第102話「新たなスキルを、習得しよう(3)」
原初の神殿を出発した翌日、俺は早朝から1人でエイバスの森へと向かい、無事に目当てのスキル【
「ただいまー」
「あれ、早かったじゃん。まだ1時間も経ってないぜ?」
テントの入口を開けると、奥の床に座るテオが意外そうな顔で手元の本を閉じた。
「そうなんだよ。俺も午前中いっぱいはかかると思ってたんだけどな」
「って事は【隠密】は?」
「ちゃんと習得してきたぞ」
「お、すげーラッキーじゃん!」
「ラッキーっていうか……まぁ確かに森に入って早々、ちょうど良さげな
俺も入口近くの床にあぐらをかき、森で起こった出来事を簡単に説明する。
俺は森に入ってすぐ、スキル【隠密】の習得条件――「魔物から1m以内の距離へ近づき、その魔物から気配察知も視認もされないまま5秒以上動かず過ごす」という行動を達成すると、10%の確率で習得に成功――へチャレンジするのにぴったりな、ぐっすり眠りこけたフォレストリザードを見つけた。
すぐにフォレストリザードに近づき習得判定を待ったところ、習得成功確率10%にもかかわらず、なんと1回で成功。
俺も、にわかには信じられなかった。
だが神様より『それは習得している【
「……例えば「【A】っていうをスキルを習得したい!」と思った状態でスキル【A】の習得条件を満たした場合、【
「じゃあ、タクトが【隠密】覚えた時も?」
「おそらく60%プラスで、成功確率70%になってたはず。それとスキルLVが1上がるごとに習得成功確率が10%ずつプラスされてくらしくて、MAXの【
ゲームにおいて、新たにスキルを覚えて戦力アップを図るのは、かなり大変だった。確認してみたところ、それは
スキル習得条件自体は何とか満たせるものが多いのだが、強力なスキルであればあるほど習得成功確率はどんどん0%に近づいていく。
そうなってくると運要素が大きいため、とにかく時間をかけて何度も何度も条件をクリアし判定回数を増やしていかないと、強力なスキルの習得は難しいのだ。
だが俺が持つ【
成功確率100%のスキルLV5★ともなれば、スマホゲームでいうところの『常に最高ランクしか出ないガチャを引き続ける』状態。まさに
ゲーム『
そのためついつい熱くテンション高めに説明を続けていたのだが……ふと、目の前のテオが静かにうつむいていることに気が付いた。
「どうした?」
「……」
俺の呼びかけにも応じることなく、テオは黙りこくっていた。
気に障るような事を言ったかと自問自答してみる。
だが、全く持って心当たりが無い。
「俺、なんかまずい事でも言った?」
「いや……そういうわけじゃないけどさ……」
テオは一瞬こちらに目をやるものの、すぐに目線を下へと戻してしまう。
「じゃ、なんだよ?」
「…………」
「はっきり言わなきゃ分かんねーぞ?」
「…………」
「テオ?」
「……はぁ……分かったよ、言うって……」
テオは根負けしたかのように溜息をつく。
そして、ゆっくりと喋り始めた。
「……なぁタクト。この間フルーユ湖を浄化した時さ、勇者の
「ああ」
「実はあの時、やっぱタクトは勇者なんだなってまじまじ思い知らされたんだよね」
「え、どういうことだよ?」
テオは気まずそうに頬をポリポリかく。
「んー……別にさー、タクトが勇者だってのを疑ってたわけじゃないんだぜ? 勇者の証拠である【光魔術】使うところ、俺はそばで何回も見てきてたわけだし。けどさ……頭では分かってても、一緒にいればいるほど、なんかタクトが勇者っぽく見えなかったっていうか……その……ごめん」
「いや、勇者っぽくないっていうのは俺が1番よく知ってるから! 特にテオにはカッコ悪いとこを見せまくってる気がするしな……」
特にこの世界に来てすぐは、『フルプレートアーマー断念事件』、『オークジェネラル巻き込まれ事件』などなど、やらかしまくっていた。
テオ含め
「……まぁそんな風に思ってたわけだけど。フルーユ湖での、キラキラ眩しい光の剣を握ったタクトの姿がさ、“子供の頃に絵本で見た、憧れの伝説の勇者そのまま”って感じでビックリしたっていうか、なんというか……『タクトは本物の勇者だぞ!!』って、ガツンと思い知らされたんだよね」
テオの話を聞きながら、俺はフルーユ湖にて勇者の
神様に言われた通りに光の魔力を注ぐと、剣は勢いよく輝きを増し、俺もテオも言葉を失うぐらい驚いたのだった。
今になってみると確かにあの時のテオは、いつもの軽い感じとは違い、どことなく真剣な表情をしていたような気がしなくもない。
「……そっか」
「うん……」
テオは小さくうなずき、再び黙り込んだ。
しんみりしたところで、俺はふと気付く。
「ん? ……ところでさ。今の光の剣の話と、さっき俺が【
「あーそれな……」
言いにくそうに話を切り出すテオ。
「……その絵本に出てくる伝説の勇者にはさ、4人の仲間がいるんだよ。みんなそれぞれ剣士とか
テオは小さく溜息をついた。
