あまーいこーひー?

 デート当日。

 あたし達は向かい合ってテーブル席に座り、メニューを眺めていた。


 あたしが真っ先にケーキの一覧をチェックする中、明人はコーヒーの一覧を眺めてうんうんとうなっている。

 あたしとしてはあの真っ黒なコーヒーに、本当にそんな悩むほど種類があるのか疑問なんだけど……。


 あたしはそうっと自分のメニューから顔を覗かせる。

 すると、明人がすぐにあたしの目線に気づいた。


「決まった?」

「えっ? あ、まだ」


 声をかけられ、あたしは慌ててメニューに顔を隠す。

 そして上から順にケーキの写真と名前を流し見ていき――


「これ。イチゴショートとガトーショコラ」


 ――オーソドックスともいえるケーキを2つ選ん……おっと! 忘れちゃいけない。


「それと、ジャンボミックスフルーツパフェ!」


 にっと明人に笑い掛けながら言うと、彼は心配そうにあたしを見つめる。


「それ、全部1人で食べられる?」


 当り前なことを訊く明人に、あたしは胸を反らして「もちろん」と答えた。

 でも……。


「ここのパフェ、すごく大きいよ? ほら」


 そう言って、彼は近くのテーブル席を見るようあたしに促す。

 明人に促されるまま視線を投げると、ちょうどジャンボフルーツパフェが運ばれたところだった。

 その大きさは、あたしが想像していたよりずっと大きくて、素直に驚いてしまう。

 あたしはそっと視線をメニューに戻し、パフェの写真をまじまじと眺めた。


「やっぱり、こっちのミニパフェにする」


 その後、パタンとメニューを閉じると明人は店員さんに声をかけた。

 さあ、いよいよだ!

 あたしは歯を食いしばり、少々オーバーに身構える。


「ショートケーキとガトーショコラ。それとこのミニパフェをひとつ……」


 淡々と店員さんに注文を伝える明人を、あたしはじっとにらみつけた。

 彼の言う苦くないコーヒーとやらの正体が、この瞬間にわかるのだ。

 どんなコーヒーが注文されるのかと、あたしは妙に緊張していた。

 その時――


「あと、エスプレッソとアイスティー」

「え?」

「それから、このコーヒーゼリーをふたつ」


 ――……あたしは、自分の耳を疑った。


 店員さんが席を離れた後、明人をじっとりまじまじといぶすように睨みつける。


「コーヒーゼリー?」

「コーヒーゼリー」


 彼は、しれっと答えた。


「アイスコーヒーじゃなくて」

「つめたいコーヒーゼリー」


 悪びれる様子もなく。


「カフェラテでもカフェオレでもなくて?」

「そのふたつは実質一緒だよね」


 彼は、にっこりと微笑んだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る