第8話 油断して盗難にあった!

就職してから3か月経って生活にリズムができてきた。私は落ち着きを取り戻し、働きながら生活していくことに自信がついてきた。パパに仕事の話を聞いてもらうようになり、仕事を楽しむ余裕もでてきたみたい。


明日は早番で終わるので、同僚に頼まれて合コンに参加することになった。そのことをパパに話をすると「遠慮しないで行っておいで」という。


後学のために一回は行ってみたいと言い訳をしたが、若い人は若い人との付き合いが大事と勧めてくれた。少しは心配してほしかったけど。


1次会の合コンで盛り上がったので、2次会に行くことになった。みんなで新宿のディスコのような踊れるところへ行くというので、どんなところかと興味があってついていった。


午後8時過ぎに、2次会に行くとのメールをパパに入れると、すぐに[了解、気を付けて]と返信があった。


終電の時間が近づいてきたので、荷物を取り出そうとしたが、ロッカーの中は空っぽ。ロッカーの場所を間違えてないかと探したが、間違いなく盗難にあったことがわかった。血の気が引いた。店の人に言っても、らちが明かないので、警察へいった。


バッグの中味は財布、金額は1万円くらい、運転免許証、健康保険証、マンションのカギ、携帯電話、化粧品セットなどの小物。警察で盗難届と運転免許証の再発行の手続きをした。


友人から交通費を借りて始発電車に乗ってマンションにたどり着いた。


マンションの入り口で部屋番号を押して、呼び出す。パパ起きてるかな? すぐにインターホンから声がした。


「久恵ちゃん?」


「久恵です。あけてください」


入口のドアーが開いたので、エレベーターで部屋にたどり着く。玄関のロックは外されていた。


「ただいま」


「おかえり、どうした、何かあった」


「心配かけてごめんなさい」


急いで、自分の部屋に駆け込んだ。部屋に入ってほっとした。しばらく茫然としていたが、パパが待ってると思ったので、部屋着に着替えた。それから、パパにこれまでの顛末を話した。


「起きていてくれて、ありがとう。パパの声を聴いて安心して力が抜けてしまって、疲れがどっとでてきたの」


私は泣きだしていた。パパは突然私を抱きしめてくれた。私は泣き続けた。


「盗難だけですんでよかった。免許証や保険証は再発行してもらえばいい、携帯電話はまた買えばいい、久恵ちゃんの身に万一のことがあったらと気が気でなかった。無事で本当によかった」


パパに抱きしめられている。大きな胸の中で、両腕で身動きできないくらいに強く抱きしめられている。この守られているという安心感、このパパの匂い大好き。このまま腕の中で眠りたい。


パパが腕を緩めて、私をそっとソファーにもたれさせて、キッチンに立った。そして、トーストとコーヒーを用意してくれた。


「これを食べて、少し休んだら? 今日は休みなんだろ」


「ありがとう、少し休みます」


それから、私は部屋に戻って、眠りについた。


気が付いたらもう夕方だった。パパは私のことを心配して一人にしておけないと、会社を休んでくれた。気を取り直して夕食を作る。パパはテレビを見ている。


「もうあんなところ、絶対に行かない。ろくな男いないし。パパみたいな良い男は、早く家へ帰って、ちゃんと食事をして、お風呂にはいって体を休めて、好きなテレビを見たり、本を読んだり、お酒をのんだり、音楽を聴いたり、部屋を片付けたり、明日のための準備をしているのね」


パパは笑って聞いていた。でもきつく抱き締めてくれたのは、父親として? 私が好きだから?

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