03.木馬責め

「ちょっと!どこ触ってんの!?」



 なんなのっ!あたしこんなとこに連れて来られるようなことなんてっ!……少しはあるけど、けど!乱暴される覚えはないんだから!!



「少し黙って歩け!それ以上その五月蝿うるさい口を開いてみろ。蛆虫うじむしのエサにしてやる。」



「はあ!?やれるもんならッ--!?」



 中庭みたいな所を通り過ぎるときだった。

 遠目でもはっきりわかる。

 アレは人の腕で、虫が飛び回ってて、腐りかけた身体に白い小さな虫がたくさんっ!!



「あっ……。」



 脅しじゃない……。この人達は"やる"と言ったら"やる"んだ……。



「わかったらさっさと歩け。」



 グズグズになった死体から目を背けて、後ろできつく結ばれた両手に力が入った。





「こんにちは。」



 背中を押されながらひどい臭いのする通路を進んで、放り込まれるように部屋へ入れられた。

 倒れているあたしに、拍子抜けするような挨拶をしてきたのは、全身が黒いやつだった。

 部屋の真ん中には、これ見よがしに三角木馬が置いてある。



「何よ。ここ。SMプレイでもご所望なのかしら?」


「いいえ。ここは"尋問館"です。聞いたことは、あるのではないですか?」



 じんもんかん?

 尋問館!?

 うそでしょ……!

 ここにくるのはスパイだけって話じゃ!?



「あ、あたし、あの国とは何の関係もないわ!ほんとうよ!」



 生まれだって育ちだって、ずっとこの国なのに!一度も国から出たこともないのにっ!



「勘違いしているようですが、」



 フードに隠れて、表情は全然分からないけど、冷たい声でそいつは言った。



「ここでは犯罪者も、刑罰として連れて来られるのですよ。」



 と聞いて、ドキリとする。


 ううん、そんなわけない。ちゃんとあいつは、片付けたって言ってたもの。

 動揺しているあたしに、男は淡々ときいてくる。



「これ、何かわかりますか。」



 男が見せてきたのは、小瓶に入った、黄色っぽい破片に、時々黒い何かがついている、……ナニか、だった。



「なあに、これ。」


「赤ん坊の爪です。」


「なんで、そんなもの見せるの。」


「貴女の子の、爪でしょう?」


「なに、言ってんの。」


「もう一人はべらべらと喋ったのに、貴女は結構頑固ですね。」



 男は、あたしを無視して淡々と話す。



「今代の国王になってから、刑法が色々増えたのはご存知ですか?」



 なんてこともないように、男は喋り続ける。



「粛清の嵐が過ぎ去ったあと、この国の直近の目標は人口の増加になりました。人手が足りなさすぎるのです。解決するためには周辺国から人を入れるか、出生率を上げて増やすしかありません。……色々問題はありますが、子供に限ったことを言いますと、生まれた子はなんであれ、殺してはいけない。売ってはいけない。労働力として働かせてはいけない。育てられない場合は教会へ渡すこと。」




 


「貴女は何回、棄てたのですか?」



 両側から羽交い締めにされて、スカートを捲り上げられる。



「ちょっ!!」



 あっという間に下着も靴もストッキングもまとめて、足から引き抜かれた。



「い……やっ!」



 ぐるぐると縄に縛られて、三角木馬の前まで連れて来られる。



「……!!」



 足が浮いて、体が浮いた。



「いっ……たい。」



 縄が体に食い込んで、吊り下げられた天井からミシミシと音が聴こえる。

 木馬の尖った山が迫ってくる。

 せめてもの抵抗で、足をバタつかせるのが精一杯だった。



「……重りを。」



 男の一言で、足首にも縄がかけられる。

 ズンッとした重みで、足を上げるのも難しくなった。


 怖い。

 でもまたがるだけだし、そんな痛くないはず。

 少しは我慢して……。



「いっ!!!??あああ゛あ゛あ゛っっ!!」



 いだいっいだいいだぃたいぁあいいいたいいぃいイイイイッ!!!


 むりっ!下ろして!!おろしてっ!!



「ひっひぃっ!い、いだいぃ。」



 動かさなきゃなんとか耐えれるっ。我慢できないくらい痛いけどなんとか--。


 バシンッ!


「ぎゃあっ!!」



 背中に強く何か当たった!!

 じんじんと腫れるような感覚。

 股が強くこすれて痛い!


 バシンッ!



「があっ!!」


「……重りを追加で。」


「もっ、いやああああっ!!」



 痛い痛い痛い痛い痛いいたい裂ける痛い血が出るいたい骨が削れるいたいいたいいたいだいいだいっ--!!!



「ぎゃあああああっ!あぁあ゛あ゛あ゛っっ!!」



 叫ぶ声も痛い。


 喉も痛い。


 振動が痛い。


 心臓がどくどくなる音が痛い。







「と……のやつ、……して、です?」



「……が、おん……。ほしい、だと。」



「じゃ……この、は……刑ば、ため……なかった。」




 意識が遠くなる中で、微かに聴こえた会話の意味は全くわからなかった。




 そういえば、あんな小さな爪、してたんだ……。

 知らなかった……。


 子供なんか、商売の邪魔にしかならないし、だったら貴族のおもちゃにでもなればいいやと、思って、一人目は売ったんだった。


 顔なんて覚えてない……ていうか、どれもおんなじ顔してたし。


 二人目は……、馴染みの客に売ったんだ。女の子だったら欲しいって言われて……、そのままその客に。


 三人目は……、体が売れなくなってきた頃に出来たから、生まれて金になればと思ったのに、ヤッテる途中で流れちゃったんだ。

 びびったその男に、そのまま押し付けて、埋めてくるように言って……。





 そういえば……あの男が見せた爪、どの子のなんだろう……?

 三人目は、もっと小さいときに、流れて……。





 誰の、爪?

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