にがーい、でーとのおさそい

「あざみちゃん、デートいかない?」


 誘われた瞬間、嬉しいと思ってしまう。

 けど――


「ふ、ふーん。別にいいんじゃない……で、いつよ? どこに行くの?」


 ――こうやって言葉を取り繕えば、まさかあたしが嬉しがっているなんて彼にはバレない。

 続けてあたしは、それとなく彼の誘いを促しつつ、なんとなくそっぽを向き続けた。

 だけど。


「喫茶店。次の日曜日、コーヒー飲みに行こうよ」

「……は?」


 明人のその一言で、嬉しくない演技は本気に変わってしまった。


「もう一回。どこに行くって?」

「喫茶店」

「何しに行くって?」

「コーヒー飲みに」

「……はぁ」

「どうしたの?」

「もう一回確認するわね? 遊園地にコーヒーカップ乗りに行くんじゃなくて?」

「喫茶店にコーヒー飲みに行くんだよ?」


 やんわりと、でも譲る気のない口調で話す明人。

 あたしは思わず天を仰いだ。

 とても冗談には聞こえない。

 彼は、妙なところで頑固なのだ……だからこそ、こうしてあたしなんかに付き合ってくれるのかもしれないけど。


「絶対やだ」


 あたしだって、頑固や意地の張り合いにはちょっとした自信があるんだから。

 ふんっとそっぽを向いて腕組みしてやると、明人は少し困ったような顔になった。

 どうだ明人。

 デートだなんて期待させといて、あんな変なこというからいけないんだ。


 でも。


「そんなにいやかい?」


 明人は引かない。


「いやだってば」


 あたしだって引かない。

 そうして、あたし達の次回デート先は平行線になるかに思えた。


「……ケーキおごるよ?」


 その一言が放たれるまでは。


「……パフェも?」

「パフェも」

「………………いく」


 しかたがない。

 しかたがないから喫茶店には付き合ってあげよう。

 あたしは姑息な手段を持ち出した明人にキッと目線を突き刺す。


「でも、コーヒーは飲まないからね!」


 そして、彼にそう言って釘を刺した。

 けど、その時――


「甘いコーヒーでも?」


 ――明人は、急にそんな変なことを言い出したのだ。


「あまい、コーヒー? コーヒーなのに?」

「そう。コーヒーなのに」

「コーヒーは、苦いでしょう?」


 首を傾げて、あたしは明人を訝しがる。

 でも、明人は嘘や冗談を言ってる雰囲気じゃない。


「うん。だから、飲んでみたくない? 甘いコーヒー」


 妙に自信あり気な明人に、あたしは好奇心をくすぐられた。

 本当にそんなのがあるなら、ちょっと飲んでみたいかもだ。


「じゃあ……少しだけ、飲んであげる。でも、苦かったら怒るからね」

「わかった。指切りしようか?」

「し、しないからっ」


 片手の小指を差し出した明人の腕を、あたしはぱちんと払った。

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