第11話お偉いさんが町にやってきた。

 あれから5年経ち、俺は10歳になった。

 最近では狩りに連れて行って貰える事もあり、少しだけ成長したように演技している。

 騙すのは心が痛むが、全てがバレてしまったらどんな態度に変わるのだろう?と考えると、真実を打ち明ける事も躊躇われる。

 結果、様子を見る事にするかなと、結局は問題を先送りにした俺だった。

 

 あれからステータスを調べて分かった事だが【至高神の加護】は複数の効果を持っているが、発動した効果以外は解析すら不能だという事。

 ステータス隠蔽で表示しているステータスは、この世界の成長基準に合わせて能力が上昇していくらしいという事だった。(ただし、自分でも内容は操作出来る)


 この10年の成果と言えば、狩りに連れて行って貰う機会を作る事が出来た。

 家事や野良仕事を手伝うようになり、生産技能が増えて成長した事である。(偽物のステータス上だがな)


 同年代の子供達とも遊ぶが、基本的には妹ライム(5)の教育係をしている。

 現在のステータスを表示してみるが、あまり成長していると言うほどでも無いのだが、この世界基準だと3倍近い成長速度らしい(マジかよ)


 町の大人達には将来有望な子供だと噂になっている。

 流石はグレイの息子だと言われて、父さんも満更ではないようだ。


 【ステータス】


  ケイ (10) LV13 種族 ヒューマン ジョブ 無し

  HP 130/130 MP 103/104

 スキル 『生産技能』採取 LV7 農業 LV3 狩猟 LV4 木工 LV3 料理 LV2

      『便利技能』ステータス LV7 鑑定 LV10 早熟 LV2 撫でる LV19

      『戦闘技能』格闘 LV2 武具習熟 LV2



 ちなみに父さんはこんな感じだ。


  グレイ (33) LV73 ジョブ 重斧戦士ヘビーアックスウォーリアー 種族 ヒューマン

  HP 830/830 MP 684/684

 スキル 『生産技能』採取 LV37 農業 LV33 狩猟 LV44 木工 LV13 料理 LV5 細工 LV7 

      『便利技能』ステータス LV51 鑑定 LV60 大器晩成 LV23

      『戦闘技能』格闘 LV42 武具習熟 LV47 兵器習熟 LV33 指揮 LV35 怪力 LV34 挑発 LV39 肉体強化 LV41 力強化 LV35


 流石は辺境を腕一本で支えて来ただけある。

 町の英雄クラスでこの実力なのだ。全体のレベルが高くない事はお察しだ。

 この町の平均レベルが50程度だったが、過酷な辺境でこれなのだから、安全な王都周辺だとかなり質が低いだろう。

 期待できるのは正規軍だけなんじゃないだろうか。


 妹のライムは俺にべったりで、狩りに出かける時以外はずっとくっついて来る。

 別に人見知りというわけではないのだが、両親よりも懐いていると言っても過言では無いであろう懐き具合だ。


 「おにーちゃん、おにーちゃん!....えへへ~」


 この通りだ、名前を呼ばれては撫でるを、飽きずに繰り返している内に撫で撫で中毒にでもなってしまったのだろうか?

 撫で過ぎてスキルにまで反映されただけで無く、全スキル中でダントツのトップである。

 俺と同じで、母さん譲りの白銀色のサラサラした髪は手触りが良い。


 ミーシャも18歳になったのに、事ある毎に俺に構ってくるのだ。


 「ケイ!お姉ちゃんも撫で撫でを所望します!」 


 何故かライムに対抗して、撫でてくれと言って来る姉は何がしたいのだろうか?

 「この撫で撫では姉を駄目にする」とか「くっ..こうやってケイは女を毒牙に掛けていくのね」とか訳の分からん事を呟いている。

 こっちは父さんやレインと同じ金髪だが、少しクセがあって強く引っ張るとクルンと丸まってしまう髪質をしている。


 成人祝いはリボンだったから、今度は櫛でも作ってプレゼントしてやろうかと思案していると、母さんが家に帰って来た。


 「3人とも揃っているのね、町に辺境伯が来られたみたいなの。グレイと一緒に挨拶に行く事になると思うから、今晩はレインと4人で夕食を済ませておいてね」


 そう言うと部屋に戻り、出かける準備を始めた。

 グレイも時間差で戻って来たが、同じ様な内容の事を告げると部屋に戻っていった。


 「ミーシャ、辺境伯って凄いの?父さんよりも強いのかな?」

 「それは勿論ですよ。貴族様はハイヒューマンなのですから」

 「ハイヒューマン?何が違うの?」


 ミーシャ曰く、ハイヒューマンとはヒューマンの上位存在で、全員が特殊な力を持っているらしい、しかも寿命もヒューマンの倍近くあるらしく、身体能力もかなり高いとの事だ。

