♪21 俺のことでいいのかな?

「戻りましたぁ~。いやぁ、今日も天気良いですねぇ。――って、どうした、アキ?」 


 若い女の子もいることだしと、お茶だけではなく炭酸飲料などのジュース類に加えて菓子やらスイーツやらが入ったコンビニ袋を下げた章灯しょうとは、真っ赤な顔で正座をしている彼女の姿を見て首を傾げた。さっきまでは確かもっと和やかな雰囲気だったはずなのだが。


「コガさん、アキどうしたんですか?」

「知ーらねぇ。俺とそっくりだって話しかしてねぇんだけどな。なぁ、かなめ?」

「違うわよぅ。伯父さんがアキさんの彼女さんの話をしたからでしょぉ?」

「――かっ? かのっ?」


 慌ててあきらを見ると、彼女は右手で目元を覆い俯いている。そしてその顔は耳までが赤くなっている。


 成る程、わかった。わかったけれども。

 

 ――彼女って、つまり俺のことで良いのかな?


「帰りましょう!」


 さすがに耐えきれなくなったらしいあきらが、彼女にしては大きめの声でそう言い放ち、勢いよく立ち上がった。


「え? もう?」


 一応、目の前にいる少女についての説明はされたので当初の目的は果たした。果たしたけれども、何ていうかもっと親睦を深めるとかあるんじゃないのか? だってこれから『親戚』ってやつになるんだろ?


「おう、そうか。気を付けてな」


 湖上こがみは特に引き止めることも無く、にこやかに手を振る。その場に座ったまま見送ろうともしない彼をカナが手を引いて立ち上がらせた。


「ちょっと、お見送り!」

「あぁ、良いよ、大丈夫。えーっと、お菓子入ってるから良かったら食べて。じゃ、コガさん、また」

「おう、気ィ付けてな」


 手にしていたコンビニ袋をカナに託し、章灯は足早に去ってしまった晶の後を慌てて追いかけた。しかし玄関には既に彼女の姿は無い。


 そんなに急がなくても。


 苦笑しつつ靴を履き、ドアを開けると、晶は廊下の奥にあるエレベーターの前で所在なげに立っていた。顔の赤みは引いたようだが、視線は下に落としたままである。


「何か甘いもんでも買って帰るか」


 その提案に、晶は無言で頷いた。



「帰っちゃったね、アキさん達」


 章灯から手渡されたコンビニ袋の中を物色しながら、カナは至極残念そうな声を上げた。


「随分と色々買ってきてくれたんだなぁ、あのお兄さん。――あ、このコーヒーゼリー美味しそう! お風呂上りに食ーべようっと」

「何だ何だ、あいつはどんだけ買ってきたんだ」


 そう言いながら湖上も袋の中を覗く。

 2Lのお茶と炭酸飲料、それから人数+α分のコンビニスイーツにチョコレート。

 恐らくこのチョコレートは晶のために買って来たものだろう。『よく気が利く』というのも言ってやれば良かったなと思って湖上は苦笑した。


「ねぇ、ところで、あのお兄さんは誰だったの?」


 チョコレートの外箱を開封しながら、カナは首を傾げた。


 おいおい、全国区の人気アナウンサー様だぞ? いつだったか夕食時に『シャキッと!』のCM見たじゃねぇか。


 そう言おうとして、裸眼にあの恰好では気付かないのも無理はないかと「アキの仕事のパートナーだ」とだけ言った。カナは興味なさげに「ふぅん」と気の抜けたような返事をし、箱の中のチョコをつまむ。


「聞いた癖に適当な返事しやがって」


 湖上はコンビニ袋を持って立ち上がり、冷蔵庫へと向かう。


「へへへ。ねぇ、アキさんって何のお仕事してるの?」


 本当に知らねぇんだなぁ。ここまで来ると逆に天晴だよ。


 やれやれと軽くため息をつき、袋の中のものをしまう前にカナの後ろにあるテレビを指差した。


「たぶんDVD入れっぱだからよぉ、再生してみろ」

「へ? 何で?」

「アキの仕事、知りてぇんだろ」

「ん? うん」

「見りゃわかる」


 ぶっきらぼうにそう言って、湖上は冷蔵庫を開けた。


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