02.不眠

 いーつまでぇ、ここにいりゃあいぃーんでーすかぁ??


 ここってあれだろ?尋問館だろ??

 やばくね?俺ヤバくね??


 いざってときは口八丁でーとか思ってるけど、無理な気がしてきたなー。


 しぬ?命日?いやいや、まだなんとかなるでしょ。


 だって近くですっげえ悲鳴が聴こえんだぜ?

 たぶん隣。

 でも俺五体満足だしー。

 まだ生きれる。

 痛くないし。


 あ、やっぱ足痛いわ。

 座りたい。

 立ちっぱなしは辛いって。


 尋問官も新人っぽいやつもいないし。

 話し相手もいないのはなー。


 ん?誰もいないなら座れって?

 無理無理。




 腹も空いてきたし。

 誰か戻ってこないかなー……。


 あー、ねむい。



 イテッ。





 夕日が差し込んでるから、ここに連れてこられてからほぼ丸一日いるってことか……。

疲れた……。







「さて、もう一度ききましょうか。」



う、今意識飛んでたかも。

 眠さでやられてる頭にきかれても、なんも答えらんないって。



「もう一度、知っている情報屋と売った人、覚えているだけ吐いて下さい。」



 何回やったっておんなじだってーの!

 それより、ねむい。



「うぐっ!」



 寝ぼけて、トゲのついた首輪に喉が刺さっちまった。

 トゲっていっても、首輪の外側じゃない。内側にビッシリ、そして長いのが付いてる。

 しかもそれが壁にガッチリ固定されてる。

 この首輪のせいで座ることも壁に寄りかかることも寝ることもできない。



「げほっ!変わんないですよ。だって俺、決まった人からしか情報は買ってないですから。あとは小耳に挟んだ噂話くらいで!」


「そうですか。ではまた明日。」



 そう言って尋問官は出て行っちまった。


 ねむい。寝たら首にトゲがささる。




 ここの尋問官が今何人いるかは知らねーけど、あのフード被ったやつはたぶん、Nってやつな気がする……。


 後はヤバい拷問しかしないって噂だし、立ってるだけだったら、まだ、なんとかなる--。




「グエッ!!」



 はー!おもいっきり、刺さった!

 いつまで、こうしてれば……。







「おはようございます。どんな気分ですか?」


「あ?いい気分なわけ、ない、だろ。」


「では早く教えて下さい。情報を買った、もしくは売った人間全て。」


「はっ!ばっからしい!そんなんで全員こーやって聞いてくつもりか!?無能すぎるにもほどがあるぜ!」


「私も仕事ですから。別に無駄なことをしているわけでもありませんよ。敵国からこちらへ移り住んだ、貴方の友人、とか。」


「は?なにいってんだ……?あんた。」



 頭がぼんやりする、ようでなんだかムシャクシャする。



「イミわかんねーことゆーんじゃねーよ!」


「なるほど。知らないのはほんとうのようですね。質問を変えましょう。同じことばかり聞かれても、つまらないでしょうから。」





「貴方は普段どこで何をしていますか?」



 よくわかんねーけど、とりあえず答えときゃいーのか?