 貴族様は全員が高貴な血筋を継いでいるから、我々のような奴隷や平民は歯向かう事など許されません!と鼻息荒く語る姉に若干引いた。


 へぇ、俄然興味が湧いたな。

 ちょっと見物しに行こうかな。

  

 「ケイ、ちょっと見に行こうかな?なんて思っていませんか?駄目ですよ!失礼があってはいけませんから家で大人しくしていてください」


 離しませんよ!と言わんばかりにギュッと抱きついてくる、姉の頬を手で押し返しながら逃れる俺は、侵入の算段をする。

 目標は町の中心にある、領主が滞在する館である。


 食事を済ませた後、片付けを手伝うとライムを寝かし付けて、自分も寝ると言って部屋に引き上げる。

 召喚魔法でリンキを呼び出すと、闇魔法の幻覚で姿を俺そっくりに変えると代わりに布団で寝ているように指示する。

 「久しぶりだねリンキ、事情は話した通りだ。林檎を上げるから、俺が戻って来るまでの間、身代わりはよろしく頼んだよ」 「了解しました。我が主」


 スキル『気配隠蔽』を発動して家から飛び出す。

 俺が全力を出せばこの狭い町ならどこへ行っても5秒と掛からない。

 

 領主の館が見えたので、鑑定スキルを発動して建物の構造を解析する。

 食堂は二階だな。手早く建物に侵入すると、闇魔法のハイドを使用して不可視化する。


 「いやーグレイ君もメリッサ君も良くやってくれているよ。お陰様でこの10年間は大量の資源獲得と領地の拡大が成功しただけで無く、物流の活性化にも繋がって十分な利益が出ている」


 楽しげに話す青年は、若く見えるが十分な貫禄を持っており、その風格だけで人の上に立つ者だと感じさせる人物だった。

 

  【ステータス】


  アーネスト・ライト (53) LV231 種族 ハイヒューマン ジョブ 辺境伯

  HP 3510/3510 MP 2800/2800

 スキル 『生産技能』狩猟 LV74 

      『便利技能』ステータス LV81 鑑定 LV90 カリスマ LV73

      『特殊技能』【基礎LV150】【刻印】

      『戦闘技能』格闘 LV82 武具習熟 LV77 兵器習熟 LV76 指揮 LV89 肉体強化 LV71 精神強化 LV61 威圧 LV63

      『魔法技能』火魔法 LV65 


 ふむ、中々強いが『特殊技能』の恩恵を受けている部分が強いな。

『刻印』は特殊な魔力を放つ刻印を、対象に刻むスキルだと出ている。

 ここらへんが貴族が貴族たる所以なのだろう。


 「大変光栄です。このグレイ、身命を賭してこの開拓を進めます」

 「アーネスト様のご協力あってこその成果でございます。ここに暮らす全ての者が一致団結して、更なる成果をご報告出来るように努力いたします」


 うんうんと頷くアーネスト辺境伯は実に満足げで、二人に多大な信頼を寄せているのが感じられた。息子として、俺も誇らしい気分になった。

 手元のベルを鳴らすとメイド達が食事を運んできた。


 テーブルに並べられるのは、この辺境では考えられないような豪華な食事だった。

 新鮮な野菜をふんだんに使用したサラダ、魔法で加熱調理されている極厚に切られたステーキ、芳ばしい匂いがする焼き上げたばかりの様々な種類のパン、上にはたっぷりバターが掛かっている。


 「さぁ、存分に食べていってくれ。王都から呼び寄せた料理人達が作った料理だが、中々の物だと思うぞ?まだまだ料理は運ばれてくるからな」


 グラスに注がれたワインを飲みながら上機嫌で話すアーネスト辺境伯は、次々と運ばれてくる料理に驚愕する二人を見て頬を緩ませていた。

 

 悪い人じゃないようで安心した。

 しかし、貴族の求心力が高いのか、アーネスト辺境伯が凄いのかは判断が付かないな。

 【刻印】についても興味が湧くし、ハイヒューマンという種族にも興味が向いた。

 家に帰って情報整理でもしようかな。


 明日からの辺境伯の行動にも注目だな。

 久々のイベントに心がざわめく俺だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る