第14話模擬戦の終了と賑やかな食卓

 「素晴らしい腕前だったよ?流石はグレイの息子だなケイよ」


 背後から声を掛けてきた人物は予想通り、アーネスト辺境伯だった。



 「まずは、優勝おめでとう!良い戦いだったぞ」

 (ケイよ、ステータス隠蔽スキルを持っているな?真実を話せよ?)


 ぐう、やっぱりばれたか。

 流石に目が肥えた人を誤魔化すのは無理か。


 「ありがとうございます。まだまだ未熟な腕ですが、両親の教えに従い、これからも腕を磨いていきます」

 (ご慧眼恐れ入ります。確かにステータスを隠蔽しています)


 「うむ、これからも腕を磨いて、父と同様に辺境の為に尽くしてくれ」

 (そうであろうよ。何千と人を見てきたこの目を誤魔化す事など出来よう物か)

 

 「それではこれで模擬戦は終了とする!兵士が褒賞を渡す故、名前を呼ばれた者は受け取って帰るように」

 (なに、悪いようにはせんよ。お前が王都で大暴れするのが楽しみで仕方が無い)


 「模擬戦の結果は、選ばれた参加者各自に追って通達する事とする」

 (お前の様な実力者が辺境に生まれてくれて嬉しく思うぞ)


 そう言って踵を返すと、アーネスト辺境伯は部下に後を任せて去っていった。

 なんともさっぱりとした人だった。

 俺の見立てが間違っていなければ、立場を振りかざしたりする人では無いだろう。


 「ケイ殿!ケイ殿は居られますか?」


 兵士が褒賞を持って現れたので返事をして受け取った。

 褒賞の入った袋はズッシリと重く、中身を確認すると金貨が50枚も入っていた。

 そして、金貨に埋もれて俺宛の手紙が入っていた。



 『今夜0時に町の正門に来るように』 アーネスト・ライト



 やっぱり、お疲れ様でした。めでたしめでたし....とはいかないか。

 予想通りの結果に、逆にスッキリした。


 「良くやったな!ケイ」

 「まさか本当に優勝するなんてね!決勝なんか見ていて興奮したわよ?」

 「ケイも立派になったわね」

 「ケーイ!凄い!私の弟はやっぱり最高の弟だったわ!」

 「おにーちゃん強い!シュッ!シュッってやっつけた!」


 「皆が応援してくれたおかげだよ!ありがとう。父さん、これが今回貰った褒賞だよ」


 賞賛の声と共に家族全員に迎えられた俺は、褒賞を父に渡そうとしたが、拒まれて返された事に疑問を問いかけた。


 「子供には過ぎたお金だよ?」

 「それはお前が実力で稼いだ金だ。何に使っても文句は言わん」

 「そうよ?それはケイが自分で勝ち取った、初めてのお金よ」

 「....分かった。本当に必要な事に使うよ」


 始めて持たせて貰った大金だから、有効に使おう。

 まぁ、アイテムボックスの中には金銀財宝なんて言葉じゃ、生温い程の莫大な財があるんだが、それはそれこれはこれって事で、ありがたく頂いておこう。


 「さぁ!今日は久しぶりに外食でもしましょうか!」

 「勿論そのつもりだったが、先に言われてしまったな」

 

 さっそくイチャイチャし出す両親に頭が痛くなった。

 暇さえあればくっ付いているこの二人は、いつまで新婚気分なんだろうか?子供を二人生んでもまだ足りないらしい。

 夫婦仲が良いのは素晴らしい事だが、場所は選んで欲しい物だ....ってレインまでうらやましそうにして...それを抱き寄せる父さんの抜け目の無さが夫婦円満の秘訣か。ジゴロ親父め!やりおるわ!


