第13話【レッドストーン若獅子戦】10歳児が無双する

 昨晩は夕食を食べる時に父さんに宣言した。

 必ず優勝するから、優勝したら狩りは自由に参加出来るようにして欲しいと、一瞬悩んだグレイだったが、「本当に優勝出来る実力があるんなら良いんじゃない?」と母さんが後押ししてくれたので、不承不承ながらも首を立てに振った。


 翌朝、朝食もバッチリ食べて、軽く腹ごなしに運動をする。

 しっかり柔軟をした後、箱庭で鍛えた短剣術の型をなぞる。

 こっちの世界じゃ、護身用で父さんが少し使えるくらいで、短剣術を教えてくれる人なんかいなかったので、我流で考えた事にしてある。(どこまで誤魔化せるやら)


 「ふっ!はぁ!」

 

 突き、払いとテンポ良く繰り出し、体術と組み合わせた動きを意識して、足運びを徐々に鋭い物に変えていく。

 だんだんと刻むリズムが早くなり、ピュッピュッっと短剣が風を切る音が奏でる旋律に興が乗ってくる。

 

 「シッ!らぁ!フッ」


 イメージした敵の喉を貫き、蹴り飛ばす所で演武終了。



 「えい!とう!」


 いつの間にかライムが真似をして木の棒を振っている。

 可愛い掛け声はともかく、良く動きを見ているな。足運びもまだまだ拙いが、5歳児のやる事だと思えない完成度だ。


 「それじゃライム、お兄ちゃんは若獅子戦に参加してくるから。姉さんと一緒に応援に来てくれよ?」

 「うん!おひるごはんもっていくよ!」


 元気の良い返事でシュビ!っと手を上げるライムへ、「行ってくるね」と手を振ってから会場へ向かう。

 町の入り口を抜けて、簡単に作られた模擬戦用の会場へ向かう。

 

 「君は参加希望者かな?」

 「はい!グレイの息子でケイと言います、歳は10歳です」

 「えっと...ケイ君だね?.....ああ、あったね。良し確認完了だよ」


 受付役の兵士に挨拶すると、確認完了後に6と書かれた木札を貰う。


 「これが君の番号札だよ。戦う順番が来たら番号を呼ばれるから、聞き逃がさないようにね」

 「ありがとうございました。わかりました。」


 10時になり、開始時刻になるとアーネスト辺境伯が現れる。

 今日はしっかりと鎧を着込んで、ズバリ騎士だという出で立ちだ。


 「それでは、これより 【レッドストーン若獅子戦】を開始する。己の持てる力をすべて出し切って望むように」

 

 1番、2番と順番で呼ばれて試合を始めていく。

 5番、6番と呼ばれて、自分の出番が来る。


 「よろしくお願いします。」「よろしくね」


 12歳位の少女が対戦相手だった。

 弓を構えてこちらを狙っているが、左右にステップを踏んで狙いを絞らせない。

 ...来る!頭を下げて回避すると、ダッシュして一気に距離を詰める


 「え?っわ!」

 「はい!おしまい」


 慌てて弓を捨てて短剣を抜いたが、既に俺の短剣が首筋で寸止めされている。


 「勝負あり!6番の勝ち!」


 「ありがとうございました!」「あ..ありがとうございました」


 礼をして離れる。

 ふぅ、まぁこの位は当たり前だ。慢心しずに行こう。

 弱いフリをしながら勝つのも結構面倒だな。


 二回戦が始まったが、次の相手にも難無く勝った俺は、休憩がてらライム達の所に足を運ぶ。


 「おにーちゃん!こっちー!」


 尻尾を振る犬の様に、ブンブンと手を振るライムを見つけると、一家全員で応援に来てくれたらしく、父さんや母さんだけじゃなく、レインまで家事の手を止めて駆けつけてくれていた。


 「おにーちゃんすっごい強い!強い!」

 「流石は俺の息子だ」

 「違うでしょ?流石は私達の息子ね」

 「ケイの格好良い所を見せて貰いましたよ」

 「私の自慢の弟ね!姉さんは鼻が高いわ!」


 口々に褒められると、照れくさくなってくる。


 「あれ位は当たり前だよ。優勝するって言ったじゃないか」

 

 地面に敷かれた毛皮のシートに座ると、ライムを抱えて座る

 撫でてくれ撫でてくれとライムの頭が左右に揺れるので、ガシガシと乱暴に撫でると「キャーキャー」とくすぐったそうに暴れる。


 「ライルさんやエイミーさん位が相手じゃ無いと張り合いが無いよ。油断する気は無いけど、父さんや母さんに鍛えられたんだよ?歳の近い子には負ける気がしないよ」

 「生意気言う様になったじゃないの。そこまで言うんなら約束を果たしなさいよ?」

 「しなさいよー?」


 母さんに合わせてライムにまで言われちゃあ負けられないな。

 

