人生ドナー提供者をさがしてます

ちびまるフォイ

妹はリア充(?)

「兄貴って休みの日なにしてるの?」


「別に……なにもしてないけど」


「そんなんで生きてて楽しい?」


「楽しくはないけど、死ぬ理由もないし……」


「ふーん」


こんな終末的な会話を日曜の夕方に妹と交わした。

妹には「ま、私みたいなリア充の気持ちは一生わからないよねw」と煽られた


「……というわけで、人生ドナー契約を結びに来たんです!!」


「いやあの、申し上げにくいんですが、人生ドナーといっても

 自分の望んだ人生をあなたに提供するものじゃないですよ」


「え゛……。リア充の人生が手に入るんじゃないんですか!?」


「むしろあなたが提供する側です」


よく調べなかった俺も悪かったが人生ドナーを誤解していた。

とはいえ、このまま何もせずに家に帰ればまた妹から


「予定ないのに外出るとかwwwwww非リア充は大変だねwwwwww」


などと爆笑されるだろう。

なし崩し的に俺は人生ドナー契約をその場で結んだ。


「俺の人生なんて、誰が必要とするんだろう」


義務教育を可もなく不可もなく過ごし。

高校も問題も恋もせずに過ごし。

今はごく真面目に普通な人生を過ごしている。


毎週の休日に「友達と予定ある」などと言って家を出る妹とは

人生の充実度に圧倒的な差がある。


こんな人生なんて……。



>人生ドナーの希望者が現れました。



「はっや!! え、もう!?」


希望者はどんどん増えていく。

俺のなんの変哲もないごく普通な人生を欲しがるなんて。


「これだけ需要があるならいっそ……」


金に汚い俺はオークションを開催した。



「100万円!!」

「200万円!!」

「200万1円!」


「250万円!」

「250万1円!」

「300万!」

「300万1円!」


「1円で落札すんなよ!!」


オークションはいろいろ騒ぎになったが最終落札で大金が手に入った。

落札者とは人生ドナーを約束した。


これからは大金を手にして最高の人生が送れるはず。


「……あれ。でも待てよ。人生をドナー提供したら俺はどうなるんだ?」


自分の人生が惜しいわけではない。

ただ、もし提供して俺の人生がからっぽの抜け殻になったら。

廃人になってしまうのか。植物人間になってしまうのか。


「そうだ! 新しい自分の人生用にドナーを探そう!」


幸い、手元には大量の金がある。

金の力を最大限に使ってリア充の人生ドナーと契約を結んだ。


これで俺本来の人生を提供しても、待っているのはリア充人生だ。


「よし、安心して人生を提供できる!」


俺は落札者に自分の人生を提供した。

その後すぐにリア充の人生を移植すると、一気に日常が変わった。


「おおお! すごい! 予定がこんなにも!!」


スマホには毎日いろんな人から連絡が飛んでくる。

スケジュールには予定がいっぱい書き込まれ、異性との出会いも事欠かない。

これがリア充の人生。


「移植してよかったーー!!!」





……などと思えたのは最初だけだった。


>土曜日空いてる?

>日曜日は大丈夫でしょ

>平日の夜は毎日飲みいこう


「うう……もうこんな人生辞めたい……」


断っても断っても誘いの手は止まらない。

断るときの申し訳なさで胃に穴があきそうだ。


リア充がこんなにもせわしない生活だなんて思いもしなかった。


「こんな人生……俺にはぜったい合わないよ……」


人生ドナーの医者に相談を決めた。


「ああ、それは拒絶反応ですよ」


医者はあっさり答えた。


「リア充の人は自分の人生に嫌気がさしてドナーを探す人が多いんです。

 ちょうどあなたみたいな静かな人生を求めてね」


「それであんなに需要があったのか……」


「ま、諦めることですな。

 あなたには非リア充の生活が適合するんですよ」


「それが見つからないから困ってるんですよ!!」


失って初めて自分の人生がいかに自分になじんでいたか痛感する。

でも、もう非リア充の人生は取り戻せない。


俺はこのままずっと人に酔うようなリア充人生を強制されるのか……。








数日後、また医者のもとを訪れた。


「あれ? ずいぶんと顔色がいいですね。人生でなにかありました?」


「ええ、非リア充の人生を移植したんです。

 やっぱりこの人生が自分に一番合っているとわかりました」


ゲームにテレビにネット。

自分の時間を自分だけのために使える幸せがここにある。


「それはよかったですね。

 でも、非リア充の人生なんてそうないでしょう。

 どこで手に入れたんですか?」


「それは……」




妹の人生を移植したとは言えなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

人生ドナー提供者をさがしてます ちびまるフォイ @firestorage

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