第12話幸せの味がする飴玉

 翌日、アーネスト辺境伯は動きを開始した。

 町の中央広場に建てられた看板にはこう書かれている。


 将来、この辺境で活躍するであろう若者には、自分と周囲の実力を知ってもらいたい。

 強くなるには明確な目標と、日々の努力が必要不可欠である。

 この訓練はそんな若者達の覚悟と意志の確立を促すものであり、努力をしている者が周囲に自分の積み重ねた物を発表する場でもある。


 【レッドストーン若獅子戦】

 開催日時 明日の午前10時~


 参加制限は10歳~18歳まで、戦闘を経験した事がある者に限る。

 性別は問わない。武器は訓練用の武具を使用するが、特に武器の種類に制限は無い。

 優秀な回復魔法使いが複数待機している為、怪我をしても治療はこちらで責任を持って行う。

 我が目に止まった者、優秀な成績を残した者には褒賞を約束する。


 又、王都で行われる武術大会に参加する権利を与える。

 旅費や滞在中の経費はこちらで負担するし、僅かながら自由に使える特別報酬も与える。

 武術大会で結果を残したならば、辺境伯領軍での特別待遇も視野に入れる物とする。



 大盤振る舞いだな。

 結果さえ残せば、大量の報酬が貰えるだけで無く、未来まで保証される。

 まぁ、勝てればの話だけどね。 

 

 ザワザワと騒いでいる声を聞いていると、これは【レッドストーン】だけで無く【ブルーストーン】や【イエローストーン】でも行われるらしい。

 【レッドストーン】が一番の粒揃いだというグレイの報告によって、辺境伯が直接見に来る事にしたらしい。

 

 これは面白い事になった。

 この若獅子戦は、正式にモンスター狩りへ参加する理由を手に入れるチャンスだ。

 ここで優勝すれば父さんも否とは言えまい!むふふふ、辺境伯様のおかげだな。



 「俺はやるぞ!絶対に勝って大物になってやる!」


 そう息巻いているのは、今年成人したライルだな。

 面倒見も良いしルックスも抜群で、若い女の子にも人気のイケメンだ。

 これでモテない方がおかしいだろう。


 【ステータス】


  ライル (16) LV16 種族 ヒューマン ジョブ ハンター

  HP 210/210 MP 158/158

 スキル 『生産技能』採取 LV11 農業 LV8 狩猟 LV24 

      『便利技能』ステータス LV11 鑑定 LV18 足跡追跡 LV8 気配隠蔽 LV9

      『戦闘技能』格闘 LV8 武具習熟 LV15 兵器習熟 LV14 


 ハンターを目指して修行中だって聞いたけど、成人したから王都へ行ってジョブを授かったみたいだな。前に見た時と職業が変わっている。

 俺が見る中でも、若手の最有力候補だろうと思う。

 狩りの時も冷静沈着で、無事に帰りつくまで油断しない用心深さも兼ね備えている。


 「私にもチャンスはあると思うんだけど?まぁ、褒賞が貰えるだけでも満足だけどね」


 【ステータス】


  エイミー (17) LV17 種族 ヒューマン ジョブ スカウト

  HP 200/200 MP 166/166

 スキル 『生産技能』採取 LV21 農業 LV15 狩猟 LV14  料理 LV12

      『便利技能』ステータス LV7 鑑定 LV10 気配隠蔽 LV12 気配察知 LV13 マッピング LV 14 

      『戦闘技能』格闘 LV15 武具習熟 LV12 兵器習熟 LV9 不意打ち LV8


 こっちは去年成人したエイミーさんだ。

 お父さんが優秀な斥候として辺境伯軍に所属している凄腕だからか、教えを受けてメキメキと腕を上げていると、父さんも一押しの斥候見習いである。

 戦闘技術も確かに高い物はあるんだが、駆け引きや精神力の強さという闘争面ではライルに劣る部分がある。


 他にも若手でも評判の者が数人いるが、ここには来ていないらしい。

 何にせよ、優勝を譲る気は無いのだ。俺と同じ町に生まれた不幸を呪ってくれ。

 

 「おにーちゃん...おにーちゃん?」

 「ああ、ごめんねライム。明日はみんなで戦う日なんだってさ」

 「やる!ライムもやる!ていっ!ってする」


 俺の真似でもしているのか、短剣を振る仕草を繰り返すライムだが、5歳児にしては妙に様になっている。

 門前の小僧という奴かね?才能はありそうだな。

 

 【ステータス】


  ライム (5) LV2 種族 ヒューマン ジョブ な■し■

  HP 20■/20■ MP 16■/16■

 スキル 『生産技能』採取 LV2 農業 LV1 

      『便利技能』ステータス LV1 鑑定 LV1 ■■■■■

      『戦闘技能』格闘 LV1 武具習熟 LV1 ■■■■■



 ......は?何か見えたぞ。絶対何かおかしかった 


 【ステータス】


  ライム (5) LV2 種族 ヒューマン ジョブ 使徒

  HP 200/200 MP 160/160

 スキル 『生産技能』採取 LV2 農業 LV1 

      『便利技能』ステータス LV1 鑑定 LV1 寵愛 LV20

      『戦闘技能』格闘 LV1 武具習熟 LV1 降神 LV1


  加護  ■■の加護


 どうしてこうなった!?

