第101話「新たなスキルを、習得しよう(2)」
原初の神殿を出発した翌日の早朝。スキル習得のための準備を整えた俺は、たった1人で街道沿いの森の中へと足を踏み入れて行った。
本日、俺が習得しようと決めたスキルは【
そこそこの戦闘力さえあれば習得難易度が比較的低く、攻撃にも防衛にも使い勝手がよいことから、習得している冒険者は多い。
またテオが愛用するスキルの1つでもあり、俺自身もしょっちゅうお世話になっている。今後のことも考え、俺も【隠密】を習得しておいたほうが戦略にバリエーションが生まれるんじゃないかと考えたのだ。
【隠密】は発動者周辺の気配を消すことができるスキル――スキルLV1ならば効果範囲は半径3m、スキルLVが1上がる毎に半径1mずつ効果範囲が広がる――で、2通りの発動方法が確認されている。
まずはスキル発動時に発動者が居る『地点』を中心に、固定範囲の気配を消す方法。発動者が動いても効果範囲は動かず、発動者が範囲内から出ない限り効果を保つことが可能となる。テオは野営でテントを設営する際に必ずこのスキルを使い、安全性を高めているのだ。
そして『発動者自身』を中心に気配を消す方法。スキル発動者が動けば、それに従って気配を消せる効果範囲も動くため、他人や魔物に気付かれずに移動したり尾行したり不意打ちをかけたりなどに使う場合が多い。
なお、あくまで【隠密】で消せるのは気配のみ。
他者の【気配察知】スキルでの探索には引っかからなくなるが、姿自体を消すわけではないため、視認されてしまえば意味が無い。
そのため要人の屋敷や機密会議を行うような場所では、周辺に身を隠せそうな中途半端な障害物を置かない、穴の無い視認や魔導具を使った厳重警護を行うなど、【隠密】対策をしっかり固めていることが多いようだ。
ゲームにおいても【隠密】は有用なスキルとされていて、プレイヤー達の分析によれば、習得条件はこのようになっている。
なおテオに確認したところ、現実でも習得条件はほぼ同じとされているようだ。
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■スキル【隠密】習得条件■
「魔物から1m以内の距離へ近づき、その魔物から気配察知も視認もされないまま5秒以上動かず過ごす」という行動を達成すると、10%の確率で習得に成功する。
他者が発動した【隠密】の効果範囲内に居る場合、判定は行われない。
同じ魔物対象での連続での再判定は行われない。
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行動達成1回ごとに習得できたかどうかの判定が行われ、その際『習得成功』と判定される確率は10%。後の90%は『習得失敗』となってしまう。
習得するためには、とにかく地道に何度もチャレンジしていくしかない。
この辺りの森はエイバスに拠点を置いていた頃に俺が鍛錬を行っていた場所ということで、多少土地勘がある。また出現する魔物の大半はLV1の駆け出しだった当時でも十分倒せるような強さだったため、万が一近づいた魔物に気が付かれても余裕で倒せるだろう。
そんな事をふまえて前日に俺とテオとで話し合い、この森にいるうちにスキル【隠密】を習得しておいた方が楽ではないかという結論になったのだ。
魔物に気付かれるリスクを減らすべく、また俺の訓練という意味でも、テオを野営地のテントに残し、俺1人で向かうことにした。また装備については音の出やすいミスリルメイルを外した状態である。
早朝を選んだのも、他の冒険者が森にいない可能性が高いためだ。
いくら自分が静かにしていても、他の冒険者に騒がれては習得条件を達成するのが難しくなってしまうだろう。
俺は森の中を1人、【気配察知LV1】――自分を中心にして半径50m以内に生き物や魔物がいるかどうか知ることができるスキル――を展開しながら慎重にゆっくり歩いて行った。
森に入ってから十数分経ったところで、【気配察知】に引っかかる魔物達の中から、ちょうどよさそうなターゲットを見つけ出す。
「……右方向30m。他の魔物と離れた位置に1体…………ん、こいつ……動く気配が全く無いな?」
ちょっと首をかしげてから、俺はターゲットの方向へと向かっていった。
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「……なるほど、こりゃ動かないわけだ」
木の陰から
森を住処にする体長1m程の緑色の大トカゲ型魔物『フォレストリザード』。
動きはそこそこ速く、敵と認識した相手に対し噛みつこうと獰猛に襲ってくる。
だがそれはあくまで
俺の視線の先の
念のため、メモしておいた習得条件を確認し直す。
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■スキル【隠密】習得条件■
「魔物から1m以内の距離へ近づき、その魔物から気配察知も視認もされないまま5秒以上動かず過ごす」という行動を達成すると、10%の確率で習得に成功する。
他者が発動した【隠密】の効果範囲内にいる場合、判定は行われない。
同じ魔物対象での連続での再判定は行われない。
