♪82 It's SHOW time !:第1回放送より

「ORANGE ROD、SHOWの、It's SHOW time!」


 精一杯テンションを上げてそう言うと、先月発売したアルバムの中の『Midnightミッドナイト paradeパレード』が流れる。これは1曲目に収録されているインストゥルメンタルである。


「はい、こんばんは。ORANGE RODのSHOWこと、山海やまみ章灯しょうとです。さて、本日から始まりました、It's SHOW timeなんですけれども、皆さんの予想通りですね、しゃべるのは僕1人なんですね。全国に30万人くらいいるAKI君のファンの方々、申し訳ありません。でも、ファンの君達なら、AKIが頑なにしゃべらないことも知っているはずだ! ……というわけで、AKIはいないんですけれども、AKIについての質問等はですね、僕が答えられる範囲でお答えしますので、番組宛てにメール、FAXお願い致します。では早速ですが1曲聞いて下さい、先月発売したアルバム『CITRUS OR FISH』より『可愛い君の可愛くないところ』」



「おい、開始早々にもう曲入れたぞ、章灯。さすがに早くねぇか」


 サポートメンバーの長田おさだ健次郎は同じくサポートメンバーの湖上こがみ勇助の部屋で章灯のラジオを聞きながらコーラを飲んでいる。


「確かに。まぁこれが放送されてるってことはそれでもOKだったんだろ」


 そう言うと、湖上は手に持っていた缶ビールを飲む。


「スタートだしな。とりあえず様子見なんだろ、スタッフも章灯も。社長から、スケジュール合う時は出ても良いぞっつーか、むしろ出ろって言われたし、もしもの時は俺が何とかしてやらぁ」

「章灯よりコガの方がしゃべりは達者だしな。まぁ、さすがに滑舌はアイツの方が良いけど」

「滑舌はアナなんだし、基本スキルだろうがよ。っつーか、この曲、初めて歌詞を見た時さぁ、これ絶対アキのこと書いたよなぁって思ったわ、俺」

「あぁ、俺も俺も。必死に隠してる風だけどバレバレだっつぅのな。下手すぎ、アイツ」


 そう言って、胡坐をかいた中年2人は顔を突き合わせて笑った。



「はい、いまお聞きいただいたのはアルバム『CITRUS OR FISH』より『可愛い君の可愛くないところ』でした。さて、先ほどですね、応えられる範囲でAKIへの質問に答えますよって言ったらですね、スタッフさんがニヤニヤしながら早速持って来ましたねぇ。皆やっぱり僕よりもAKIなんでしょうね……。何て言ったらたぶんサポメンの2人から『当ったり前だろ!』って確実に突っ込まれます……が、それはさておき、AKIへの質問読んでみましょうか」



「――当ったり前だっつーの! 馬鹿が!」


 章灯が言った通り、湖上と長田は2人同時に声を上げ、高らかに笑う。


「お前がアキを超えるなんざ100年早ぇんだよ」


 湖上は飲み終えた缶をつぶしながら尚も笑った。



「えー、これは……まさかのスタッフさんからの質問でした。何? AKIのファンなの? ――え? ガチで? 完全なる職権乱用ですよ、皆さん……。まぁでも内容……は、ですねぇ、うん、これはきっと、いや、確実にAKIのファンは聞きたいんじゃないでしょうか。えーと、『SHOWさんこんばんは』はい、こんばんは……って、スタッフさん芸が細かいですね……。えーっと『突然ですがAKIさんの好みのタイプを教えてください。ついでにSHOWさんの好みのタイプもお願いします』と、いうことでですね。聞きました、皆さん? 僕は完全に『ついで』って書かれてましたね。まぁ、良いんですけど。これ書いた人、後で僕んトコ来てくださいね。さて、AKIの好みなんですけれども……、これ言っちゃって良いのかなぁ。アイツ怒るとすごい怖いんですよ、意外と。何ていうの? 静かーに怒るっていうかね、怖くないですか? そっちの方が。――まぁ、まずかったらスタッフがカットするでしょう! と、その前にCM!」



「意外としゃべれるもんだな、アイツ」

「やっぱアナウンサーってアドリブに強いのかねぇ」


 そんなことを言いながら長田はチョコレートをつまむ。


「アキの好みのタイプだってよ」

「章灯の野郎、まさかそれは僕です! なんて言わねぇよな?」

「さすがにそこまで馬鹿じゃねぇだろ、アイツも」



「――さて、CMが開けたところでお待ちかねのAKIのタイプ発表です。皆さん、録音の準備はOKですか? 良いですか? AKIはですねぇ、僕は最初、あのイメージで、絶対可愛い系よりは細身でシュッとしてる恰好良い系が好みだと思ったんですよね。思いません? ねぇ? 思うでしょう? ところが、ですよ。AKIはどうやら、丸っこくて可愛らしーいのがタイプみたいでですねぇ……。で、丸っこいけど、キュッとくびれてて……」



「丸っこくて可愛らしい……って……」


 意味を理解した湖上が吹き出す。


「ギターのボディの話じゃねぇか! だぁっはっはっは! やるなぁ章灯!」


 やや遅れて気付いた長田も声を上げて笑った。



「さぁ、AKIファンはもうわかりましたね? 僕が話したAKIのタイプ……。これはギターのボディですね。そして色は絶対に赤です。ここは断固として譲れないみたいですね。赤以外は見向きもしないと言うか……。あのですね、ほんっとーに、ガチで、赤いギターしか持ってないですからね、アイツ。こないだ、PVでどうしても別の色にしなくちゃいけないってのがあって、説得が大変だったんですよ。結構、いや、かーなーり頑固ですよ、アイツは。いやいや、期待させてしまって申し訳ないんですが、AKIってそういう話全然しないんですよ。だから、正解は僕にもわかりません。これが限界です。ちなみに僕のタイプはツンデレってヤツですね。普段ツーンとしてるのに、たまに見せてくれるデレがたまんないです」



「おいおい、いまのは完全にアキじゃねぇのか。アイツ、どっぷりハマってんなぁ」


 湖上は肩を震わせて必死に笑いを堪えている。


「だよなぁ。いやいや、アキにハマったら抜け出せねぇんだって、マジで」


 長田も口元を覆うように押さえ、クククと笑った。

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