第4話 カレーライス

 その日は珍しく彼が部屋に泊まった。数日前からそうすると彼は言っていたし、カレーが食べたいとしつこく聞かされていた。彼は私が作ったカレーが食べてみたいと言って、それを聞いた私は、そうか言えば作ったことが無かったとその時気付いた。

 カレーは、正直得意だ。家で作った時には、お母さんの機嫌が悪くなる程に。


 その日は昼からカレーを仕込んだ。

 玉ねぎは細かく刻んで、最初に塩で揉む。そのまま炒めずにレンジで温めて味をだす。その間にトマトジュースに味噌とチキンブイヨンをあわせておく。

 鍋にバターをひいて香りが出るまでニンニクを炒めたら、それで鶏肉を焼く。火が通ったら、先程取り置いてあったトマトと玉ねぎを加え、さらにカットした人参を入れてそのまま蒸す。数分した後、じゃがいもを軽く絡めて、水を足し、丁寧にアクをとったら市販のルーをいくつか併せたものを入れ、水気が飛ぶまで弱火で煮込み、後はじっとしている。


 彼は予定より遅く部屋に来た。着くなりすぐにカレーの匂いを感じとり、そそくさとテーブルについた。それこそ飲み込むようにして、そのカレーを二杯たいらげた。一応用意していたサラダにはあまり手をつけなかった。お腹が満たされると彼は、そのまま私を求めた。帰る時間を気にしなくてもいいから、私たちは気の済むまで何度も求めあって、いつかそのまま寝てしまった。


 翌日は休日だったので、遅い時間に起きると、目覚めとともに、また求めあった。その後彼はシャワーを浴びに浴室へ向かった。

 私は、コーヒー豆をミルで引き、ドリップを始めた。更に、トースターでパンも温める。そうするうちに、彼がシャワーから出たので、私もシャワーを浴びる事にした。

 コーヒーのドリップが終わるまでにはと、そそくさとシャワーを浴びた。身体もろくに拭かずに浴室から出ると、彼が電話をかけていた。誰と話しているかは、直ぐに解った。どうやらそろそろ帰るようだ。私は部屋着に着替えて、コーヒーとトースト。それに昨日のあまりのカレーを出した。少し牛乳で緩くしたカレーをスープかわりに。彼はカリカリのトーストをカレーにつけて食べた。今まで食べた事が無いとかなんとか言いながら、一瞬で平らげてしまった。彼の食べるスピードに追いつけず、私はまごまごと食べた。彼はその間ぼーっとコーヒーを飲みながら、焦点の合わない目でどこを見るでもなく眺めながら、ボソッとひとりごとのように「何でこうなったんだろう」と呟いた。

 私は、そんな彼がたまらなく愛おしくなり、食事をする手を止めて、彼の首に腕を絡みつけた。"何でこうなったか?"それの答えを私は知ってる。とても簡単な答えだ、単になるべくしてなったのだ。恐らく彼もまた気付いているはず。

 だって私は聞いたのだ。夕べ彼が寝言で呟いた名前を。そして、私は知っているのだ。

 寝ながら無意識で呟いた名前が、私の名前であった事を。


 彼の首に巻きつき、彼にもたれかかると、耳元で「そんな事、気にしないで」と呟いた。彼はそんな私を見つめかえして、そして私の首筋を優しく噛んだ。

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