第10話

「くそっ……どこに行ったんだよっ!」

 車を走らせながら必死に目を凝らしマコトの姿を探す。かなり長電話をしていたからどこまで行ったのか目星が付かない。


──ピロン

 と、その時。スマホから陽気な音が流れた。


『マコト君の友達のシズキです。マコト君を、誘拐されたあの公園で見つけました。今話をしているので来てください』

 誘拐されたあの公園というと、警察から場所は聞いている。


 すぐに速度オーバー気味で車を走らせる。もしも警察に見つかったら遅れるのは知っているが、今はそんなの関係無い。すぐにでも迎えに行かないと何するか分からない。




◆◇◆◇◆




「あれ? なんでシズキがここに?」

「それを聞きたいのは私の方よ。なんでマコト君がこんな所に、それも汗だくでいるの? 家にいるはずでしょ?」

「……なんでだろう……な」

 何故か必死にこの公園に走ってきていた。理由は……分からない。


「とりあえず座って話をしましょ?」

「そ、そうだな。久しぶりに会ったんだしな」

 俺はシズキと一緒に日陰の椅子に座って、公園の中を散歩する人達や走る人達を眺めた。


「……もうすぐ夏休みも終わりか」

「そんな事言ってる場合じゃないでしょ? マコト君、もうあの事件の事は忘れようよ」

 そう言われても、忘れられない物は忘れられないんだ。なんせ何日も誘拐されて過ごしたんだからな。


「そういや課題もやってねぇな」

「マコト君……」

「あぁごめん。なんだ?」

「私ね、気づいたのよ」

「……? 何を?」

 突然何を言い出したのか分からず、俺はシズキの話に意識を集中させる。


「私ね……マコト君が好きなの」

「なっ……こ、告白っ!? 今っ!? えっ、ど、どうしようっ……何も準備してねぇっ……」

 突然告白されて動揺する俺。


 いつもは俺なんかを嫌っていたシズキなのに、突然告白されてどうしたら良いか分からなくなってしまった。

 ずっと片思いだと思っていたからだ。相手から告白してくるという予想外の出来事に混乱する。


「聞いてほしいことがあるの」

「うっ、うんっ?」

 一先ずシズキの話を聞くことにした。


「私ね……マコト君みたいな人が好きだったの。今まで男臭い人は嫌いって言ってたんだけど……マコト君は好きなの」

「俺って……男臭くないか?」

「そ、そうなんだけど……」

 肯定されると少し傷付くな。


「その……これはマコト君として聞いてほしいんだけど」

「あ、ああ」

「女装していたマコト君も、マコト君じゃない?」

「まあ……俺だな。マコじゃ……ない…………」

「マコト君」

「あっ、ん?」

「私は今のマコト君が好きなの。もう女装はしなくていい。だから……マコト君、私と付き合って」

「んっ──!?」


 突然、シズキは俺を抱きしめて唇にキスをしてきた。

 イチゴ味の甘くて良い匂いのするキスに、頭がクラクラとしてくる。シズキは俺の右手を掴んでシズキの胸を触らせてきた。

 そんなに大きくないけれど柔らかくて、温かくて。心臓がドキドキしているのが右手の平に伝わってくる。


「んっ……はぁ……マコト君……好き……」

 キスをし終えると、シズキは泣きそうな目で俺にそういった。


「なんで……泣きそうなんだよ……」

「分かんないっ……でもマコト君が大好きで大好きでっ……この気持ちが収まらないのっ!」

「俺だってっ……嬉しすぎて泣きそうだよっ!!」

 今度は俺の方からキスをしてやった。


 口の中に舌を入れてシズキの温もりを感じる。服の中に手を入れてシズキの胸を揉む。

 男臭い俺だけど、精一杯自分の好きという気持ちを伝える。


「んっふぅぅっ……」

 シズキがプルプルと震えて俺の手を掴む。


 段々と掴む手の力が弱まってきて、シズキの顔がトロンとした表情になってきた。

 俺は力無く倒れそうになるシズキの背中に手を回して支える。周りの視線なんて気にしてられるか。


 精一杯の愛を伝えて離れると、シズキはゆっくりと俺の方に倒れてきた。


「……バカッ……力が強いのよっ……」

「ごめん……愛してる」

「…………私ももっと愛してる……世界一愛してるっ」

 ギュッと腰に抱きついてきて、俺はシズキの頭を撫でてやった。


 心のモヤモヤが取れたような気がして、スッキリとした気分になる。これが……男になるという感情なのだろうか。


「もう女装しないでね……」

「ああ……シズキが愛してくれるならな……」

「死ぬまで愛してやるんだから……」




◆◇◆◇◆




 遠くからそれを眺めていた父親は、とんでもない物を見てしまったような気がして顔を真っ赤にしながらスマホで動画を撮っていた。


「あいつらっ……熱い……熱過ぎるっ……」

 父親らしくない乙女のような顔でひたすらそれを眺めていた。

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