 教えて【百科事典】ウィキペディアさん!


 【解】神、神族、複数の加護を持った存在から寵愛を受けると職業が変化する事があります。

    今回の場合は、ケイ様の加護を得たのが原因です。

    加護を得た存在の正確なステータスやスキルは、鑑定のMasterレベルの所持者か、神殿で鑑定神or職業神の神託を受けなければ表示されません。

    現状で違和感を感じる事が出来る存在はケイ様のみです。


  加護  ケイの加護


 .....俺が原因だった!?

 下手な神くらいの神格を有しているって事かよ。

 撫で撫でし過ぎたのがいけなかったのだろうか?いや、ライムを撫で撫でしないという選択肢は存在しない。

 くっ...こうなれば何かあれば俺が責任持って守るしかあるまい。

 

 「こう!こうだよね!おにーちゃん!.....えへ~」

 「残念だけどライムはまだ小さいから参加出来ないんだよ。撫で撫でしてあげよう」

 

 俺はこの可愛い妹の為ならば、国だって敵に回してみせよう!むしろ滅ぼす勢いだ。

 

 「こーらー!!ケイ!お姉ちゃんも撫で撫でを所望します!」


 いつの間にか現れたミーシャに抱きつかれた。

 ケイ~ケイ~とか言いながら後ろから抱き着いて頬擦りしている....暑苦しいぞ。

 仕方ないのでライムのついでに撫でてやろう。


 「なんだい、またあんた達かい。仲が良いねぇ」 

 「ラムおばーちゃん、こんにちわ!」


 とてててて、と走っていったライムはラム婆さんにまで撫でられてご満悦だ。

 どこでも誰にでも愛嬌を振りまく、我が妹が心配になってきた。


 「ライムは良い子にしてるかい?」

 「うん!ライム良い子だよ!一人でおるすばんできるよ!ごあいさつもちゃんとするもん!」


 エッヘンと胸を張るライムが可愛くて、よしよしと婆さんが繰り返し撫でる。


 「そうだね。良い子にしてたライムにはご褒美をあげるよ」

 「わ~い!やったー!!」


 キラリと太陽光を反射して輝くのは、透明な包み紙で包まれた琥珀色の飴玉だった。


 【ラム特製ハチミツ飴】「レアリティ Rレア」

 水晶黒砂糖と琥珀蜂のハチミツを煮詰めて作った飴。

 特殊な配合で混ぜた果物の果汁を球状に結晶化させた、果汁飴が中心に入っている。

 王都でも中々お目に掛かれない、一粒で二度美味しい飴。


 コロンと手の平に3つの飴を転がされ、キャーキャー言って喜んでいる。

 我慢できずに包みを開けると、さっそく口に頬張ってコロコロと口の中で転がし始めた。


 「んんん~~!!!おいち~!!」


 ピョンピョンとラム婆さんの周りを飛び回るライムを見ているとこっちまで幸せになってくる。

 ....周囲のみんなも暖かい視線を送ってほっこりしている。

 ああ、また幸福伝染体質が発動して人を呼び寄せている。


 「こうやって美味しそうに食べて貰うと、アタシも作り甲斐があるってもんさね」

 

 皺だらけの顔がもっと皺だらけになってるぜ婆さん。

 ラム婆さんはこの町でお菓子屋さんを営んでいる。

 跡継ぎの息子さんとその嫁さんが、あの絶妙な味を覚える為に、日々修行しながら手伝いをしている。


 「ありがとう。また今度買い物しによらせて貰うよ」

 「ああ、大人ぶってるけどケイも子供なんだから、たまには自分用の菓子も買いにきなよ?」


 そう言うと、俺の手にも飴玉を握らせると歩いていってしまう。

 包み紙を開けて飴玉を口に入れると、久しく味わっていなかった懐かしい味がした。

 うん、美味いや...地球でもこんな美味い飴は食べた事が無かった。


 「ケイも若獅子戦に出るんでしょ?ケガしないでって言うのは無理だろうけど、頑張りなさいよ?応援しにいくからね!」


 応援の言葉を掛けながらも、ミーシャまで飴玉をコロコロと口内で転がしている。

 ライムと俺とミーシャで手を繋いで家に帰った。

 そうか、飴玉が美味しいのは勿論だけど、この幸せな時間がスパイスになっているんだ。


 笑顔を広げるラム婆さんの飴玉は...幸せの味がする。

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