第130話「火山対策と、ベイグオル金属防具店(4)」


 テオのかつてのパーティメンバーでもある狼型獣人のムトトに連れられ、ル・カラジャの老舗防具店『ベイグオル金属防具店/中立区画支店』を訪れた俺とテオ。


 条件がまとまったところで、俺愛用の鎧と盾をベイグオルに預け加工を依頼。

 加工完了までには3日かかるとのことだったため、終わるのを待つ間にその他の支度をしておくことにした。




 何といってもまず済ませたかったのが、消耗系アイテム等の必要物資調達。

 火山やその近くにある街や村の大半は現在、魔物の凶暴化の影響で、過疎化もしくは完全に無人化してしまっている。

 よって今のうちに、数多くの店が立ち並び品揃えも豊富なル・カラジャにて、必要な物を買いためておくのがよいだろうと判断したのだ。



 ムトトとの打ち合わせも念入りに行った。


 ただしル・カラジャ周辺にはあまり魔物が出ないため、実戦形式での連携確認などは後日出発してから改めて行うことに。

 お互いが持っている情報を交換したり、それを元に火山までのルートや戦術を練ったりなど、思いつく限り様々なことを話し合っておいた。






 3日後の夕方、指定された日時に再び防具店を訪問した俺達を待ち受けていたのは、防具店オーナーであるベイグオル本人だった。


 挨拶もそこそこにベイグオルが依頼品を取り出し、仕上がりを確認するよう促す。

 言われるがまま鎧と盾を手に取った俺とテオは、想定以上の素晴らしい出来に思わず喜びと感心の声を上げた。


 俺達の反応を見たベイグオルは満面の笑みを浮かべる。

 そして得意気に、今回の加工におけるこだわりポイントを解説し始めたのだった。





**************************************





 翌朝。

 中立区画の広場で待ち合わせた俺とテオとムトトは、あらかじめ貸馬屋にて手配しておいた黄金馬に分乗し、ル・カラジャ共和国の正門を後にした。


 くすんだ黄土色一色のだだっ広い砂漠には、燃えるような太陽が照りつけ、砂まじりの乾いた風が吹き荒れまくっている。




 旅行者の服――模様が入ったシャツ、シンプルなズボン、キャスケットっぽい帽子――を装備中の俺は、砂埃すなぼこりから目を守るため帽子を深く被り、口周りには大きな布をグルグル巻き付けた状態で黄金馬にまたがっている。


 その数m後方には、同じく帽子と布とで顔を覆ったテオが馬に揺られつつ、注意深く周囲を警戒中だ。

 


 先頭を行くのは狼型獣人のムトト。

 着用しているニルルク魔導具工房のユニフォーム――レトロっぽい大きなゴーグル、生成りのシャツ、チェーンスタッズで飾り付けたベスト型の革製コルセット、ゆったりした厚手のズボン、編み上げブーツ、歯車型ピンバッジ――には、実はしっかりと【防護加工――衣服などに魔力を纏わせることで防御機能をもたせる加工――】などが施されているため、防具としてもかなり高性能である。


 さらに長いストールで鼻と口を、いつもは額につけているゴーグルで瞳をガードと、ムトトの砂嵐対策は万全な模様。





 この世界リバースの貸馬屋で借りられる馬は、総じて賢い。

 特に現在のように隊列を組んでいる状態なら、特に指示を受けずとも前の馬の後を適切なスピードで追いかけるよう訓練されている。よって乗馬経験が浅い俺でも、落馬さえしなければ後は馬にお任せ状態。


 しかもル・カラジャ周辺のこのエリアでは魔物なんてめったに出現しない上、念のため前後の2人が周囲を警戒してくれており、俺にはかなり余裕があった。


 馬から落ちないように、そして砂が目に入らないように、ということだけ気を付けつつ、出発してから全く変わらない景色――ただただ広がる一面の砂――をぼんやり眺めていると。




「ん?」


 前を行くムトトの後ろ姿に、俺は違和感を覚えた。





 違和感の正体をしばらく探っているうち、それがムトトのにあることに気が付いた。


 体毛と同じく黒に近い灰色の長い毛で覆われている立派な尻尾は、街中で見た時は動きに合わせて揺れる程度にリラックスしていたはずだった。

 だが現在はまるでアンテナかのように張っていて、緊張感すら感じるのだ。





 この尻尾の感じ、どっかで見たことあるんだよな……。


 ……あ、実家の隣の家で飼ってた犬か。アイツが警戒する時、ちょうど今のムトトみたいな感じで尻尾を立ててたような気がする。




 よくよく観察すると、尻尾だけじゃなく両耳もいつも以上にピンとして見えた。

 おそらく索敵・警戒中のムトトはこんな風に、頭のてっぺんから尻尾の先まで神経を研ぎ澄ますのだろうと俺は思う。



 獣人族は生まれつき、“獣”の頭部および毛皮に覆われた肉体とを持つ。


 手足の長さなど体の基本構造自体は人間族とあまり変わらず二足歩行にて行動するため、走ったり歩いたりするスピードや口にする食物などは人間のそれと大差ないものの、基本は獣に近い特徴を持ち、身体能力が比較的高い傾向にある。


 ムトトの場合は、狼のような頭部と太くしっかりした尻尾を持つほか、狼同様に聴覚や嗅覚や視覚などが非常に優れているのだとか。

 特にスキルを展開せずとも魔物の存在をはじめ何らかの異変に気づけることから、率先してパーティの先頭に立ち索敵を行いながら進むことが多かったらしい。




 またテオの『音だけで魔物の種類などを判別する』という少々特殊な索敵方法は、実は獣人族に昔から伝わる独自の知恵であり、テオはムトトから教えてもらって身に付けたのだと話していた。


 先日ニルルク魔導具工房で働く獣人族達と飲んだ時に俺が何気なく、隣に座った獣人にたずねてみたところ、「獣人族は皆、それに近い方法で索敵することができル」との答えが返ってきた。


 ただしタイプ――兎型、熊型、鳥型など――によって聴覚や視覚などの感覚が大きく異なることもあって、どの感覚をメインにした索敵方法かは相当個体差があるようだが。





 そんなことを考えているうちに、ゲーム上の獣人族は昔から独特の文化が発達していたという設定だったのを思い出す。


 ってことはもしかして、ゲームで『獣人族独自の風習』として話だけ出てきたやも、こっちの世界リバースと共通だったりするのか? だとしたら……。



 何だか楽しくなってきた俺は、ムトトの後ろ姿を眺めつつ、さらに獣人族についての考察を続けていくのだった。

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