第134話「冒険者ギルド・ザーリダーリ火山支部(4)」


 ル・カラジャ共和国を発った俺とテオとムトトは、ザーリダーリ火山ふもと程近い場所に位置する宿場町へと到着。


 この宿場町の中心街には、冒険者向けの宿屋が多く集まっている。

 どういうわけか『満室』となっている宿屋ばかりが並ぶ中、ようやく見つけた今夜の宿は、中心街のはずれにあった。



 テオの案内で宿の前に到着した俺が入口の扉を開けたところ、ひと足先に中へと入っていたムトトの交渉が、ちょうど終わったタイミングだった模様。


 無事に部屋を借りることができホッとした俺達が、あてがわれた客室へ向かうべくカウンターを背にしたタイミングで、カウンター業務を担当中のぽっちゃりめな中年女性従業員がニヤニヤと話しかけてきた。



「ねぇねぇ兄ちゃん達。どうしてまたこんな時期に、うちの街に来たんだい?」



 いかにも噂が好きそうな彼女の言葉に、俺達はパッと目を合わせる。



 すぐにテオが「俺が行く」とばかりにアイコンタクトをよこしてきた。

 そしてお得意の貼り付けたような営業スマイルで振り返る。


「ん? なんで?」


「ちっとばかり気になったんだよぉ! で、どうなんだい?」

「えっと……獣人族の彼がニルルク村の住民でね、ザーリダーリ火山に残った同郷の仲間のことが気になるっていうんで様子を見に行くとこなんだ。俺ともう1人は、その付き添いみたいなもん」

「あぁ、そういや確かに狼の兄ちゃんの服ってニルルク村の魔導具工房の衣装だねぇ……なぁんだ」


 慎重に言葉を選びつつ、あらかじめ打ち合わせ決めておいた『対外向けの理由』を話すテオ。その答えを聞いた途端、目をキラキラさせていたはずの中年女性がつまらなそうに肩を落とした。



 心の中で思わず「勝手に聞いて勝手にがっかりしてんじゃねぇよ!」とツッコんだ俺が、勢いでたずねる。


「あの、俺達のこと一体なんだと思ってたんですか?」

「決まってるでしょ。時期も時期だし、てっきりの参加希望者かと思ったのよぉ」

「例の大会?」

「なんだ、知らないのかい……」


 投げやり気味に答え、大きなため息をつく中年女性。

 謎が増えていくばかりで訳が分からず、俺達は再び顔を見合わせる。




「ねぇよかったら、その大会について詳しく教えてくれないかな?」


 そうテオが質問すると、中年女性は「別に構やしないよ」と少し気を取り直した。


「大会ってのはねぇ、“勇者様のお仲間”となる冒険者を選抜する大会なのさぁ!」


 予想外の回答にポカンと口を開ける3人。

 彼らを横目に、中年女性は説明を続けていく。

 

「……ほら、うちの街に間もなく勇者様がいらっしゃるだろ? 何でもザーリダーリ火山の浄化をしてくださるって話で、その助けとなる冒険者を募集したんだけど、恐ろしい数の冒険者が殺到しちまったらしいんだよぉ。さすがにこりゃ多すぎると慌てたもんで、急きょ選抜大会が開かれることになったってわけ! まぁそうよねぇ、勇者様のお仲間になれるなんて、『冒険者としちゃこれ以上ないっ!!』ってぐらい大変名誉なことだものねぇ!」



 勇者であるはずの自分が全く知らないうちに、凄い勢いで進んでいる話を聞いて、俺は段々頭が痛くなってきた。



「じゃあ、あちこちの宿屋がどこも満室なのって、その大会の影響だって考えて間違いないよね?」


 引き続きテオが質問すると、中年女性が嬉しそうな顔でうなずく。


「そうなの、ひさびさに冒険者が集まりまくってるわよ! 最近はどこの宿も店も客が減っちゃってねぇ、『そろそろ畳んで別の街に移ったほうがいいかもね』なぁんて皆で井戸端会議してたとこだったからホント嬉しい悲鳴よねぇ。うちの宿屋も、兄ちゃん達でちょうど満室になってウハウハなのよぉ! ……ま、兄ちゃん達が大会参加者じゃないのは、ちょいとだけ残念だけどねぇ」