「あーと、日雇いで……、ていっても顔みしりのとこだな。そこでたまに仕事てつだっちゃこづかいもらってんだ。」


「そのお店の名前は教えてくれますか?」



 なんか、答えちゃまずいような……。よく、わかんねーや。



「ボルクワーテっていう店だ。いっとくけど、そこのオヤジはすっげーいい人だからな!おまえらにおどされるようなことなんかこれっぽっちもねーよ!」


「ボルクワーテ。そうですか。働いているのは主人と貴方だけで?」


「いや、おんながひとり。名前はしらね。あんまりタチが良くねーんだよ、そいつ。」


「タチが良くない?とは。」


「コソコソ、してるっつーか。あー……。そう、えーと、ヤクでもやってんじゃ、ねーかなって。たまに、良くないやつとつるんでるし。」


「そうなんですか。貴方は薬、使ったことあります?」


「いや、ない。あ、れは絶対するなってよ……。へへっ。かーちゃんからの、遺言だからな。」


「良いお母様ですね。」


「酒……、のみすぎていっちまったけどな。」


「御愁傷様で。……話は戻りますが、その女性、他に仕事はありますか?」


「ほかに……?あー。えー……。ちょっとまってくれ。なんか、きいたことはある気がするんだ。」



 頭がグラグラして気持ちがわるい……。

 足がいたい。

 なんだったっけ。



「……売女ばいたとか、だったとおもうぜ。」



 ほんとうは覚えてねーけど、それっぽいこともしてたし、うそじゃねー。



「その女性と最近した話は?」


「たいしたことは話してねーよ……。仲がいいわけでも……!?」



 あ、なんか思いだしそう。はなし。そうだ。なんか話した。

 なんだっけ?

 貴族がどーたら、いって……。



「何か思い出したみたいで。」


「おもいだしたけど、なんだったかわかんねーんだよ!いつだったか、あー、金持ちかなんだか、話したのは確かなんだっ!」



 ダメだ。おもいだせない。


 殺されんのかな、おれ。



 尋問官はいつの間にか部屋からいなくなってた。


 そういや、入ってきたのもわかんなかったな……。




「温情だ。首輪を外してやる。硬い床だが、眠るといい。」



「ああ……?なんだって??」


 







 うおっ!俺いつの間に寝た!?うげっ。全身がいてぇ。

と、パンと水が用意されていた。

 ……え。もしかして毒入り?



「ここに来てから何も食べてないでしょ。せっかく準備したんですから、食べて下さいよ。」



 新人っぽいやつが、皿とコップを渡してきた。



「え。もしかして俺、死刑になるの……?」



 最後の食事がもさもさのパンと水だけって、ひもじすぎる!



「それは貴方次第ですけどね。」



 部屋の扉の前で、背が低くてフードを深く被ってる尋問官がいた。

 相変わらず存在感なさすぎるだろ。



「それを食べたら、昨日の続きを教えて下さい。」


「いいけど、もし答えなかったら?」


「人間って、何日寝ずにいられるんでしょうね?」



 絶対いやだ。

 水を一口。

 うめぇ。

 パンをかじる。

 ……うめぇ。



「このパンってもしかしてお高い?」


「混ぜ物やカサ増しなんてしてませんからね。」



 ちょっと吹き出しそうになったじゃねーか……。もったいない。



「昨日の続きっつーと、なんだっけ?同じ店で働いてる女のこと?」






 なんか言えよ……。無言じゃこえーって。



「情報は売ってねーよ。ただ、ベイノ通りに住んでる女貴族がやたらと評判悪いって話しただけ。」


「ふむ。どんな評判なんですか?」


「あそこに行った煙突掃除はいなくなるとか、行くたびに違う男がいるとか、家の前にいた乞食こじきを蹴っ飛ばしたとか。まぁ、噂話には事欠かないな。」


「いなくなったのは煙突掃除だけで?」


「さあ?ああ、たまに女の子を拾ってきてドレスとか着せてるらしいぜ。その子供をどっから連れてきてどこに連れてってるのかは、知らねえけど。」


「その家の特徴とかあります?」


「濃い緑の屋根が目印だな。他にも緑の屋根はあるが、あそこが一番濃いぜ。」


、ありがとうございました。手を。」



 パンが名残おしく、もごもご口を動かしながら右手を差し出す。

 尋問官はそっと手を添えると、くるりと手のひらを上に向け、手の中に何かを握らさせた。



「ご協力ありがとうございました。どうぞ、お通り下さい。」



 開けられたドアをちょっと怯えながら通り抜けると、新人っぽいやつが待っていた。

 ついて行くと、来た時と同じように右へ左へグルグル色んなとこを通って出口にでた。



「ご協力ありがとうございました。心身ともに健やかに過ごせるよう願っております。」



 思ったよりも大きな木の扉が閉まった後、握らされた手の中を見てみる。

 触った感じてわかってたけど、やっぱり布袋が握らされていた。

 大きさ的にお守り的な?

 じゃらりと音がして、まさかと思って開けて見た。


 銀の硬貨が10枚入っていた。



「二ヶ月は普通に暮らせるじゃん……。」



 それでも、もう二度と来たくないなと思った俺だった。


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