Dear Me


 私がそれを見つけたのは本当に偶然だった。

 


 幼馴染みの彼が大学の都合上引っ越すことになりそのお手伝いをしに私は彼の部屋に来ていた。

 小学校まではよく遊んでいたけれど中学からはクラスも遠くなり話す回数も減っていった。

 高校生になると朝出る時にたまに会うぐらいで話さない。

 だんだん距離が離れていく気がしていたけど今日手伝いに呼ばれ普通に話して全然そんなことも無いと私は安堵した。



 でも私は彼のことを全然知らなかった。知っているのは小学生だった時の彼で中学、高校の彼を私は何一つ知りもしなかった。


 机の上に置かれた一冊のノート。

 表紙には大きさや形がバラバラで横に真っ直ぐ書けていない。斜めに上がったり下がったりと歪な感じで英語が書かれている。何とか読んでみると「Dear Me」と書かれている。


 私は最初の一ページを開き黙読する。

 日付は私たちがまだ中学生の時だった。

【辛い日は続かないから幸福な日が来るまで書き続ける】

 そう一行目に書かれている。

 私は最初のページを読み終わるとパラパラとノートをめくり続けた。

 ぐしゃぐしゃな文字が一面に書き連ねられている。それがどこまでも続いている。

 日付は最近のもある。

【家出て誰も僕を知らない所でなら幸福があるはず】

 そう書かれている所でページは終わっている。


 私は何をしにここへ来たんだろう。彼はどういう気持ちでこのノートを作ったのだろうか。

 文字を見ればどういう気持ちで彼が書いていたのか想像がつく。

 ぐしゃぐしゃで歪に書かれた文字。そして表紙の「Dear Me」

 私は涙が溢れないよう顔を上げ拳に力が入る。泣いちゃダメだ。私が泣いちゃダメだ。



 私は彼が待つ下に降り、何も言わずノートを渡した。彼がこんな大事なものを机の上なんかに忘れる訳がない。私に読んで欲しくて、誰かに知って欲しくてわざと置いてたんだ。

 

 彼は何も言わずノートを受け取った。

 目を赤くして私はニッコリ微笑んだ。

「次は絶対大丈夫だから....この次が最後だと私は信じてるから」



 彼は車に乗るとき、ポツリと口にした。


「ありがとう」....と

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る