04.新人の考察

 本日は珍しくナアト様とお出かけです。

 朝、門兵から連絡があり、怪しい男を見に来たのです。


 尋問官なのにそんなこともするのか、ですって?

 ナアト様は実は色々な仕事をこなしているのです。


 さて、くだんの怪しい男ですが……見るからに街の人間じゃありませんね。


 何ですか、あの馬鹿でかいリュックは。

 何で果物が並べられているだけの屋台を珍しそうに見ているんですか?

 なぜ銅貨で遊んでいるんですか!?


 意味がわかりません……。


 しかも二頭立ての馬車に不用意に近づいて御者に怒られているし……。


 あれが貴族の物だったらちょっと大変なことになってましたよ?



 あれ、今度はパン屋に入って行きましたね。

 でかいリュックは店の外に置けと言われたようです。

 見るからに汚らしいですからね。

 買い物から出て来ましたが、また銅貨を見ていますね。

 何が珍しいのでしょう?



「ミカル。1を10で割ったとき、分数でどう表す?」



 唐突だったので少々驚きましたが、ナアト様はこういうことが多々あります。

 人より頭の回転が速いので、会話が一足跳びになるのです。

 きっと、今わたしが疑問に思っていることなどお見通しなのでしょう。



「十分の一です。」


「では4で割った場合は?」


「四分の一です。」


「あの男が珍しがっているのはそれだ。」



 ううん。まだ懇切丁寧に説明して下さっている方なのですが、いまいち良く分かりません。



「敵国はそれほど、きちんとした数学の教育をしていないということだ。四分の一銅貨が珍しくて仕方ないのだろう。」


 見た目は銅貨とほとんど変わりがないのに価値が違うというところも。

 分数という概念はともかく、それが国民に受け入れられているということも。



 少し納得しました。

 確かに四分の一銅貨ができた頃、わたしも不思議に思ったものです。

 要らないものをなぜ増やすのかと当時は思いましたが、更に下の価値がある硬貨を作ることでより細かい値段設定ができるようになりました。

 それまで銅貨2枚で取引されていたものが1枚と半分の価値で取引されるようになり、購入層が増え、結果として増益に繋がる。


 ……今まで以上に多く商品を作って売らなければいけなくなったのも事実ですが。



「もう少し掘り下げると商人との取引や為替の話になってくるんだが……今のお前にはまだ少し早いか。」



 そんなことを言われると、わたしは拗ねてしまいますよ。



「ミカル。あの男、こちらへ移住させるぞ。」


「わかりました。」



 よっぽど気に入ったのですね。

 あの変な男が。


 わたしはナアト様から一枚の紙を受け取り、近くの兵舎へいしゃへ向かいました。

 男を捕らえる兵を数名寄越すためです。



 さて、今度のスパイ(?)は移住するのか肉になるのか……。


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