 「残念?」と首をかしげる俺。

 中年女性が鼻で笑った。


「バカねぇ、分かるでしょ! だってもし兄ちゃん達が大会参加者で、最後まで勝ち残って勇者様のお仲間に選ばれたとしたら、うちの宿屋は『勇者様のお仲間がお泊まりになった宿』ってことになるじゃない? しかもお仲間になった後、もし勇者様を連れてきてくれたりなんかしちゃったら、うちは『勇者様がお泊りになった宿』ってことで箔がつきまくって、街一番の宿屋になるのよ!! そしたら絶対儲かりまくりよね? 増築して、人ももっともっと雇って……やっだー、夢が広がっちゃうわぁん!!」


 暴走するように妄想を繰り広げていく中年女性。



 ……なるほど、テオが言ってたのはこういうことか。

 ここでもし俺が「自分が勇者だ」なんてバラしたら……うん、考えたくもないな。


 そんな想像を勝手に繰り広げた俺が、そのに身震いしていると。




「そうだっっっ!!!」

「「「!?」」」


 何かを思いついたらしい中年女性が勢いよくカウンターから飛び出し、俺の両手をガシッと熱く握りしめてきた。



 固まる俺達。

 と同時に、俺の全身からドバッと噴き出るイヤな汗。



 そんなの全くお構いなしに、中年女性は鼻息荒く顔を近づけてくる。


「兄ちゃん達も大会に出ればいいのよっ!! ほらほら、冒険者としての腕試しだと思ってさぁ! どう? エントリーなら、大会当日まで受け付けてるらしいわよ?」

「い、いや……俺達、ちょっと先急ぐんで」

「あらそう。もったいないねぇ、こんな機会 滅多にないのに……」

「あはは、そうですねー……」


 残念そうにカウンターへと戻っていく中年女性。

 手をほどいてもらえた俺は、愛想笑いをしつつも内心ホッとしたのだった。





「……ところでご婦人。付かぬ事を伺いたいのだガ?」

「ん、なんだい?」


 中年女性が持ち場に戻ったのを見計らい、しばらく無言で考えていたムトトが口を開いた。


「うム。ご婦人のお話によれば、『街および火山に勇者が来訪するため、その手助けとなる仲間を募集。希望者が集まり過ぎたために選抜大会を開催すル』との事であるガ……選抜大会の開催元および仲間の募集元は誰なのであるカ? またそもそも、街および火山へ勇者が来訪との情報は、どこからもたらされたのであるカ?」

「それ、俺も知りたいです!」


 身を乗り出す俺。


 俺にとっては、今後の安全性に関わる重要問題。

 しかも先程テオとこの件について喋っていたところ、なんやかんやで話が中断してしまい、肝心なところが分からぬまま、うやむやで放置された状態だったのである。



「なんでもね、勇者様のお仲間を募集してるのも、選抜大会を開くのも、うちの街の冒険者ギルドが主導でやってるんだってさ。元はといえばビエゴに……あ、ビエゴってのはギルドマスターなんだけど……そのビエゴあてに、勇者様への協力を依頼する手紙が届いたらしくてねぇ」

「手紙? あ……!」




 中年女性の答えを聞いた瞬間、俺の抱えていた謎が解けた。




 元々俺達がこの街に寄った目的の1つは、安全に宿を取るため。

 だが実はそれ以上に、もっと大事な目的が存在したのだ。


 それは『この街のギルドマスターに火山浄化の協力を仰ぐ』ということ。


 先日エイバスの街に立ち寄り、エイバス冒険者ギルドのギルドマスターであるダガルガに再会した際、彼は「冒険者ギルド・ザーリダーリ火山支部のギルドマスターと、ニルルク村に住むムトトの2人に宛て、それぞれ『勇者であるタクトに協力してほしい』という旨の手紙をすぐに送付しておく」と約束してくれていた。


