01.新人の考察

 皆さま初めまして。

 尋問官ナアト様の補助を務めさせていただいております。

 まだまだ新人でして、加減が上手くありません。



 水車に縛られ、ゴボゴボと溺れるこの男にはスパイ容疑がかかっています。

 どうも敵対国から逃げてきた元軍人らしいのですが、問題はそこではありません。

 この男とよく接触している、もう一人の男の方なのです。

 情報屋を名乗り、真実からガセまで撒き散らすという品のない男でございます。

 その男を尋問にかけるために、この男を尋問もとい、拷問いたしました。


 家族ともほとんど連絡を取っていないことも確認出来ましたし、その日暮らしの男のことなどすぐに忘れてしまうでしょう。

 ですから、ここで私共の練習台となっているのです。


 あーあー。先ほどから繰り返していますが、随分と呼吸が下手くそですね。

 頭から水に浸かるときは、鼻から息を出し続けていないと水が入ってきてしまいますよ。

 一度研修で、同じように水車に縛られて二回まわされましたが、いやはや、水が入った鼻の痛いこと。

 しばらくはむせ続けてしまいました。


 おや?呼吸が浅くなっていますね。

 足から沈ませて、段々と時間を長くしてみましょうか。


 十秒。


 おお。まだ元気ですね。

 荒く息を繰り返しています。


 二十秒。


 んー。続けて沈めたからでしょうか。

 勢いよく息を吸い込んだのに、随分長い呼吸を繰り返していますね。


 三十秒。



 四十秒。




 --。






 死んだみたいですね。



「あっけねーなー。」



 あなた、ちょっと口が悪すぎますよ。

 記録書の右上に『N』と、これで提出してきましょう。



「その前に、死体。」



 ん、と同僚が、親指ですっかり冷たくなった死体を指した。

 拷問死体としてはまだ、いえまったく綺麗な方なのですが、やはり死んだ人間の体を触るのは良い気分ではありません。



「袋に入れますか?」


「いや、いらねーだろ。」


「でも、失禁したり……。」


「死体に臭いはつきもんじゃねーか。いい加減慣れろ。」



 そうですけど!

 ほんとうに、上司がアズさんじゃなくて良かったって思いますよ!

 アズさんはナアト様と同じ尋問官ですが、ほとんど死刑のような拷問しかしないもので、そりゃあもう!

 酷いったらありません!!


 その点、ナアト様はいかに効率良く情報を搾り取るかを考え、尋問を楽しむようなことはまず致しません。

 素晴らしい方です。


 ただ、あの悪癖さえなければ、と……。

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