第127話「火山対策と、ベイグオル金属防具店(1)」
ニルルク村の面々との飲み会の翌日。
昼食を済ませた俺とテオは、工房から無事に休暇をもらったムトトと合流し、ル・カラジャの「中立区画」を訪れた。
本日の俺達の目的は、ダンジョンと化した『ザーリダーリ火山』での安全性を高めるべく防具を整えること。
ムトトらが住む「昼行獣人族自治区画」内の商店街でも、それなりの物は揃う。
だが俺が装備したいと考えている鎧や盾など金属製の装備品に関しては、一般的に他種族よりもドワーフのほうが格段に高性能な物を作り出すとされているのだ。
『ドワーフ族』は、群を抜いて生産系スキルの扱いが上手い種族である。
あまりにも彼らの技術が群を抜いていることもあり、他種族の職人達はドワーフとの競合を避ける形で種族毎に産業を発展させてきた。
ドワーフ族は無駄を嫌うため、基本的には必要以上の装飾を避け、武骨で実用的な物を作る。
反対に『エルフ族』の生産技術は、エルフ独自の美的センスを活かし、美しさを追求したアクセサリーやドレス、美術品のように華美な装飾が施された武器や防具、食べるのがもったいなくなるぐらい芸術的な料理などの方面で発達。
保守的で頑固なドワーフ族は、先祖代々受け継いだ技術通りの加工や生産しか行わないことが多い。
そのため他種族との交流が盛んで全ての属性の魔石を手に入れやすく、発想が最も柔軟とされる『獣人族』は、比較的新しい技術でまだまだ発展途中な魔導具――魔石を組み込んだ道具――生産分野に特化。
土の精霊王の加護を受けるドワーフ族は、性能が良いアイテムを生み出しやすい金属や、【土魔術】を活かしやすい土や石を、素材として好んで扱う。
というわけで『人間族』は、それ以外の素材――布・木・革・骨など――を使った実用品をはじめ他種族が作りたがらないアイテムを生産したり、種族人数の多さを活かして需要に比べて供給が追い付いていないアイテムを量産したりなどの技術をメインに磨いてきた。
なおマイペースな『魚人族』は、そもそも生産自体を面倒くさがる傾向にある。
例え生産系スキルを持っていても、せいぜい日常で食べる料理を簡単に作る――魚を切るだけなど――程度しかしない者が多いようだ。
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ル・カラジャ共和国の正門付近に広がる「中立区画」は、種族別の自治区画に属さず、国が直接治める区画だ。
どの自治区画も、基本は区画内から無理に出なくとも問題なく生活できる程度には、街としての基盤が整っている。
そのためわざわざ中立区画を訪れるのは『種族別自治区画に住みながらも、他種族との交流や商売に寛容で意欲的な者』『外から国の正門をくぐって来る訪問者』が圧倒的。
彼らの需要に合わせるように中立区画で最も目立つ大通りには、基本どんな種族でも入店を歓迎する飲食店や雑貨屋、国外からの来訪者向けな土産物屋や宿屋などが特に多く立ち並んでいる。
そんな前日にも見たばかりの光景を目にしつつ、俺とテオがのんびり人混みの中を歩いていると、先導していたムトトが1軒の店の前で立ち止まった。
「……これが、かの有名なベイグオル金属防具店であル」
他と同様に個性的な形の建物の壁には、『ベイグオル金属防具店/中立区画支店』とだけ書かれた、真四角で飾り気のない金属プレート看板が取り付けられていた。
看板を見上げたテオも、思い出したように言う。
「あ! そういえば俺も、ル・カラジャで金属製の防具を整えるなら、ここが1番コストパフォーマンスがいいって聞いたことあるかも!」
「うム。この店ならば、客の予算や希望に応じ良心的な提案をしてくれるはずだからナ……ただしここはドワーフ族の直営店であるため、例外としては『ドワーフの専門外な、美しく装飾を施した防具』などを望む場合であるが……防具において機能性を重んじると話していたタクトならば、このベイグオル金属防具店が最も合うのではないかと考えていル」
「ありがとうございます。ぜひ行ってみたいです!」
俺の返事にムトトは「ならば善は急げであるナ!」とうなずきながら、中へと入って行った。
彼の後に続き、俺とテオも店へと足を踏み入れる。
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火の魔導具の暖かな光で照らされた店内はそれなりに広く、非常に賑わっていた。
店員は全員、お揃いの金属兜と胸当てを装備したドワーフ達。
彼らがにこやかに接客している姿を見た俺は、ゲームでのベイグオル金属防具店の様子を思い出す。
ゲームのル・カラジャでも、ベイグオル金属防具店の名は、国で1番大きな金属防具店として知れ渡っていた。
中立区画支店は、本店工房で生産された金属製防具を販売したり、加工依頼を受け付けたりするだけの店であり、この支店自体に工房は併設されていない。
ベイグオル金属防具店で工房――生産したり加工したりを行う作業場――があるのは「ドワーフ族自治区画」に存在する本店のみであり、ドワーフ族の客は直接本店を訪れるのが普通。
だがドワーフ族自治区画は
この支店の店員達は閉鎖的とされるドワーフ族でありながら、他種族に対し寛容で友好的な少数派ばかりのため、このように笑顔で接客できているという設定だったな……とゲームで小耳に挟んだ話を頭に浮かべつつ、俺は店の中を見渡す。
客は獣人族と人間族とが大半で、店の所々に置かれたサンプル装備を前に考え込んでいたり、ホールに立つ店員と話していたり、受付カウンターで相談していたり。
ちなみにドワーフ族の店だけあって、彼らと犬猿の仲であるエルフ族の姿は、さすがに見当たらないようだった。
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