 そのため俺とテオはまずムトトに会い、協力を取り付けることに成功。

 同様に、今度はザーリダーリ冒険者ギルドのギルドマスターであるビエゴの元を訪れて、協力してもらえないかどうか交渉する予定だったのだ。




「……やっぱりね」

「……やはりナ」


 と小声でうなずく横2人。


「え? テオもムトトさんも既に気付いて――」

「いやむしろ、なんで気付いてないんだよっ。普通に考えりゃ分かるじゃん?」

「うっ……」


 驚く俺だが、テオの正論に返す言葉がなくなってしまう。



 もちろん俺だって街に入る直前までは、ギルドマスターに協力をあおぐつもりで動いていた。


 しかし街の門をくぐってすぐ、あまりにもインパクトが強すぎる光景――勇者来訪を歓迎する特大垂れ幕やらポスターやらが大量に貼られていた――で慌てまくったせいで、そんなことなどすっかり忘れ去っていたのである。




 その後も俺達は、自分達の素性がバレないよう、怪しまれないよう気をつけつつ、世間話程度に中年女性へいくつか質問をしてみた。

 すると彼女は楽しそうに「こんな田舎じゃ、喋ったり噂したりしか楽しみがないから!」と、聞いてもいないことまで事細かに教えてくれたのだった。





**************************************





 あてがわれた客室に入った俺達は、早速テオを中心にしてカウンター係の女性から聞いた話をまとめていく。

 諸々の情報を元に推測すると。





 冒険者ギルド・ザーリダーリ火山支部のギルドマスターを務めているのは、ビエゴ・ワウという初老の男性だ。かつての彼は名の知られた一流冒険者であり、多数の武勇伝が街中に広まっているのだという。


 全ては10日ほど前、ギルドマスターであるビエゴに宛てて1通の手紙が届いたことに端を発する。


 手紙の差出人は冒険者ギルド・エイバス支部のギルドマスターであるダガルガで、その内容は『近い内に勇者がザーリダーリ火山を浄化に向かう。その前にあんたの元を訪ねてくるはずだから、できる限り協力してやってくれないか。なおこのことは、くれぐれも内密に』というようなものだった。



 エイバス冒険者ギルドといえば、つい最近勇者によって浄化されたと話題のダンジョンを管轄している支部であるため、手紙を受け取ったビエゴはこの情報に間違いはないはずだと強く確信。

 そして同時に、『自分が、勇者の仲間として選ばれた』としてしまったのだ。


 まさか自分が!

 あの伝説の勇者様の仲間になれるなんて!!


 張り裂けるほどの嬉しさに体を震わせつつ、ビエゴは何度も何度も手紙を読み返したのである。




 しかしひとつ問題があった。


 彼が冒険者を引退後、かなりの年月が経っていたのだ。

 書類仕事に追われる毎日が続いており、最後に直接武器を取って魔物と戦ったのはもう10数年も前のこと。


 いくら若い頃は他を寄せ付けないほど強かったとはいえ、このままでは勇者の仲間として足手まといになってしまうのではないだろうか?

 焦ったビエゴは、すっかりほこりをかぶってしまっていた愛用の斧を再び磨き上げ、即日トレーニングを開始した。



 驚いたのは街の住民達。

 それまで毎日穏やかに書類仕事をしていたはずのギルドマスターが、いきなり鬼気迫る表情にて武器の素振りを始めたのだから無理もない。


 皆が口々に何があったかたずねるも、ビエゴは「内密にしなければならない事情があるので」と決して口を割らず、朝から晩までトレーニングに打ち込み続けた。



 とはいえギルドマスターが前触れもなく急に仕事を放棄したせいで迷惑をこうむってしまったギルド職員達が、そのような答えで納得するはずがない。

 職員達は、しつこくビエゴを問い詰めた。


 またギルドマスターであるビエゴとしても、本当は周りに自慢したくて仕方がなかった。そのため「絶対に人へ話さないように」と前置きし、ギルドの職員達に手紙の内容を喋ってしまったのだ。


 職員達はもちろん建前上は「内緒にする」と約束したものの、家に帰れば「内緒だけど実はね……」と家族に打ち明けてしまう。そして家族は隣近所に……。





 秘密というものは、誰かに喋った段階で秘密で無くなってしまうもの。


 街に住む人はみな知り合いで噂好きという土地柄もあって、翌朝には街の住民全員が手紙の内容をあらかた把握していたのである。



 そして、住民達が話し合った結果。


 『内密に』というのは勇者様がしているだけである。

 街をあげて火山浄化へ協力および歓迎したほうが、間違いなく勇者様もお喜びになるだろう!!


