したのか、黒い光と化した【黒魔法銀の全身鎧ガルム】がアーネストの身を覆った。

 神達に見守られて創造され、誇り高き意思を持つ鎧が、この男こそが我が主だと認めた証であった。



 この夜に誕生した英雄は、後の世にまで名声を轟かせる事となる。

 

 インフィナイト王国の【黒き守護神】は一騎当万の大英雄。

 指揮する軍団はアーネストの番犬と呼ばれ、任務を確実に遂行する精鋭中の精鋭であり、国を侵す者は全てを完膚なきまでに打ち払う。

 

 高潔な人格と、民を愛する心を持った英雄の求心力は、自国だけでは止まらず、他国の民まで魅了して尊敬を一身に集めた、英雄アーネストの元で生きていきたいと、大規模な移民集団まで発生した程であったという。

 インフィナイト王国の王宮内にはアーネストの像が置かれ、代々の国王には「アーネストの如くあれ、アーネストの生き様に学べ」と口伝され続けている。

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