第2話

今日はいつも通りシズキとトモキと俺の3人でデートの日。お気に入りのホットパンツと黒いタイツ、黒のブラウスというファッションで完璧に女装している。

 もうすぐで夏休みも終わりに差し掛かり、シズキの家で一緒に課題をして今は休憩がてらに街に遊びに来ているのだ。


「マコ! あそこのソフトクリーム買おっ!」

「シズキに色々買ってるからもうお金あんまりないんだよ〜?」

「大丈夫、俺が払うから。マコも買いなよ」

「本当っ? ありがとう!」

 俺が笑顔を見せると、トモキは少し顔を赤らめてソフトクリームを売っているお店の前にやってきた。


「私はイチゴ味でお願いね」

「マコは?」

「ん〜じゃあ私は普通のバニラで」

「ソフトクリームのイチゴ味とバニラ味お願いします」

 トモキは買わないのかと尋ねると、あまり食欲がないらしい。実はトモキはかなりの少食で、普段からそんなに食べる性格じゃない。



「それにしても……何かさっきから視線を感じるんだよね〜」

 ずっと俺達を付けているような視線を家を出た時からずっと感じていた俺は、後ろを振り返ってみる。しかしほとんどの人が俺達の方を見ている為に分からない。


 まあ、俺は美少女だし見られるのは当然だ。しかしストーカーとなると話が違ってくる。


「マコの事ならストーカーだって倒せるでしょ?」

「ダメだよ。怖くて動けないし、もし相手が刃物を持っていたら? 強い俺達が守ってやるんだ」

 トモキは未だに俺が精神的な病気を持っている事を信じており、ずっと俺を心配してくれている。


 これ以上嘘がバレたら殺されるじゃすまない。俺はこの嘘を付き通さなければならないのだ。


 ソフトクリームを食べながら街中を歩いていく。夏休みなだけあって学生達が多く歩いており、人が沢山集まっている。

 逸れないようにと、トモキにこっそり手を繋がれて歩いているのだが……緊張して手汗をかいていないだろうか。ドキドキしてしまう。


「きょ、今日はどこに行くの?」

「少し遠くに自然が多い公園があるんだ。そこの涼しい所でのんびりしよう」

 まあ課題終わりの休憩の為に来ている訳だし、それが1番良いかもしれない。






 公園に到着すると、街中程ではないもののそれなりに人々がいた。こんな暑い中ランニングをする人、カップルのデート。ペットの散歩。スマホゲーム。


「改めて日陰の有り難みが分かるね〜……」

 汗を拭きながらちょっとだけトモキの手に触れてみると、握ってきた。


 やっぱり女装している時は不思議とトモキの事が好きになってドキドキしてしまう。無意識に触りたくなってついつい手が触れてしまっただけなのですぐに引っ込めようかとも思ったが、握られてしまったら動けない。

 俺を挟むようにトモキとシズキが座っている為、シズキには見えない位置で手を繋いでいる。もし見つかったら嫉妬されるだろうな。


「ほらマコ、アイス溶けてるよ」

「わわっ、早く食べないとっ……」

 ソフトクリームが溶けて指先にかかってしまった。暑い日のアイスは美味しいけど時間制限があるのが面倒だな。


 下でぺろりと溶けた部分を舐めとると、シズキがふふっと笑った。


「なっ、何っ?」

「可愛い舌……私の顔も舐めてほしいわ」

「やめてよ気持ち悪い」

「気持ち悪いって何よっ!」

「いたひぃっ!」

 ソフトクリームで冷えた頬を摘まれて激痛が走る。


「なぁマコ。まだ視線感じるか?」

「え? う、うん。どこからかは分かんないけど見られてる気がする」

 トモキはずっとストーカーの正体を探していたみたいで、辺りをキョロキョロと見渡している。


 折角の休憩なのに、そんなに気を張り詰めらせては休めないんじゃなかろうか、と心配になる。


「気にしないでゆっくりしようよ」

「っ……そうだな。ごめんな、マコ」

 そうしてトモキと仲良く話していると再びシズキが嫉妬して俺の手を摘んできた。


 2人とデートしている俺が1番疲れているのだが、出来れば休ませてくれないだろうか……。


「ごめん、ちょっとトイレ行ってくるね」

「行ってら〜」

「気を付けてな」

 少し休憩と汗で崩れたメイクを直す為にトイレに向かう。


 この公園には男女両方使える多目的トイレというものがある。赤ん坊のオムツ替えをできるスペースや、身体の不自由な人でも扱い易いようになっており、俺もそのトイレを利用する。

 男子トイレや女子トイレに入る訳にはいかないからな。






「ふぅ〜……2人ともどこだったっけなぁ〜…………むぐっ──っ!?」

 手をハンカチで拭きながらトイレから出てきた瞬間だった。


 突然背後から口と目を抑えられ、両手と両足を担がれて身体を持ち上げられた。


「むぐっ! ん──っ!!」

 必死に暴れるが、俺を運んでいるのは体格が大きい大人のようで逃げる事ができない。


 何も見えない中、気づいたら車をバタンを閉める音がして両手両足をキツく縄で縛られた。


「むぅ──っっ!!」

「君がマコちゃんかぁ〜……可愛いねぇ〜?」

 男の人の声と同時に、太ももをゴツゴツとした手が嫌らしく撫でる感覚がした。


「噂通り、良い筋肉だねぇ……可愛いねぇ……」

「んんん────っ!!!」

「暴れたらその綺麗な身体に傷が付くことになるよ?」

「んっ……ふ」

 完全に犯罪に巻き込まれたと確信した俺は、大人しく横になったまま怯えていた。


 拘束がなければすぐにでも逃げ出せているのに、随分と手際が良い。常習犯、もしくは俺を誘拐する為に練習したのかのどちらか。

 とにかく、自分の命を最優先にこいつらの言う事を聞くしかない。


──────


いきなりシリアス入ります。

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