 との結論になったことから、街中に勇者を歓迎する旨のポスターを貼ったり、冒険者ギルドが街を代表する形で『勇者の協力者』を募集したり、協力者を選抜する大会を企画したりという流れが決まった。




 選抜大会の開催は1週間後。

 エントリーは大会当日の朝まで受け付けているということもあり、噂を聞きつけた冒険者達が続々とこの宿場町に集まりつつある模様。

 既に満室の宿屋が多い辺りからも、数多くの冒険者が集結していることが分かる。


 なお、選抜大会で選ばれた“勇者の協力者達”は、この街でギルドマスターとともに戦闘訓練をしつつ勇者を待ち、勇者が着き次第いつでも火山に向かえるよう備える形になるらしい。





「……と、こんなもんかなっ」


 情報をまとめ終えたところで、メモを取り続けていたテオがペンを止めた。



「ギルドも街の人達も暴走しすぎだろ……なんでここまで大事おおごとになってんだよ……はぁ」


 改めて状況を確認した俺が、大きくため息をついた。

 苦笑いしながらテオが言う。


「元はといえば、ダガルガが送った手紙を勘違いされちゃったことからだけど……俺達だって事前に『手紙送る』って聞いてたわけで、その段階で止めることも可能っちゃ可能だったよね。でも止めなかったから今の事態があるわけだし」

「だってギルドマスターだぞ? まさか周りにバラすなんて思わないじゃん!」



 この世界リバースにおいて冒険者は信用第一であり、秘密を守るのは当然のこと。

 そして彼らを一手に取りまとめる機関である冒険者ギルドや、冒険者ギルドのトップであるギルドマスターにとっても同様なはず。


 こんな常識を疑うことなく受け入れていた俺にとって、今回の出来事は完全に想定外であった。



「タクトの理屈は間違っちゃいないんだけどねー。ギルドマスターを務めるほどでも、やっぱただの人だったってことじゃない?」

「うム。改めて、完璧な人なんぞ存在するはずが無いと強く実感したのであル」

「そりゃそうですけど……」


 まだ何か言いたげな俺に、テオが言葉をかける。


「ま、起こっちゃったもんはどうしようもないって。くよくよするより、これからのこと考えるほうが先だと思うぜっ! ようやく色んな状況もつかめたことだし、今なら色々対策もたてやすいだろ?」


「……分かった」





 俺はいったん頭を切り替えることにした。





「これからのこと……やっぱ問題は、ダンジョン化した火山を浄化するには、どの方法がベストかってところなんだよな……」



 当初の予定では、この街の冒険者ギルドを訪れて、ギルドマスターに協力を仰ぎつつ火山の浄化に向けて動く手はずだった。

 だが街がでは、冒険者ギルドに近付くのも避けたほうがよいだろう。


 昨日狩場で連携を色々試した感触では、俺・テオ・ムトトの3名だけでも、戦力的にはギリギリなんとかなりそうなところ。


 だがザーリダーリ火山はやや特殊な地形であるうえ、道中には強力な魔物も多い。

 火山に詳しいムトトが同行してくれているし、ゲームでの知識もあるとはいっても、もし何か不測の事態が起きてしまったら……そう思うと、3人では少々心もとない気がする。



「案外、安全面を考えたら、素直に俺が勇者だって名乗り出たほうがいいのか?」



 名乗り出さえすれば、冒険者ギルドやギルドマスターのビエゴをはじめ、協力してくれる街の人や冒険者も多数いる。

 もしかしたらそのほうが安全にダンジョンを浄化できるのではないかと俺は考えたのだ。



「タクトが名乗り出たいならそれでもいいけどさー、たぶん後が大変になるよ?」

「うム。そもそもなぜ自らの正体を隠し旅をしているのかという所以ゆえんを、今一度考え直してから決めるべきであル」


「ですよね……」




 元々は原初の神殿のエレノイアに「自分の強さに絶対の自信が持てるようになるまで、正体を隠したほうがよい」と勧められ、勇者である事を隠し旅を始めた俺。

 エレノイアは「暗殺を防ぐため」との理由をあげていたが、旅をしていくうちに、勇者だと名乗っていなくてよかったとホッとすることが何度もあった。



 この世界リバースの人々にとって、『勇者』は非常に特別な存在だ。


 そして特別だからこそ、があると考える人も少なからず存在する。

 もし俺が勇者だと名乗り出た場合、欲にまみれた人々に直接狙われる可能性が大幅に上がってしまうのだろう。


 “勇者歓迎!”という垂れ幕やらポスターやらを掲げまくっているこの宿場町の住民達にしても、“勇者の協力者になりたい!”と志願し選抜大会にエントリーしている冒険者達にしても、いったいその何割が「ただただ勇者に協力したい」という純粋な気持ちで動いているのだろう。


