05.新人の考察
さて、いつもであればあの少女の後日談でもお話しするところなのですが、残念ながら今回は難しいようです。
なぜならば、ナアト様がアズさんと一緒に少女、『ナターシャ・キャリントン』を
帰ってきたアズさんが、嫌味なほど似合っている軍服のマントを
「ナアトさん、お疲れ様です。あの、女の子は……」
「おいおい!俺にも言いやがれ!先輩に向かって失礼じゃねーか。」
「……お疲れさまです。で、あの子はどうされたんですか?」
ナアト様。ちょっと機嫌が悪いようです。
アズさんを一瞥して、自分の部屋に戻られてしまいました。
「おい新人!あいつなんて言ったかわかるか!?なあっ!??」
「アズさん!声大きいですよっ!近寄らないでください!!」
普段からハイテンションなアズさんに絡まれると堪らないですが、今は一段とうざったく、殴りたくなりますね。
ですが、今はこの人しか事の
「あのガキだが、聞いて驚くなよ。」
唇をひと舐めし、ずいっとこちらに身を乗り出してきます。
近いっ!!
「なんとだな。あのグレート・キャリントンの忘れ形見だとよ。」
誰ですかそれ。
「お前……まさか知らないとか言うんじゃないだろうな。あの、グレート・キャリントンだぞ。元農耕貴族だが死ぬまで今の『農学』を作り上げた偉人だぞ。あの人がいなかったら、俺たちの食事は毎日イモだけになってるとこだったんだぜ?」
「ああ、思い出しました。でもそのお父様の方が有名じゃないですか?オズワルド・キャリントン。キャリントン家が公爵家まで上がったのもその人の功績じゃないですか。」
「あのじいさんは土いじりが大好きなだけだぞ。学問としたのは息子だ!」
「そんなことはいいですよ!で!!その忘れ形見ってどういうことですか。」
「今の貴族の名前に、キャリントンはないだろうが。」
そうですね。
2年も前に、この尋問館で拷問にかけられて死にましたから。
「キャリントン家は
しんみりしていますが、その後その貴族を別の情報を使って拷問し尽くしたって聞いていますよ?アズさんが。
アズさんとの会話を全て記録していると用紙も足りなくなってきますので、
まずあの少女、ナターシャについてですが、この少女、中々苦労した人生を送ってきたようです。
5歳の時に父親と祖父が亡くなり、母親もその3年後他界。
8歳にして身を寄せていた家を追い出され、路上生活を送っていたと思われる。
「そこを俺たちが新しい家を見つけてやったってことだな。」
割り込んできた!?
「途中まで馬車でいってよ、モゥブレーのばあさんの家の通りで大声で演説してやったんだ。
『この哀れな少女を見ておやりよ。売り物の花をゴミだと言われ、貴族を
んでよ。そこまで言えばモゥブレーのばあさんが飛び出してきてな、『なんて可哀想な子なの!今日からあなたのお家はここよ。』そう言って引き取ってくれるわけだ。」
「……モゥブレーって、あの偽善事業の?」
「偽善じゃなくて慈善な。尋問館きっての事務処理係なんだから間違えんな。」
「それ、引き取られても地獄ってことはないですよね?煙突掃除の子供達みたいに。」
「あれでもまだマシじゃね?前は死んだらお終いだったからな。それにモゥブレーの家は大丈夫だろ。ちょいとスパルタだが、あの嬢ちゃんだったら上手くやるさ。しばらくは両手も使えないし、仕事を任せられる事もないだろうしな。」
まあ大丈夫だと思っておきましょう。
きちんと刑は執行しましたし、あの行き遅れ生意気貴族からも文句はないでしょう。
……モゥブレー家の方がスペンサー家より爵位も上でしたっけ。あれ。ほんとうに安全地帯に避難できてますね。
これもナアト様は見越していたのでしょうか??
非常にどうでもいいですが、尋問官に軍服は支給されないはずなんですけどね。
アズさんが着ている服はどうしたんでしょうか?見たことのないデザインでしたが……。
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