かんこーひー

 あたしはコーヒーゼリーにたっぷりとミルクをかけた。

 スプーンを突き刺すとそれはぷるんと震える。

 あたしはまじまじとすくい上げたそれを見つめた後、ぱくりと口の中へ。


「あまい……」


 シロップとミルクの味がした後、ほんの少しの苦みが下に触れた。

 けど、その途端にゼリーは舌の上をすべるように喉の奥へと飲み込まれる。


「にがくない……けど、これ」


 コーヒーじゃないよね。

 そう心に語り、明人をじとりと睨む。


「甘いコーヒーを飲ませてくれるんじゃなかったの?」


 けど、明人は素知らぬ顔であたしと同じようにコーヒーゼリーをつついてた。


「確かに。でも、あざみちゃんはこっちの方が好きだよね?」


 その問いに、あたしは答えない。

 ただ、ぱくりとコーヒーゼリーを続けて口にしているのが、答えているも同然な気がした。


「……うそつき」

「今日はね?」


 そんな意味ありげなことを言って、彼は笑う。


「本当に小さな一歩からでいいよ。少しずつ慣らしていこう? 無理せずにさ。そうしたらいつか、今度こそおいしいコーヒーをごちそうするから」


 それは、何て気の長い話なんだろう……。


「……それ、どれくらい時間かかるかわかって言ってる?」

「もちろん」


 明人は、しれっと言ってみせる。

 その顔はなんとも余裕や訳の分からない自信に満ちていて、とてもじゃないけどずっと見ていられなかった。

 ふいっと目線を逸らし、あたしは明後日の方向を見つめる。


「……途中で投げ出したら、許さないからね」


 気恥ずかしさに表情が崩れるなんて、あたしに限ってありえない。

 きっと、にがいコーヒーのせいなんだ。

 絶対。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

甘珈琲 奈名瀬 @nanase-tomoya

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