 流石に、酒場は教育に悪いと思ったのか、まともな食堂に入った。

 緑の森亭は、この町にある3件の食堂でも一番旨いと個人的に思っている。

 何より、看板娘のリーナが可愛いのがポイントだ。


 「いらっしゃいませ~ってグレイさん一家じゃない!?ケイ君、優勝おめでとう!私も見に行ってたのよ?」

 

 祝福の言葉を送ってくれたのが、看板娘のリーナだ。

 今年で14歳になる元気で明るい子で、14歳とは思えない発育具合に、俺の視線は上に行ったり下に行ったりで忙しい。

 何はどうとは言わないが、素晴らしい肢体から目が離せない.....素晴らしい素材だ。


 「ケーイー?どこ見てるのかな?この姉という者がありながら....あんな駄肉に視線を奪われるなんて!そんなにこれが良いか!これなのか!?」


 リーナの後ろに回りこんだ駄目姉が、90は楽にあろうかという肉球をポヨンポヨンと弄ぶ。

 うむ....絶景なり、まだ目覚めていない息子が目覚めてしまいそうな光景だ。


 「あん...ちょっと!ミーシャさんてば何するんですか!これは玩具じゃありませんよ!?」

 「良いではないか!良いではないか!ここか?ここがええのんか?」

 

 オヤジになり始めたミーシャだが、妙に手馴れた手つきでセクハラを続ける。

 

 「もう...やめ....ミーシャさん....ああ...もう」

 「先っちょだけ、無理だったらあきらめるから!ちょっとだけ、ほんの一寸でええんや」

 「ええんや~」


 不味い、ライムまで混ざり始めただと...非常に惜しいが、教育に悪いのでここで止めよう。


 「止めなさい!今度から馬鹿ミーシャって呼ぼうかな?」

 「すぐ止めるから!もう止めたからケイ!だから、お姉ちゃんって呼んで!」

 「どうしようかな~?」

 「許して!お姉ちゃんって呼んで貰えなかったら生きていけない!」


 そこまでか、この姉は踏み込んじゃいけない領域まで、ズブズブに足を踏み入れているんじゃなかろうか?

  

 「ありがとうケイ!ミーシャさんの暴走を止めてくれるのは貴方だけよ!」

 「こっちこそ馬鹿な姉がごめ...ムギュ」


 ここは桃源郷か?弾力に富んだ二つのアレに挟まれて窒息しそうだ。

 だが、抵抗する気が起きない....もう...意識が....。


 「こらケイ!その乳魔人から離れなさい!」

 「ち...乳ま..まじ、ミーシャさん!私だって気にしてるんですからね!」

 「何が気にしてるってのよ!この乳でケイを誘惑して私から奪う気なんでしょ?そうなんでしょ?」


 本題から逸れて二人が暴走し始めた所でストッパーが現れる。

 ガツンとゲンコツが振り下ろされてミーシャが悶絶する。 


 「ぬわーー!!あ...頭が割れる...割れた..ぐぐぐぐぅ...」

 「この馬鹿娘!いい加減になさい!」


 そう、怒ったレインは鉄拳制裁という伝家の宝刀を抜くのだ。

 ゴロゴロと転げまわるミーシャが復活するにはしばらく時間がかかるだろう。


 「お仕事の邪魔しちゃってごめんなさいね、リーナちゃん」

 「い、いえ私こそお客様を置き去りにして....すいませんでした」


 そう言って席に案内しようとするが、既に父さんと母さんが席を確保しているのを見て肩を落とした。

 この茶番は店に来る度に行われるので、みんな慣れた物である。


 「もうマスターにいつものを注文してあるから、何か欲しければ別で頼んでね」

 「お前たちは毎度毎度騒がしいなぁ、父さんと母さんを見習いなさい」


 他の客も「いや~これが無いとな!」「久しぶりに見たわ」と笑っている。

 流石に狭い町だから、メンツもいつもの顔馴染みばかりだ。

 料理と飲み物が全員に行き渡ったのを確認した父さんが音頭を取る。


 「模擬戦優勝おめでとう!ケイもいつの間にか一人前になっちまったな。だが、それでこそ俺達の息子だ!誇らしく思うぞ?これからのケイの活躍を祈って、乾杯!」


 「「「「「かんぱ~い!」」」」」


 乾杯を合図にしたのか、リーナが続々と料理を運んでくる。

 なにせうちの一家は全員が良く食べるので、先に運ばれていた前菜なんか一瞬で無くなってしまうのだ。


 シャキシャキの新鮮な野菜のサラダは、酸味のあるドレッシングがかかっていて、食欲が刺激される。

 カリカリのクルトンと細かく砕いたナッツがふんだんに振りかけてあるサラダが、濃厚なクリーム仕立てのスープに合う。

 スープの中に入っている鶏肉はクロック鳥の若鶏だろう。

 ハーブやナッツだけを食べさせて育てた、この店自慢のクロック鶏は、マスターが手塩にかけて育てた極上品だ。

 

