第13話


「あっ……あ゛っ…………ひひっ」

 涎を垂らし、白目を向きながら横たわる私。その横でトモキ君は私の頭を撫でながら一緒に寝ていた。


 お腹一杯に注がれて、溢れ出るトモキ君の温かい愛を感じながら腰をビクンビクンと震わせる。


「もうおじちゃんだけじゃないんだよ。俺がいる」

「トモキ君っ…………私がっ……欲しいのっ?」

「ああ、欲しい」

「あはぁっ♡」

 喜びの声を上げておしっこを漏らす。もう完全に、私は堕ちてしまった。


 もう後には戻れない。腐れきった私の心を、どんどん腐らせていくトモキ君から離れる事ができない。ずっと一緒にいたい。


「それじゃあ、また明日も会おうね」

「うんっ……絶対にっ……」

 私はトモキ君と約束した。






「……はぁ〜……なんでこんな事にっ……」

 日が暮れる前に家に帰ってきた俺は、頭を抱えて女装道具の入ったバッグを投げ捨てた。


「くそっ! これじゃ辞められねぇじゃねぇかよっ!!」

 自分が何をしたいのか分からない。男に犯されて、喜んで。また女装してトモキの家に行く? ダメだ。今日で終わらせるって言ったじゃねぇか。


 正気に戻った俺はすぐにスマホでトモキにメッセージを送る。


『おいふざけんな。俺はもう2度とあんな事しねぇからな』

『マコちゃんは喜んでたよ』

「うっ…………」

 すぐに返信が帰ってきて、俺は思わず唸る。


 トモキの野郎が……人の弱みに漬け込んで襲ってくるクズ野郎だとは思わなかった。


『もうマコちゃんとは約束したんだ』

『そんなもん俺から拒否ってやるよ』

『どうだろうね 次来たら俺の勝ちだね』

 次、というのは約束の明日。しかし明日はシズキとデートの約束の日。その日に約束をしてしまったのがトモキの敗因となる。


 その日さえ行かなければ、俺は女装を辞められる。


『負けた言い訳を聞くのが楽しみだよ』

 俺はそれだけを言い残して、トモキをブロックした。






 シズキとデートの約束の日当日。俺は朝からなんとも言えないモヤモヤ感を感じながらデートの準備をしていた。

 トモキとの約束。シズキとの約束。


「私は…………」

──ピンポーン

 家のインターホンが鳴った。


 俺はすぐに荷物を持って玄関に向かう。


「やっほ!」

「よお……」

「今日をずっと楽しみに…………マコト? そんなに急いでどこに行くの?」

 外に出た瞬間、俺は足を別の場所へと向かわせていた。


「ねぇマコトってば! どこ行くのって!」

「離せっ! 俺は約束をっ!」

「約束!? 私とデートの約束でしょ!? ねぇマコト!!」

「っ──!」

 そうだ……そうだよ。シズキとデートの約束じゃねぇか。俺は……俺はなんでトモキの家に向かってたんだよ。


「……悪い……なんか俺おかしい……」

「大丈夫……? やっぱりまだ休んだ方が……」

「っ……頭がっ…………!」

 突然激しい頭痛に襲われて、俺はその場に倒れ込んだ。


「大丈っ……なんで……女装道具を持ってきてるの……?」

「っっ……違うんだっ……俺はっ……」

 激しい頭痛が俺を襲う。目の前がフラフラとして、気持ち悪い感覚から吐き気がやってくる。


「お゛ぇぇっ……げほっ……」

 胃の中から白い何かが吐き出された。喉が焼けるように痛い。


「きゃっ! い、一旦帰ろ?! ねっ?」

 シズキが俺の荷物を拾って、倒れた俺を起こそうと必死に腕を掴んで持ち上げる。


 しかし体格差のある俺に、シズキ1人の力じゃ持ち上げることができない。


──マコちゃんが欲しい

──必要なんだ

 トモキの声が頭に響く。


「マコト君ってばっ! っっもうっ!」

 必死に俺を起き上がらせようとするシズキの声も、頭にガンガンと響いてくる。


 アスファルトが熱い。蝉の鳴き声が響く。意識がぼんやりと遠のいていく。


「私はっ…………っ!」

「痛っ! マコト君っ!?」

 立ち上がって荷物を拾う。


 それからの記憶は俺にはなかった。

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