最終話
気づいたら俺は電気の消えた暗い部屋で横になっていた。
「いてて……」
激しい頭痛を感じて頭を抑えつつ身体を起こす。
ここはどこだっけ……覚えていない。意識がはっきりしていないから、自分が今どこにいるのかも分からない。
ふらふらとした足取りでドアの前に向かう。
──ガチャッ
ドアを開けて、そのままドアと一緒に前に倒れる。
──ドダンッ
「いてぇ……」
意識がはっきりしていないのに、痛みだけは鮮明に感じる。
ダッダッダッと階段を駆け上がってくる音が聞こえる。誰だろう。シズキ? トモキ? 分からない。視界がボヤけていて認識出来ない。
「マコト君っ! 無理しちゃダメだよっ!」
この声はシズキだ。
「ははっ……ははははっ……」
「どうして笑ってるの? だ、大丈夫?」
俺は……俺はトモキの家に行ってないんだ。ここは俺の家で、女装もしていない。
意識が戻ってきて視界がはっきりしてくる。
「ふぅ〜……」
仰向けに横になって天井を見上げる。俺の家の廊下の天井だ。
「悪ぃなシズキ。また心配かけちまった」
「……この馬鹿っ! 悪いで済んだら警察なんて要らないわよ!!」
「警察?」
俺は起き上がってシズキにあの後の事について詳しく話を聞いた。
どうやら家にはシズキの兄のタケルさんが連れてきてくれたらしい。俺が泣きながらトモキの名前を叫んでいて、それを必死にシズキが抱きついて俺の身動きを封じていた所を、たまたま街の見回りに来ていたタケルさんが見つけてくれたそうだ。
それからタケルさんが無理矢理俺を抱き抱えて家まで連れてきて、しばらく俺は暴れていたが段々と落ち着いてきて眠りについたらしい。
そうして俺は部屋で寝かせられて、シズキとタケルと父さんの3人で話していたとか。
「……ごめんなシズキ。でも、もう大丈夫だ……俺は勝った……」
「か、勝った……?」
拳を上に掲げて、清々しい気持ちで勝利宣言した。
俺はもう女装をしない。シズキを妻にして幸せにするんだ。
「んっ!?」
シズキの頭を寄せて唇にキスをする。
ビックリしたシズキも、段々と嬉しそうにそれを受け入れてくれた。
何故かは分からないが、心のもやもやとか色んな物全てがスッキリ無くなったような気がした。
「うおっ! ほらっ!! シズキちゃんとマコトはやっぱりラブラブなんだようぉいっ!!」
「お、落ち着いてくださいお父さんっ! 興奮しすぎですっ!!」
丁度階段を上がってきた父さんとシズキの兄のタケルさんが、そんな俺達の様子を興奮した様子で見てきたからすぐにキスをやめる。
「愛してるぜ、シズキ」
「恥ずかしいからやめてよっ……」
そんなシズキの顔は、嬉しそうに笑っていた。
その日から、俺はマコになって暴れるような事はなかった。女装道具を見ても特に何かを思う事はなく。いつも通りの日常を過ごすことができた。
トモキには勝利宣言をメッセージで送って、シズキとのイチャイチャした画像を送ったから悔しそうにするアイツの顔が目に浮かぶ。
女装道具は完全に捨て去り、シズキと付き合い始めて2週間でついに初めての行為に及ぶことが出来た。
初めての相手がトモキだった、という最悪な記憶は捨て去り。俺はシズキと身体を重ねて最高の時間を過ごした。
そして今日は遊園地にデートに来ている。
観覧車に乗って一番高い所に来た瞬間にキスをする。遊園地にいる人全員に俺とシズキの愛を深さを見せつける為にだ。
「おっ、あそこの乗り物楽しそうだな。後で行こうぜ」
「絶叫系は無理だって言ってんでしょバカ」
「すぐ殴る癖はやめようぜ……な?」
「嬉しい癖に」
「ふっ……まあな」
俺とシズキの愛はいつまで経っても変わらないんだな。
〜完結〜
不良な俺の趣味が女装な2件。 Croquis @Croquis
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