第10話 パパか恋人かはっきりして!

パパが3月下旬に2泊3日で伊豆の下田に研修の出張が決まったという。


「久恵ちゃんが東京に来てから、ほぼ2年たつけど、気分転換に一緒に来ないか?」


「伊豆の下田、行ったことないから連れて行ってほしい。有給もあるから」


「昼間は研修会でいないから、一人で気ままに散策すればいい」


「そうするわ」


「部屋はどうする?」


「一緒でいいけど」


誘われた時、すぐに決めた。パパの気持ちを試す良い機会だから。パパは海の見えるという民宿に一室を予約した。


朝、品川駅から特急で伊豆下田へ直行。途中、河津桜が満開できれいだった。予約した宿に到着、ほとんど旅館と同じだった。案内された部屋は2階で海が見える。


午後から研修が始まるので、二人で近くの食堂へ行って昼食。食べ終えるとその足でパパは研修会へ、私は付近の散策に。「早く帰って」「迷子にならないで」と別れた。


3月の伊豆は暖かくて、気持ちがいい。水族館があったので入ってみる。いろんな魚がたくさん、でも一人で見るのはつまらない。歩き疲れたので、ほどほどにして宿に帰る。


2階の部屋で海をみていると、自然と今夜のことが頭に浮かんでくる。ここまで来たけど、どうしよう。


5時すぎにパパが戻ってきた。


「どうだった、見物できた?」


「海岸をブラブラして、水族館に入った。でも一人じゃつまらないので、早々に引き上げて来てここで海を見ていた」


「食事まで、時間があるそうだから、海岸を散歩に行かないか?」


「うん、行く」


海はもう薄暗くなっていて、月がでるところだった。黙って月を見ていると、パパが後ろからそっと抱きしめてくれて、頬にキスした。


キスされるとは思っていなかったので驚いた。パパはどうしてキスしたんだろうと考えて黙ってじっとしていた。それから二人はしばらく黙ったまま。


「寒くなったから、お部屋にかえりましょう」


「そうだね。風邪を引くといけない」


部屋に食事が用意されていた。民宿なので、豪華な食事ではないけど、新鮮なおさしみ、焼き魚などが並んでいる。おいしそう。二人で食事を始める。


パパが「おいしいね」と話しかけるが「うん」と言う返事しかできない。頭の中が今夜のことで一杯だから。「身体の具合が悪いの?」と聞いてくるが「何でもない」とそっけない返事しかできない。


話のはずまない食事が終わった。パパとの楽しいはずの夕食を台無しにしてしまって、ごめんなさい。パパも私が何を考えているか気が付いたみたいで、笑顔を装って、時々私を見ている。


係りの人が食事を片付けながら「お風呂まだじゃないですか」と聞いてくる。「パパ先に入って」というと、一階の浴室へ降りて行った。


係りの人が後片付けを終えると、今度はお布団を敷いてくれる。布団を2枚並べて敷いた。どうしようとジッと見つめていると、パパが戻ってきた。「お風呂にいってきたら」と言われて、着替えをもって浴室へ。


