第35話 赤と白の激突
王国騎士の中でも騎士長であるルーラは特別だった。日々の鍛錬に裏打ちされたその力はまさに暴力。自然災害にでも立ち向かうようなそんな力であった。
細剣を柔らかく振るい、貫突する彼女の剣はしなり、日向の防御を崩す。
「……どうした、日向? ここまで来て、そんなものか?」
「くぅぅ……」
日向の形勢は劣勢だった。的確かつランダムにも見える予測のできない高速の突き。時折織り込まれる唐突な斬撃。鋭くしなやかなその攻撃は魔獣とはまた違う、思考され思惑のある人間の攻撃であった。
日向が、己が剣で受ける度にコロシアムのようなその部屋に鈍い音が鳴り響き、受けきれないルーラの攻撃が鎧の一部を傷つけ、剣とはまた違った重低音の音色を奏でる。
そして、日向は着実にダメージを重ねられ、片膝を折る。
(……隙が無い。このままだと、一方的に攻め立てられるばかりだ。……どうしたら?)
日向の思考を許さぬようにルーラは容赦なく追撃を仕掛ける。
日向は
「……私を使役するものよ。お前の力はそんなものだったのか」
傷つく日向を
「……少しは私を頼れ。そして、己の命を懸ける気概を持て」
(……これ以上方法がない。……『デュランダル』僕の命を一日食え)
「……願いを聞き届けたぞ」
瞬間、日向の体は倦怠感が襲う。しかし、それ以上に力が溢れ出てくるような錯覚を起こし、日向の剣が白銀光を強く放つ。どこか喜びに満ちたようなその輝きにルーラは警戒の色を見せる。
反撃の
輝きを増した刀身の一撃はあしらわれたもののその威力は確かに増していた。ルーラの手首は衝撃に震え、握っている細剣が少しだけ揺れていた。
「……重い。だが、まだ足りない」
改めて握りなおしたルーラの細剣はピタッと止まり、美しい動作で構える。
「……君の師は本当に素晴らしい逸材だ。私でも敵うかどうか微妙なほどに。……けれど、君はそれを吸収し切れていない。その剣に頼っている節が見えてくる。……それでは、まだ足りない」
ルーラの構えは利き手の右手で剣の柄を持ち、腕を八の字のように向けるとても自然体構えだ。その体勢のまま、ルーラの赤黒い瞳は|猛々(たけだけ)しく光る。
「……日向、すまないが手加減してもいられない。私の全力をもって、君を止める。——纏い断ち切れ、焦熱の業火。——
突然紡がれたその魔法は止めるすべなく発揮され、彼女の持つ細剣の柄に円形の魔法陣が現れる。魔法陣から二つの濃赤の炎が螺旋状に刀身へと伝い、剣全体を紅蓮の炎が包んだ。
瞬間、ルーラはその構えのまま地を蹴り駆け出す。炎は揺らぎ、強烈な熱波となって日向の皮膚を震えさせる。
「ぐはぁっ、ぐはぁっ!」
猛烈な速度で繰り返される炎を纏った突貫の連続。それは日向の鎧を着実に|蝕(むしば)み、重さを増した攻撃の連続は日向の体を苦しめる。
「……どうした? そんなものか!」
ルーラの攻撃は止まらない。日向の防御では凌ぎきれない。防戦一方の絶対的不利な状況が続く。
「……はぁはぁはぁ」
ルーラの獰猛な攻撃に日向は押し切られ、
「……済まないが今の君では何もできない。何も変えられない。私と同じように」
見下すように日向を見つめるルーラは虚ろな瞳でそう告げる。
(……『デュランダル』もう一週間命をもっていけ)
「……面白い。ではもらうぞ」
尻餅の形となっている日向にまた倦怠感が襲う。それも、その疲れが増して。
「……日向、君は頑張った。……だが、諦めるしかないのだ。この国は変えられないし、変わらない。だから今は諦めて戻るんだ。私は君を責めたりしない」
「……あなたは『彼ら』を助けたいんじゃないんですか? 僕は助けたい。その為に覚悟は決めた。非難を受けても、殺されたとしても、絶対に助けたい。だから、僕は負けません。絶対にそこを通ります」
日向はつま先を蹴り立ち上がり、居合の形で炎の細剣に斬りかかる。響き渡る鈍音。輝きを増す『デュランダル』しかし、その一撃を持っても細剣はまだ折れない。
「……日向、無駄なんだ。これは、力ではない。技なのだ。君の今の技量ではこの剣を折ることは叶わない」
至近距離で感じる熱量は凄まじいもので、日向は思わず後退する。……だが、その闘志は消えない。日向の白い双眸にはしっかりと最高の結末へと向かうビジョンが見えていた。
「『デュランダル』一年追加だ!」
想起をやめ、言葉にして叫んだ日向は再び居合の形で構える。
「……いけない。日向やめるんだ!」
ルーラは日向の言葉に反応し、険しい表情で肉薄する。しかし、日向の願いは刹那の速度で果たされ、ルーラには止められない。
「……面白い。面白いぞ、日向よ。貴様の願いしかと受け取った」
『デュランダル』は眩く、輝く。目眩しそうなほどの倦怠感も気にならないほどに強く。そして、日向は駆ける。技はルークやルーラとは比べるべくもなく未熟だけれど、それでもルークの教えを守り、しっかりと両の手で剣の柄を握り駆ける。
肉薄していたルーラに日向は恐れることなく接近し、目にしっかりと捉えていた紅蓮の炎を全ての勢いを乗せて振りぬく。
溶け合う赤と白銀の光の激突。そして、凄まじい衝撃音と熱波。光に包まれたその部屋は強烈な閃光に姿を隠し、やがてゆっくりと色を取り戻していった。
「……負けたのか」
ルーラの持つ細剣には
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