称号『器用貧乏』解放スキル【万能術LV5★】の効果で、彼は超大量のスキル――称号・アイテムのみで解放可能な固有スキルを除く全スキル――を生まれつき習得済みである。
だが同時に解放されるスキル【
「そしたら今日さ、衝撃の事実が分かったわけよ……実はタクトが『スキル習得ほぼ成功』なんてすごいスキル持ってたって……なんだよそれ、俺の上位互換じゃん!」
「上位互換?! そんな事ないだろ――」
「そんな事あるっ!! 確かに俺は称号『器用貧乏』の効果で色んな種類のスキルを習得済みだよ! だけどその分スキルLVは全部1から上がる見込み無いから、どんなに頑張ったってどれもこれも中途半端なんだ! だけどタクトの【
「いい加減にしろよッ!!」
機関銃のようにまくしたてるテオを一喝する俺。
静かになった隙に間髪入れず、さらに言う。
「あのさ、俺がいつ『テオなんかいらねー』って言ったんだよ?」
「それは……まだだけど……」
「あと絵本に出てくる伝説の勇者がどうのとか言ってたよな?」
「うん」
「言っとくけど、俺はあくまで俺であって、絵本の勇者とは別人なんだぞ! いくら同じ勇者同士だっていっても、『伝説の勇者がこうしたから、俺も同じにしなきゃいけない』ってわけじゃないし、どんなパーティを組もうかとかも自由だからな!」
「でも……タクトは【
「あのな、確かにスキルは習得しやすいかもしれないけどさ……スキルは習得したあと、使いこなすための訓練が大変なんだぞ! いくら勇者だっていっても、俺は2ヶ月前まで剣を握った事すらなかったし、そもそも俺が居た世界には『魔術』や『スキル』自体が存在しなかったから、全部0からのスタートで覚えなきゃなんなかったんだ。だけどテオはさ、物心ついてからずっと色んな武器や魔術なんかを使いこなしてきたんだろ。しかも10歳で冒険者になって、それから10年以上世界中を回ってきたんだよな。冒険者としても剣士としても術士としても、キャリア2ヶ月の俺からしたらすっげー大先輩なんだぞ!」
本当は3年間ゲームをプレイした経験と知識の蓄積があるから、実質0ではないけど……今は言う必要ないよな、と俺は心の中でつぶやいてから言葉を続ける。
「……大体テオはスキルLVについて過敏に反応しすぎなんだよ。そりゃスキルLVが上がらないせいで苦労してきたかもしれないけど……テオはそれ前提で磨きまくってるから、自分で思ってる以上にスキルを使いこなせてるんだって! 例えば……」
「……例えば?」
「えっと……そう、魔術! 魔術の威力をあんなに自由自在に凄く細かく調整できる奴、俺はテオ以外知らねぇよ。だからこそ初対面ですぐに【
テオは黙ってうつむき、そして照れくさそうにボソッと言った。
「……ありがと」
「……おう」
しばし流れる無言の時間。
何となく良い雰囲気になりすぎたのに、俺は耐えきれなくなってしまった。
そこで「こんな機会でもないと言わないだろうから」と自分に言い聞かせ、色々ぶちまけてしまおうと決めた。
「……なぁテオ。今だから言うけどさ……ぶっちゃけ最初のうちは、テオとのパーティをさっさと解消したかったんだよな」
「はぁ? ちょっと待て、お前やっぱ俺の事いらないと思って――」
「話は最後まで聞けよ!
「え~、そんなこと言ったっけ~?」
はぐらかすかのように茶化すテオ。
「言った! だから俺、最初は『早く正体バラされても問題ない位に強くなって、さっさとコイツから逃げ出そう』って心に決めながら、テオに剣を教わってたんだよ」
「なんっ……だとっ……?!」
目を丸くするテオを放置し、俺は話を続ける。
「でも……実際一緒にパーティ組んでみて、コイツすげーなって思ったんだ」
「え?」
「やっぱり長年冒険者やってるだけあって、剣の扱いとか魔物の生態とか各地の文化とか色んな事に詳しいし、世界中に知り合い多くて顔が利くし。初めて小鬼の洞穴に行った時とか、ボス部屋でテオが機転きかせてくれてなきゃ、もしかしたら俺は今ココにいないかもしれないしさ。あの時はホント、テオとパーティ組んでてよかったって心から思ったな」
「な、なんだよ急に……」
「こういう機会でもないと言わないからさ! 今だって野宿で使うテントはテオの私物使わせてもらってるし、【水魔術】と【火魔術】で必要な時にすぐお湯作ってくれるのすっげー助かるし、街での情報集めもテオがやってくれてるし……正直すごく有難くて、心強いなって思ってる。だから……テオさえよければだけど……その……これからも、よろしくな」
テオは口をぱくぱくさせた後、何か吹っ切れたように立ち上がった。
「……やっぱタクトには、俺がついててやんなきゃダメだよなっ! よーしっ、これからもしっかりばっちりサポートしてやるから、感謝しろよっ~~!!」
「おう、頼りにしてるぜっ!」
どちらからともなく、声を上げて笑いあう2人。
こうやって腹を割って話した事で、やっと、テオと本当の意味での『仲間』になれたような気がした。
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