第5話
「んんんんんん…………むぅぅぅぅっっ……」
孤独感に耐えきれず、いよいよ泣き出してしまった。壁をどんどんと蹴り続け。頭を尿の溜まった地面に打ち付けて。
気が狂う程の長い時間何も無い時間を過ごした俺は、既に正気を保っていられなくなってしまった。
もぞもぞと芋虫のように動いて身体を起こし、壁に背を向けて座る。そして再び壁を蹴りながら頭を背後の壁に打ち付ける。
拘束された動かせない手足も、無意味にガタガタと動かし続ける。
「むぅぅぅぅぅぁぁぁぁ゛ぁ゛ぁ゛っ…………あ゛ぁ゛っ!!」
──ダンッ!
意識が無くなるほどの衝撃を頭に加えても、この暇な時間はゆっくりとしか進まない。いや、進んでいないのかもしれない。
俺はただ、真っ暗な場所で永遠に1人で暴れ回っているだけの何も無い存在。誰も助けに来ない、誰もいない。俺だけしかいないのなら、助けに来るはずがない。
ただただ、俺はここにいるだけの存在。
「んふっ……ふふふっ…………ふふふふふふっ……」
何を考えてるんだろうと、ついには自分さえもがおかしくなってきてしまった。
涙と自分の尿で濡れた身体は臭かった。パンしか食べていない俺のお腹はクゥと音を立て、最後に1度頭を打ち付けて意識を失った。
意識を失って目を覚ましても俺はまだ真っ暗闇にいた。
「ふふふっ……ふっ……ふふふふふふっ……」
「おはようマコちゃん」
「っ! んっ! んんっ!」
おじちゃんの声がして、喜びを声を上げる。やっと人と話せる。声を出せる。人の温もりを感じれる。
「今からマコちゃんの新しいお家に向かってるからね」
そういってゴツゴツした手で口に巻かれている布を取ってくれた。
「新しいお家……?」
「マコちゃんならきっと気に入ってくれるよ」
頬を優しく撫でられて、その温もりが気持ちよくて笑みが浮かぶ。
「沢山御漏らししちゃったね」
「うん……我慢出来なくて……」
「ごめんなさいは?」
「ごめんなさい……」
「よしよし、いい子だね」
すると今度は目隠しを取ってくれた。
「んっ……」
久しぶりに光が目に入り、眩しくて思わず目を瞑る。
ゆっくりと目を開けて光が目に馴染んでくると、おじちゃんの顔が写った。
思っていたよりも痩せていて、男らしい目元。ガタイはがっしりしていてジョリっとした髭が生えている。
「おじちゃんの顔……」
笑顔を見せるおじちゃんの顔を、しばらくぼんやりと眺めていた。何日ぶりに見る景色だろう。こんなに人の顔に注目したことはない。
「今からここに入るんだよ」
そういっておじちゃんは指を指した。
その方向には普通の部屋の扉があって、ここはごく普通の一軒家。特に変わった様子のない家だ。
その扉をおじちゃんが開けると、カーテンをガムテープで防がれて、いくつかの漫画とベッド。猫用のトイレが置いてあった。
可愛いクマの人形も枕の横に置いてある。
「ベッドに座ってくれるかな?」
「……?」
よく分からないままベッドに言われた通り座る。
するとおじちゃんは長い鎖に繋がれた手錠をベッドと俺の足に付けてきた。
「これも可愛いマコちゃんの為だからね。怖くないよ」
「怖くない……うん、怖くない」
手錠が足に付いて、その新感覚が気持ち良い。ベッドのふかふかの感触も気持ち良い。
「じゃあおじちゃん、もう行くね」
「行っちゃうの……?」
「大丈夫。寂しかったらその漫画を読んでてもいいし、人形さんを抱きしめててもいい。トイレがしたかなったらあそこでするんだよ」
そう言って猫用トイレを指差す。
「分かった」
今までの場所よりもかなり充実した空間に、俺はワクワクしていた。
今日からここで新しい生活が始まる。このおじちゃんは怖い人じゃないし、一緒に居て楽しい。別に怖くない。
「じゃあね」
おじちゃんはそういって部屋から出ていった。
「……」
途端に寂しくなった俺は、おじちゃんに会いたくなって扉に向かう。
──ガタッ
しかし、足首に付けられた手錠がそれ以上進むのを拒む。
ベッドはボルトでしっかりと固定してあり、俺は一定の範囲内じゃないと歩けないようになっていた。
ドアノブに手が届かない。おじちゃんに会えない。
寂しくってベッドの上に座ってみる。
柔らかくてふわふわで、冷えきった心を温めてくれる。クマの人形を抱きしめると、孤独感が満たされる。
「こんにちはクマさん。
「マコちゃんこんにちはっ」
今日からよろしくね。
「うんっよろしくね」」
1人でクマさんと会話する。話し相手ができた。
漫画を手にとって見ると、有名な少年漫画から恋愛ものの少女漫画まで。棚に沢山の漫画が並んでいた。
しかし、今は漫画を読む気分じゃない。
ベッドに横になり、暖かい布団に潜って目を瞑る。
目を瞑ると寂しいからクマさんを抱きしめる。そして、おじちゃんの事を思い出しながらゆっくりとパンツを降ろす。
イカないように、イカないように久しぶりの快感を楽しんだ。気持ち良い、楽しい、寂しくない。
この部屋が俺の居場所なんだ。
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