第11話


「ようお前ら。そんな所でデートか?」

 シズキとのんびり公園の中を眺めていると、父さんがやってきた。


「遅かったですよ。マコト君と話をしてマコト君のお父さんが来るのをずっと待ってたんですから」

「えっ? シズキが呼んだのか?」

「そうよ?」

 まずい。さっきのキスとか見られてないだろうなと思いながら父さんの方を見ると、一瞬目は合ったもののすぐに目を逸らされてゲホンと咳き込んだ。


 父さんが咳き込む時は必ず何かを誤魔化している時である。


「お前っ! 見たなっ!?」

「待て待てっ! こんな公園でしてたら誰だって見ちゃうだろっ!?」

「このっっっ…………1発殴らせろ」

「マコト君っ! 暴力したらまた痛めるって」

「はぁ……」

 父さんに恥ずかしい所を見られてしまって殴りたい所だが、利き腕の右手で殴ったらまた痛めてしまう。


「迷惑かけてごめん」

 一先ず父さんに謝る。わざわざ迎えに来てくれたんだからな。


「ったく、心配したんだぞ。ただでさえやせ細ってみっともない身体だってのに、外に出たら貧血で倒れてんじゃねぇかとなぁ──」

「あぁあぁ分かったから。さっさと帰ろう」

 父さんは心配性なんだ。特に家族の中では1番のな。


「それで、シズキはなんでこんな所に居たんだ?」

「マコト君がここに来るんじゃないかと思って待ってたのよ。そしたら丁度鉢合わせたからすぐにお父さんに連絡して来てもらったの」

「……お前すげぇな」

 女の勘は良く当たるって言うが、これは流石に勘とかいうレベルじゃなくて未来予知レベルじゃないだろうか。


「シズキちゃんも家に送ろうか」

「あ、はいお願いします」

 普通の女の子のはずなのに、シズキが怖くなってきた。






 車に乗って帰る途中、父さんにこんな事を言われた。


「なんかスッキリした顔してんな」

「スッキリ……? そうか?」

「シズキちゃんとキスして色々吹っ切れたんじゃねぇの?」

「なっ!!」

 そう言われてシズキの方を見ると、顔を赤くして身体を小さく丸めていた。


 確かに、男としてシズキと付き合えるということは女装する理由が無くなった訳だし、小さい頃からの夢が叶って嬉しいけど……まあそうだな。


「ああ。シズキは俺の女だからなっ! なんつって」

 シズキの肩に腕を乗せて偉そうに言ってみた。


 シズキの方から殺気を感じたので咄嗟に腹筋に力を入れてみたが、特に攻撃されない。不思議に思ってシズキの方を見ると。


「……その……お父さん…………よろしくお願いします……」

 なんと顔を真っ赤にしながら父さんに挨拶をしていたのだ。これはつまり、俺の妻になる事が決定したということ。お父さんと呼んでいるのも、つまりはそういう事だ。


「はっはっはっ! シズキちゃんの方が男らしいな! 夫がシズキちゃんで妻がマコトか!」

「バカ言ってんじゃねぇ。俺がシズキの夫になるんぁよ!」

 思い切って男らしさを見せようとシズキの顔にキスをする。


「っ────! バカッ!」

「ゲボぉっ!?」

 今度こそシズキが耐えていた殺気が爆発して、拳が見事に顎に命中して俺は意識を失った。






「──い──ゃあまた──」

「マコ────くな!」

「も────て──いっ!」


 んん……車の外から父さんとシズキの話し声が聞こえる。俺は確か……シズキに殴られて意識失ったんだっけな。


 すぐに起き上がると、車の外でシズキは父さんと手を振って家に帰っていっていた。もう到着したようだ。


「ようマコト、起きたか」

「着いたんなら起こせよ……」

「気持ちよさそうに寝てたからな。というかお前、やせ細ってるからか知らねぇけど、女っぽくなったな」

「……は?」

 急に何を言い出すんだか。父さんもシズキに殴られたのだろうか。


「元から中性的な顔で可愛い奴だとは思ってたけどよ、なんか更に女っぽくなってたから起こすのを躊躇ったんだよ」

「冗談はやめろ。俺は学校一のヤンキーだぞ」

 車から降りて自分の家に帰る。


「下手したら女に間違われるぞ」

「やめろって……早く飯食おうぜ」

「そうだな」

 今日は久しぶりに父さんと一緒に夕食が食べられる。たまには色々と話して親孝行しねぇとな。

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