第8話
シズキの兄が帰って病室では俺とシズキの2人きりになり、お互いに話したい事を話せる状況となった。
「マコト。この事件の事は……なるべく早めに忘れた方が良いわ」
「そう言われてもな……」
「難しいわよね……私が力になれれば良いんだけど、何をしたら良いのか分かんないし……」
シズキは本当に俺に心配をかけてくれているみたいだ。マコとしてではなく、マコトとして。
「じゃあ今度、俺と2人きりでデートしよう。女装は無しでな」
「なっ、アンタと2人きりっ…………分かったわ。仕方ないわね」
あれ、その反応はなんだ? 絶対に断られるかと思ったのだが、何故顔を赤くして目を逸らす?
「お前まさか……ついに俺の事も好きになったのか?」
「は? 何言ってんのバカじゃない? 死ね」
「う、うっす……」
そんなはずないよな、と思いつつ肩を丸める。
「でも……」
「でも?」
「…………やっぱり何でもない! こっち見ないでくれるっ!?」
「いてぇっ!!」
ビンタされる勢いで顔を押されて首が変な方向に曲がった。あやうく死ぬところだったぜ。
「明日。警察の人が来て精神状態を確認するらしいから、朝からマコになっててだって。お兄ちゃんが」
「そうか。やっぱりお前の兄さんには俺が二重人格だと伝えてるのか?」
「そうよ?」
当然じゃない、とでも言いたげな顔をしやがる。やっぱりシズキは少し危ない。それでも好きなんだけどな。
「本当に……無事でよかった」
「まだ言ってるのか。俺はもう大丈夫だ」
「……そうよね。またいつもの楽しい日々が戻ってくるのよね」
「ああ、また3人でデートの続きしような」
私はそんなマコト君の言葉を信じていた。「大丈夫」 それはマコト君の言葉であって、マコちゃんの言葉じゃない。
マコちゃんはやっぱり、変わってしまっていた。
次の日、私と今日駆け付けてきたトモキ君。そして警察と病院の人でマジックミラー越しに精神状態をチェックされるマコちゃんの様子を見ていた。
「違う違う違う違う……私はっ……あのおじちゃんは悪い人なんかじゃないって何度も言ってるでしょっ!?」
泣きながら大声で叫ぶマコちゃんは、今までのマコちゃんとは違った。
目付き、雰囲気、顔付き、仕草、感情の揺れ。全て別人のように変わっていた。
「落ち着いて……君は誘拐されていたんだ」
「触らないでっ!! 私はあのおじちゃんを助けないといけないのっ! 私じゃないとダメなのっ!」
まるで子供のように暴れて、近づく警察の人に威嚇をする。
まるでマコト君じゃないみたい。いや、私がついていた嘘が現実の物になったみたいに、マコちゃんの精神状態は酷い物だと診断された。
昨日の夜のマコト君は私と普通に話せていた。そこで私とトモキ君が部屋の中に入ってマコちゃんと話すことになった。
「ねぇマコちゃん」
「……ぁ…………ぅ……」
マコちゃんはただ下を向いてブツブツと何かを呟き続けるだけで、私達の声に反応しない。
『マコト君の名前を呼んであげてください』
そう指示されて、私はトモキ君と目を合わせて頷いた。
「「マコト君」」
するとマコト君はピクンと反応して、こちらを見上げた。
「……んっ? 悪い、話聞いてなかった。なんだっけ?」
「……」
マコちゃんの時の意識はあるけれど、その間に行動した事や発言した事に対して自覚はないようだった。
マコちゃんだけが変わってしまった。私の嘘が現実になってしまった。
私は昔のマコちゃんが好きだった。マコト君がマコちゃんを演じて、ちょっと虐めると可愛く反応するのが大好きだった。
それってつまり、マコト君が好きだったって事なの? 私はマコちゃんが好きだったのに、今は……今のマコちゃんは怖くて好きになれない。
無責任だよね。私がマコちゃんをこんな風にしちゃったのかな。私がマコト君をマコちゃんにしなければ……マコちゃんは無事で居られたのかな。
「ごめんねっ……ごめんねっ……」
「お、おいシズキどうしたんだっ? 泣くなよ……俺は大丈夫だって言ってるだろ?」
謝る私にマコト君は優しく声をかけてくれる。私はマコト君が好きなのかな。
「ごめんマコト。もう行くな」
トモキ君が私を部屋の外に連れ出して、再びマコト君は1人きりになった。
ふぅと背もたれに深く座って、ふと下を向いて自分が女装している事に気づくと再びマコちゃんがやってくる。
「シズキさん辛かったですね……今日はシズキさん達もマコト君とマコさんも休ませましょう」
病院の人は全員に気を使って、今日は休むことになった。
全部、私の責任なのかもしれない。
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