 僅かにだけ王都に下ろしているが、常に年単位で順番待ちとなっている状態だという。

 その肉質はとても柔らかくジューシィで、噛むとジュワーっと肉汁が染み出してくる。

 そんな極上の鶏肉をじっくりと煮込んだスープは、何度でもお代わりが欲しくなる逸品だ。


 次に運ばれてきたのは、近くの川で取れたラウトのソテーだ。

 ラウトはマスのような魚だが、どの時期に獲ってもしっかりと油が乗っていて、咀嚼するとホロホロと口の中でとろける様に崩れていく。

 たっぷりのバターと香辛料でソテーされたラウトに、マスターオリジナルのスパイスを振りかけた香り豊かな料理である。


 「ん~おさかなさんはおいち~!」

 「ラウトはいつ食べてもおいしいね~?ライムはコレがあればいつもご機嫌だもんね~」

 「ごきげんだよ~?ライムはおさかなさんがだいすき~」


 パクパクとラウトのソテーを口に運ぶライムは、頬っぺたを押さえて至福の表情だ。

 そんな顔を見ていると俺まで食いたくなってくるから不思議だ。


 「ケイは魚よりも肉が好きだと思ったんだけど、今日は魚も沢山食べるのね。今度の晩御飯の献立にもラウトを使おうかしら?」

 「わ~い!やったー!!おさかなたべれるよ~!」


 レインの呟きを敏感に察知したライムが歓喜の叫びを上げる....が、直ぐ視線がラウトに釘付けになった。欲望に忠実な5歳児である。


 「ケイ~!大好きなブルのステーキがやってきましたよ~」

 「リーナ!待ってました!コレが無いと駄目なんだよ」


 熱々の鉄板の上でジュワーっと音を立てるブルの特大ステーキが運ばれてくる。

 マスター自慢の熟成肉は、絶妙な加減で寝かされており、日本で食べたA5ランクなんて比べ物にならない。

 その絶妙な霜降り具合と柔らかさに加えて、ナイフを入れた時に出てくる肉汁がハンパ無いのだ。

 旨みがギッシリと凝縮された肉汁は、それ単体で料理ですと言っても通用するような味であり、この肉汁をパンに吸わせて食べると最高に旨いのだ。


 「んまい!!!コレがあるから堪らないのだーーーー!!!!」

 「うふふ、口一杯頬張っちゃって、ケイはブル中毒なのかしら?お父さんの料理は肉だけじゃないのよ?まったく」


 そう言いながらも、口元についた肉汁を拭ったり、お代わりの皿を持ってきて入れ替えたりと、甲斐甲斐しく世話を焼くリーナだった。

 一人の客に構ってばかりで良いのか?と言いたくなるが、この店に来る常連の酔っ払い共は勝手知ったる何とやらで、マスターにアレが飲みたいんだが?これは無いのかと厨房に侵入しては欲しい物を強請るのだ。


 その内呆れてオーダーを取るのも馬鹿馬鹿しくなったという有様だ。

 マスターも諦めたらしく、やりたい様にやらせている。

 食材を持ち込んで、残りは全部店で使ってくれと置いて行く様な、気の良い奴等なのだ。

 得する事はあっても損はしないので、愛すべき常連客となってしまっている。


 「ケイったら、言動は大人みたいなのに、まだまだ子供ね?」

 「ムグ、旨い物には勝てない年頃なんだよ」


 されるがままに為っている俺だが、食べる手は止めない。

 極上の晩餐の前にはプライド等紙切れに等しい。


 「駄目です!ケイの世話は私がしますから、リーナは仕事に戻りなさい!」

 「ミーシャさんはお客様なんだから、ご飯を食べてくれれば良いんです!ケイは私が世話しますからコレでも食べててください」

 「んむ!?」


 口の中にパンを突っ込まれたミーシャだったが、極上の肉汁をたっぷりと吸ったパンの魔力には抗う事が出来ず、頬を緩ませてとパンを咀嚼している。


 「ライムも!ライムも!」 

 「はーい、ライムちゃんあーん♪」

 「あーーうんむ.....んー♪おいちー!」


 賑やかな晩餐は夜遅くまで続いた。

 ああ、こうやって毎日が満たされている人生っていうのは、お金には変えがたいなぁ。

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