 案外心の底には、さっきのカウンターの女性のように「あわよくば勇者絡みで儲けたい、有名になりたい」などの欲望が渦巻いている人が大半なんじゃないだろうか。



 そんな面倒の数々に巻き込まれてしまうぐらいなら、名乗り出ることなく今のまま、自分のペースで旅を続けたほうがどんなに気楽なことか……。




「…………ん?」


 何かに気付く俺。


「もし俺が名乗り出なかった場合……この宿場町、どうなっちゃうんだ?」




 現在この宿場町には、多数の冒険者が訪れ滞在することにより、宿屋・飲食店など街の経済が活性化している。

 だがあくまでこれは「勇者が来訪予定」という言葉に支えられた、一過性の


 もし予定に反して勇者が街に来なかったとしたら……勇者の訪れを今か今かと待ちわびている住民達・各地から集結した冒険者達の欲望は、果たしてどこに向かうのだろう。




「……ただでは済まぬ可能性も高いのであル」

「下手したら、暴動かなんか起きちゃうかもねー」


「暴動?!」


 眉をひそめるムトトとテオの言葉に、俺は目を見開く。


「うん、特に冒険者は乱暴な奴が多いからさ。そういう場合って、原因作った側に怒りの矛先が向かうんだけど……今回だと火山支部のギルドマスターかな? それで収まらない場合、ギルドの関係者とか他の住民とかへも攻撃が始まって……最悪、この街自体が壊滅しちゃうかも」

「ま、まじかよ……」




 現実ではまだこの街の冒険者ギルド・ザーリダーリ火山支部を訪れてはいない俺だが、ゲームにおいての経験を含めると話は別。


 ザーリダーリ火山やその周辺では、他では手に入らないレアな素材アイテムを多数採集できる。基本的に素材アイテム買取は冒険者ギルドが中心となって行っていることもあって、ゲームの火山支部ギルドには相当な回数の出入りを重ねていた。


 ゲームでは、プレイヤーの行動次第で『火山支部ギルドマスターからの緊急依頼クエスト』と呼ばれるイベントが発生。

 イベント中は強制的に、火山支部のギルドマスターであるビエゴと共に行動することとなる。


 見事に依頼クエストを達成した暁には、ビエゴと祝いの酒をみ交わしイベントが終了。そして、ビエゴを仲間パーティメンバーに加える、という選択肢が選べるようになるのだ。



 ゲームのビエゴは、非常に真面目な男だった。

 若い頃の冒険者としての実力や名声も相まって、街の皆からも慕われる存在。

 真面目過ぎて全く冗談が通じず、ほんの少々早とちりしがちなのが玉にきずだが……悪い人じゃない。




「少なくとも……暴動の矛先が向かってもいいような人じゃないよ、ビエゴさんは」


 イベント内で乾杯した際にビエゴが見せた、嬉しさあふれる会心の笑顔を思い出しつつ、俺はボソッとつぶやいた。




「ム?」

「タクトって、火山支部のギルドマスターと知り合い?」


 不思議そうな顔になるムトトとテオ。



「……いや、会ったこと無いよ。ただ……噂で聞く限り、悪い人じゃないんだろうなと思ったんだ」


 架空世界ゲームについて、この世界リバースの住民には喋らないほうがいい。

 そう考えている俺は、適当に言葉を濁す。




「悪い人ではないとの点は、私も賛成ダ。長年この街のギルドをまとめているビエゴ殿に関し、悪い噂など聞いた試しがないのであル」

「だよねっ。しかも今回の件ってある意味、俺達が原因みたいなもんじゃん? このまま放っとくのも何だかなーって感じでさ」


「やっぱそうだよな……どうにか丸く収める方法があればいいんだけど……」

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