この後のことも考えて、丁寧に身体を洗った。そして覚悟を決めた。私からパパの布団に入って行こう。拒まれたら、泣いちゃえばいい、何とかつくろえる。


部屋に戻ると、パパは縁側のソファーに腰かけて海をみていた。さっきの月が随分高くなっている。何を考えているんだろう。


並んでいた布団が離してある。きっと自分からは行ってはいけないと思っているに違いない。でも私が欲しいことは間違いない。


あのキスをしてもらったときに確信したから。だからやっぱり、私から行くしかない。黙って離れた布団に入ってパパに背を向けた。


私が黙って布団に入ったので、パパは部屋の明かりを消して布団に入った。明かりは枕もとの小さいスタンドだけだが、部屋には月の光がさしている。


沈黙の時間が続く。どれくらい時間が経たか分からない。パパはやっぱり来てくれない。


私は決心して起上るとパパの布団の中に身体を滑り込ませた。恥ずかしいので顔を向けられない。


パパが手を握ってくる。私はその手を強く握り返しながら「明かりを消して」と言って抱きついた。


パパはあの時のように私を抱き締めてキスしてくれた。それからのことはよく覚えていない。


突然痛みが走って「痛い!」と言ったら、パパが身体を離した。そして「大丈夫?」と聞いてくれた。薄暗い中で見たパパの優しいあの目が忘れられない。


「ちゃんとできた?」


「ああ、できたよ」


「よかった。これで私はパパのもの」


パパの顔が見たいけどもう恥ずかしく見られなかった。


「大丈夫?」


「うん。でも疲れた。寝ましょう」


パパは優しく私を後向きにして、後ろから抱きかかえるようにして寝てくれた。


明け方、生理になりそうなのに気づいて目が覚めた。外は雨が降っている。パパはまだ寝ている。そっと、布団を出て、1階の浴室へシャワーを浴びに行った。


そして、着替えてから窓際のソファーに座ってパパの寝顔を見ながら、昨夜のことを思い出していた。恥ずかしい、あんなことがよくできた、でもよかったと幸せの余韻を楽しむ。パパが目を覚ました。


「おはよう、昨日の夜はありがとう、うれしかった。でも今日はだめよ、生理になっちゃった」


「そうなんだ、大丈夫?」


パパはそれだけいうと、やさしく微笑んだ。


食堂で民宿らしい朝食。おいしい。二人ともほとんど話をしない。でも心は満ち足りていて幸せな気持ちでいることがお互いに分かる。パパの私を見る目が優しい、時々ジッと見つめている。視線を感じると恥ずかしくなる。


パパの研修2日目。出がけに「今日は雨の日だけと見物に出かける?」と聞かれた。


「ここで海を見ている。早く帰って」と答えると「もちろんだよ。ゆっくり休んで」といって出ていった。今日は雨の日だし、ここで一日中海を見ながら幸せに浸りたい。


2日目の夜、並べてある布団にパパが先に横になっている。私は隣の布団に入って話始めた。


「私が中学3年生の時、高校受験のため夜遅くまで勉強していた時だけど、夜中に1階のトイレにおりてゆくと何か声が聞こえるの。パパとママの部屋の戸がほんの少し空いているので中をそっと覗いたら、パパとママが愛し合っていたの。驚いてそこを離れなければと思ったけど、見続けてしまったの。薄暗い中でママの顔が見えたけど、今までに私が見たこともない幸せそうな表情だったわ。そっと戸を閉めて2階に上がったけど、二人の姿が目に焼き付いて眠れなくなったわ」


「・・・・」


「私、はじめは痛いと聞いてたけど、それは少しだけで、あとはママのようにもっと素敵なことを想像していたんだけど、ごめんなさい」


パパは私の顔をじっと見ている。私も見つめると照れくさそうに微笑んだ。私が手を伸ばすと手を握ってくれた。


「おやすみなさい」


研修3日目は12時で終了。宿に戻って、今日は晴れたので、そのあたりを二人で散策後、早めに帰宅の途へ。


◆ ◆ ◆

自宅へ帰ってまた普段の生活が始まった。私は、生理中は自分のベッドで眠り、パパの寝床に入って行かなかった。本当は後ろからやさしく抱かれて眠りたかったけど。


やっと生理が終わった。お風呂から上がるとすぐにパパの部屋へ行って布団に入る。


「生理終わった」


「待ち遠しかった。久恵ちゃんのいい匂い久しぶり」


「狭い部屋の方が落ち着くね」


私が抱きつくと「久恵ちゃんが心配で無理しないよ」と、パパはやさしく私を可愛がってくれた。


「心配してくれてありがとう。はじめての夜にしてくれたように、うしろから抱いて寝て。後ろから抱かれていると、守られているのが実感できて安心して眠れるから」


「これでいい?」


「パパ大好き、おやすみなさい」

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