第128話「火山対策と、ベイグオル金属防具店(2)」
ダンジョンと化した『ザーリダーリ火山』での安全性を高めるべく防具を整えることにした俺とテオ。
テオの元パーティメンバーである狼型獣人のムトトに連れられ、ル・カラジャ中立区画の大通りに店を構える『ベイグオル金属防具店/中立区画支店』を訪れている。
ドワーフ族の直営店であるベイグオル金属防具店は、良質な金属製防具を揃えたり、持ち込みの金属製防具に腕の良い加工を施したりを予算に応じて行えると評判な有名店だ。
難点は、気難しいことで知られるドワーフ達の店なため、取り扱う防具の種類は
火の魔導具の暖かな光で照らされた店内は、獣人や人間の客でにぎわっている。
ホールに飾られた鎧などの防具をひと通り軽く見て回ったところで、俺達も受付カウンターの待機列に並んだ。
幅広のカウンターにて受付業務を担当している店員は2人で、それぞれ別のグループ客の対応をしている。
暇つぶしに何気ない雑談をしながら待っていると、程なくして順番が回って来た。
誘導係の店員の指示に従い、受付カウンターの前へと進む。
「お待たせいたしました! 本日はどのようなご用件ですか?」
緊張したような声と少しぎこちない笑顔で初々しく迎えてくれたのは、10代に見える若い男性ドワーフ店員。
胸元に『見習い』というバッジがついている辺りからも察すると、まだこの仕事を始めて日が浅いのだろう。
学生時代に初めて接客のアルバイトし始めた頃は、俺もこんな感じだったな……と懐かしさを覚えつつ、俺は用件を伝える。
「えっと、俺の装備を整えたいと思ってまして」
「ありがとうございます! ご希望の防具の種類は何でしょうか?」
「今のところ、鎧と盾を考えてます」
「鎧と盾ですね! 今回は新規防具のご購入をお考えですか? それとも持ち込み防具の加工をご希望ですか?」
「一応、鎧も盾も手持ちの物はあるんですが……新品も興味あるんで、持ち込みの加工とどっちが良いかも相談できたらと」
「かしこまりました! ではこの番号札を持って、6階へお進みください!」
少年店員はカウンター横の階段を手で示してから、『6階3番』と書かれた手のひらサイズの四角い金属板を差し出す。
礼を言って番号札を受け取った俺は、テオとムトトと共に
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ル・カラジャ共和国の建物は、高くそびえ立っているのが普通だ。
店や住居などを建てる時点である程度の階数を作るのは当然な上、増築する場合は横に広げるのではなく、縦に階数を増やしていくことが多い。
そのほうが土地を新たにキープする必要もなければ、ル・カラジャ独自の『変わった形であればあるほど美しい建物』という美的概念から見て、より素晴らしいとされる形状を作り出しやすいからだ。
特に中立区画で1番栄えているこの大通りのように賑わい続ける商業区では、階数の多さが繁盛している店の目安とも言われており、軽く10階は超えていそうな建物も少なくない。
ただし一時期あまりにも増築の競い合いが激化したせいで、トラブル――周辺の日当たりが悪くなる、雑な工事で建物が崩れる事故が多数発生など――が相次いでしまった。
そこで共和国側が法律で、建物の階数などに制限を設けたり、短期間の間に何度も増築することを禁じたり、建物を改築する場合の届け出・国による安全検査を義務化したりなど様々なルールや罰則を定めたのだという。
「……ってなことが遥か昔にあったから、ル・カラジャ共和国では、増築関係のトラブルがほとんど起こらなくなったんだってさー」
のんびり6階までの階段を上る道中、テオが得意気に説明していく。
俺が相槌を打ちながら聞いていたところ、ひと通り話し終えたテオが「ま、このあたりの昔話って、ほとんどムトトからの受け売りなんだけどね」と笑って、前を歩くムトトのほうに視線を向けた。
「うム」
ムトトは軽くうなずいてから、階段を上る足を止めずに口を開く。
「……多種族国家かつ、住まう民の数も膨大なル・カラジャの国を長年治める事は、並大抵の努力では成しえないはずダ。この地へと移り住んだ我々ニルルクの民は、ル・カラジャの民の凄さを肌で感じながら日々を過ごしていル。そして魔物により
穏やかだけど、どこか芯の強さを感じさせるムトトの言葉。
そこまで喋ったところで、彼は再び無言に戻った。
俺はゲームにおいてムトトの姿を見かけたことは無いし、攻略サイトを探してみても彼の目撃情報は全く見つからなかった。
おそらくそれはゲームのムトトが、ニルルク魔導具工房の作業場――関係者以外立ち入り禁止で、現状ゲームでは入室方法が発見されていない――で職人として働いており、外に一切出てこなかったからだろう。
温和で義理人情に厚く、非常に真面目で礼儀正しいと、獣人族の典型と言っていい性格。普段は自分から前に出るタイプではないため決して目立たないが、いざという時には頼りになる戦闘力の持ち主。
かつてムトトと旅をしていたテオやダガルガやウォードによれば、彼はこのような人物なのだとか。
パーティの中では特にウォードと馬が合い、時々2人だけで飲みに行くことも。
またテオにとってムトトは良き兄貴分の1人で、【火魔術】の使い方を教えてくれた師匠――彼らに出会うまで、テオは独学で魔術を使っていた――でもあるらしい。
多少
そんな色々をふと思い出した俺は、改めて彼のほうを見上げてみた。
昨日初めて会ったばかりのムトト。
黙って螺旋階段を上り続ける彼の目線は真っすぐ斜め前を見据えており、その背中はぶれることなく堂々としている。
まさに彼自身の性格を表しているかのような後ろ姿に、テオ達の言うとおり、ムトトは本当に信頼できる人物なんだろうなと、何となく確信できるような気がした。
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