第10話辺境の村に生まれる特異な赤子
さぁ、転生しました!
記憶も能力も引き継いでいますが、いきなりやらかしてしまった。
ステータス隠蔽技能なんて持って無かった.....ORZ
しかし、そんな事は予想してましたよ?とティアマトの声が聞こえたような気がした。
ステータス欄の【至高神の加護】が光っており、ステータスが隠蔽されている。
【ステータス】
ケイ (0) LV1 種族 ヒューマン ジョブ 無し
HP 10/10 MP 8/8
スキル 鑑定 LV1 採取 LV1 農業 LV1 狩猟 LV1
となっていた。
両親は、生まれたばかりでスキルが4つもあるなんて天才だ!と狂喜乱舞している。
どうやら生まれた場所は、平均が最低レベルの安全地帯らしいと判断した。
頭の中で【百科事典】ウィキペディアを開いて、情報を調べる事にした。
ここはクォーツに存在する国の一つ【インフィナイト王国】の東にある辺境の開拓村【レッドストーン】というらしい。
統治する『辺境伯アーネスト・ライト』が開拓に力を入れているらしく、最前線にある3つの村は町になりそうな規模に成長している。
俺が生まれた【レッドストーン】【ブルーストーン】【イエローストーン】という何とも単純なネーミングである。
そんな開拓村の平民である『グレイ』と『メリッサ』の間に生まれたのが長男『ケイ』、俺である。
どうやら、転生者は前世の名前に名付けられるようになっているらしい。
家族構成は、父 グレイ(28)、母 メリッサ(18)、長男 ケイ(0)に加えて、女奴隷が2人 レイン(27)、ミーシャ(8)となっている。
こちらの世界は人の命が軽いらしく、平気で奴隷が売り買いされており、その値段も格安だ。
日本円に直すと、金貨=100000円、大銀貨=50000円、銀貨=10000円、大銅貨=5000円、銅貨=1000円、鉄貨=100円、石貨=1円 のレートらしいのだが、奴隷は平均金貨10枚~5枚程度で取引されているらしい。
農奴、戦奴、性奴等の使用用途と性別、容姿、スキル、LVによって値段が変動するらしい。
レインはグレイが成人(この世界では16歳らしい)した時に、祖父マルスから与えられた奴隷らしく、ミーシャはグレイがレインに生ませた子供らしい。
我が父ながらやってくれる!!エンジョイなう...だと!?
世間一般では権力、財力を持っている者ほど、奴隷への扱いが酷くなる傾向にあるようだ。
まぁ、金の無い平民からすれば、働き手にもなるし大切な【道具】なのだろう。
丁寧に使えば長持ちするし、命令しなくても自分で動いてくれる便利な存在だ。
国や地方、個人差もあるのだろうが、グレイの場合は家族同然に大切な存在として接している。
メリッサもグレイの考え方に好感を持った為、一緒になったようだ。
平民と奴隷という立場の差はあれど、メリッサとレイン・ミーシャの関係も良好だ。
別に偽善者を気取る気も無いが、両親が心ある人間で本当に良かったと思う。
近い未来、ミーシャは俺の教育係になるのだろうと思った。
意識があろうが、ステータスが高かろうが、スキルが豊富だろうが、今の俺は赤ちゃんである。
メリッサのおっぱいを貰って大きくなるまでは、子供らしく生きよう....トイレ恥ずかしいなぁ。
子供の時間はあっという間に過ぎた。
それはそうだ、箱庭では170年近くの時間を過ごしたのだ、5年の月日はあっという間だった。
森は切り開かれ、幾千のモンスターが狩り取られていき、辺境伯領は徐々に拡大していった。
開拓村は町になり、物流も盛んになってきた。
前線で戦う人は確かに強くなっていくが、大多数の町人はレベルも低くとても戦えるような強さでは無い。
町の守りを勤める兵達は、モンスターを狩る兵達は、町人から尊敬を集めていた。
自分の力とは関係無く、国の為に、町の為に、家族の為に戦う戦士達は勇ましく、憧れるに値する存在だった。
モンスター達との大きな戦いがあれば、親しい人が命を落とす事もあった。
開拓が進んだとはいえ、モンスター達の領土もまだまだ広大であり、モンスターを従える魔王も人族の領土を侵略しようと、常に隙を狙っている状態だった。
それでも【レッドストーン】【ブルーストーン】【イエローストーン】から派生した、新たな開拓村を守る為に、多くの兵士が駐屯する事になった。
それにより、町は更に潤う事になり、【レッドストーン】【ブルーストーン】【イエローストーン】はどんどん規模を拡大していった。
「ケイ?また町の外を見に行っていたの?」
「うん、僕も大きくなったら兵士の人達みたいに戦うんだ」
5年が過ぎて13歳になったミーシャは、ケイが生まれてから弟が出来たと、とにかくケイを構いたがった。
中身はおっさんを通り過ぎてお爺さんも通り過ぎたのだ。
若い少女が弟に向ける感情が微笑ましく感じて、姉が大好きな弟を演じながらも、この少女が可愛くて仕方が無かった。
手を引かれて我が家に帰ると、レインが迎えてくれた。
「二人ともお帰りなさい。もうすぐ夕食の時間だから手を洗ってきなさい」
「「はーい!」」
手を洗って食卓に着くと、既にグレイが席についていた。
「ケイはミーシャに迷惑をかけていなかったか?いつも町中を走り回って元気なのはいいのだが」
細身だが筋肉質でガッシリした体格のグレイは、自身も積極的に開拓を推し進める実力派の戦士で、部隊の指揮を任される事もある程の求心力もあった。
それに付き従い戦場を駆ける母のメリッサも攻撃、防御の両面で活躍する魔法戦士だ。
二人が出かけて留守にする家を管理するのがレインの仕事だ。
「子供の内から活動的なのは良い事だと私は思うのだけれど?」
メリッサは小柄ながらも豊かな体型をしており、今は二人目の子供を身篭っている。
俺は密かに妹が欲しいな~と思っているが、男か女かを決める事が出来るわけではないので、祈っているだけである。
もし、難産になりそうならば全力を出すつもりではあるが、メリッサなら大丈夫だろうと思って安心している。
「父さんはまたモンスターと戦ったの?強かった?」
芝居とはいえ、目を輝かせて父親の英雄譚を強請る子供を見て、頬が緩まない父親は居ないだろう。
今日のモンスターは小物が多く、大型の草食動物の群れを見つけて捕獲したらしい。
この『ブル』という草食動物は牛に似た動物だが、大きさは牛の2倍の体長である。
肉は美味しいし、ミルクは牛乳よりも濃厚でコクがあり、俺は一口飲んで大好きになった。
「またブルのミルクを飲んでニヤニヤしているの?ケイはミルクだけ飲んでいればご機嫌ね」
そう言いながらもミーシャはお代わりを注いでくれる。 可愛いお姉さまだ。
「一杯食べて一杯飲んで、おっきくなるよ!」
フンスと鼻息荒く語るケイを眺める家族は、誰もが微笑ましい者を見るように笑顔だった。
こういう食事の時間がとても楽しく、神達と過ごしていた時間を思い出すようだった。
今だからこそ言える。長い時間を過ごしたが、孤独だった時間なんて殆ど無かった。
俺は幸せな時間をいっぱい貰ったんだなと、こんな時間が続くといいなぁ。
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