 「はい、ケイの好きなブルのミルクよ」


 皮袋に入ったミルクを手渡されたので、遠慮無く飲む....冷たい?キンキンに冷えてる。

 ニヤリと悪戯が成功した事に満足したのか、ミーシャが言う。


 「どう?お姉ちゃんも魔法くらいは使えるんだからね!」


 エヘンと張った胸がプルンと揺れるのにドキッとしたが、顔に出すとまた調子に乗るので、ポーカーフェイスで言い返す。


 「へぇ、姉さんもやれば出来るんだね?この前は失敗してお風呂が凍っていたけ...」

 「あああ、あれはワザとですー!練習してみたんですー!」

 「えー?おねーちゃん?どーしよう?おこられるー!!!っていって、ムグ」

 「そんな事無いよ?無いんだからね?」


 あせあせと顔色をコロコロと変えるミーシャ、そんな可愛らしい姉を見ていると悪戯をしたくなってしまうが、これ位にしておこう。


 「ふー、ご馳走様。それじゃ続きがあるから行って来るよ」

 「おにーちゃんがんばってー!ライムいっぱいいっぱいおーえんするよ!」

 「ケイ頑張れー!」


 珍しく声を張り上げるレインと元気一杯のライムに見送られて試合場所に向かう。

 次は...エイミーさんか!これは面白くなりそうだ。


 「次!1番と6番の試合を始める!...始め!」


 「誰が相手かと思えばケイじゃないの、悪く思わないでよね!勝たせて貰うわ」


 素早く接近したエイミーは両手の短剣を投擲すると、格闘戦狙いなのか一気に間合いを詰めてくる。

 だけど、甘いな。勝負を焦りすぎて足元がお留守だぜ?


 攻撃がそのまま防御になるってのは、こういう事を言うんだぜ?

 急激に姿勢を落として水面蹴りを放つと、完全に上手く入った為にエイミーが宙に浮く。

 尻餅をついたエイミーに圧し掛かり、首と胸に短剣を突きつける。


 「そこまで!勝者6番!」


 負けると予想されていた俺がエイミーを一蹴した所為で、場は大盛り上がりで完成が響く。

 

 「参ったわ。本当に10歳なの?ここまで簡単に負けたのは父さんと戦った時以来よ?大きくなったら旦那に貰いたいくらいだわ」


 冗談なのか本気なのか分からないが、ミーシャから殺気が漏れ始めたので握手をして別れる。 

 ...一番強いのはミーシャなんじゃないだろうか?


 準々決勝も準決勝も大した事無く、楽勝で対戦相手を下すと、いよいよ決勝戦だ。 

 予想通り対戦相手はライルだった。


 「やっぱり決勝戦はお前さんが相手だったかケイ」

 「まるで分かっていたかの様な口ぶりですね?ライル兄さん」

 「当然だ。この町で俺とまともに戦えるのはエイミーかケイしか居ないと思ってた。」


 冷たい眼光を向けたライルは既に戦闘態勢を整えている。

 一応、会話をしているのに気を使っているのか、審判は開始の合図をしない。


 「10歳とは思えない戦闘技術と胆力を今まで何回も見せられてるんだ。気が付かない方がどうかしている」

 「悪いですけど優勝は譲れませんよ?」

 「抜かせ!俺が優勝して王都へ行くんだ!」


 「それでは決勝戦を始める!.....始め!」


 即座に矢を抜き放つと、胴体を狙って2連射しながら距離を取り、更に3連射してくるライル。

 その矢捌きは正確で、ここまで隠していたのか矢羽を千切る事で、真っ直ぐ飛ばない曲射の矢を混ぜてくる。

 その熟練した技術は、大人のハンターだって度肝を抜かれる様な技である。


 はは!こりゃ参った。ステータスに頼らない強さを身に付けているなんて。

 侮りすぎていた事を反省しよう。

 ここからは俺も本気で相手するぜ!


 ギラリと野獣のような眼光を放った俺が突進してくるのに合わせて矢を放ってくるが、2射3射と短剣で切り払うと、更に速度を上げて突っ込む。


 「はぁ?この距離で矢を払うとかふざけんな!」


 弓を振り回して蹴りを放ってくるが、全て短剣の刃先で受ける。

 刺突の連撃で動きを制限して、つま先を踏みつける俺に、しまった!と思ったのか体重差で強引に抜け出そうとする。

 

 「駄目ですよ?戦いは二手三手先を読まなきゃ負けます」


 力を入れた瞬間に踏んでいた足を離すと、これも予想外だったのだろう、たたらを踏んだライルの足を払うと簡単に転倒した。


 素早く持っていた二本の短剣を投擲すると一本は首の横に、もう一本は服を刺し貫いて左脇に刺さった。

 

 「ま..参った!降参だ!」

 「それまで!勝者...ケイ!」


  

 つい興奮して本気を出してしまった。

 全力出したら死んでしまうので、本気を出したのは技術的にだが....不味かったかも。


 「素晴らしい腕前だったよ?流石はグレイの息子だなケイよ」


 背後から声を掛けてきた人物は予想通り、アーネスト辺境伯だった。

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