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目の前のフォレストリザードは、呆れるぐらい気持ちよさそうに寝ている。
この状態なら楽に近づけるな……そう思いつつも、俺は一応慎重に、そろりそろりと死角へ回り込むようにしてフォレストリザードへ近づく。
条件の『魔物から1m以内の距離』を余裕で満たす位置で立ち止まり、心の中で5秒数え始めた。
5……4……3……2……1……。
――スキル【隠密LV1】を習得しました。
『0』のカウントと同時に、ひさびさのシステムボイス的な無機質音声が、俺の脳内へと鳴り響いた。
「え、一発習得成功?? 習得成功確率10%なのに?」
思わず気が抜ける。
成功確率10%だから十数回もやれば成功するだろ、ぐらいの気長な気持ちでチャレンジしていたため、まさか1回で済むとは予想外だったのだ。
とりあえず本当に習得できたか確認すべく、ステータス画面を開いてみる。
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名前 タクト・テルハラ
・
・
・
■スキル■
光魔術LV2、剣術LV2、能力値倍化LV5★、
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「……習得成功だな……」
俺がゲームで【隠密】を習得しようとした際、なかなか成功判定が出ず、習得までには数時間かかった記憶がある。
にわかには信じがたい気持ちでステータス画面を見つめる俺が、何の気なしにスキル詳細を開いてみると。
「ん、なんか書いてあるぞ……」
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名前 タクト・テルハラ
・
・
・
■神の一言メモ■
ふぉっふぉっふぉっ、スキル習得がスムーズ過ぎると
それはの、お主の【
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「【
俺の独り言にこたえるように、シュッとウィンドウが更新される。
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■神の一言メモ■
忘れとったんかいっ!!
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「すいません、最近新しくスキル覚えてなかったんで……」
画面更新。
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■神の一言メモ■
……まぁよい、肝心な話はここからじゃ。
スキル詳細だと【
これは条件に応じて発動するタイプのスキルでのう。
【
その状態でスキル【A】の習得条件を満たした場合、なんと習得成功確率に60%プラスされるんじゃ!!
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「え? じゃあさっき【隠密LV1】の判定の時は、10%に60%プラスで……習得成功確率70%だったって事ですか?」
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■神の一言メモ■
ぴんぽーんじゃ。
ちなみに具体的な習得スキルを思い浮かべておらん場合は、【
それとスキルLVが1上がるごとに習得成功確率が10%ずつプラスされていくでの、【
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「嘘だろ?!」
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■神の一言メモ■
ホントじゃて!
過去にスキルを手に入れた時の事を思い出してみるがよい。
「スキル【○○】を習得したい」と具体的に考えてから、条件満たした瞬間、高確率でシュパッと習得しとったじゃろ?
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「……あ」
思い返した瞬間、俺は目を丸くする。
先程習得した【隠密】の時は、まさに神様の言う通り。
【防御】に関しては事前に「覚えたい」という気持ちが無く、初めてのテオとの剣術訓練の際にいつの間にか条件達成していたから除外。
【気配察知】の習得条件は『「魔物を一定数以上倒す」という行動を達成すると、20%の確率で習得に成功する。その後魔物を1体倒す毎に、習得判定が行われる』。小鬼の洞穴で魔物を倒して習得したけど、言われてみるとゲームで覚えた時より習得がずいぶん早かったような気がする。
そして【偽装】は、この世界に来てすぐエレノイアにスキルの存在を教えてもらってすぐ、「【偽装】はどうやったら使えるか」的な事を言いかけた途端に習得した。ゲームで見た記憶がないスキルだから習得条件は分からないが、あの瞬間に満たしていた可能性が高い。
俺が無言で考え込んでいると、画面が自動で更新された。
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■神の一言メモ■
思い当たる節があるようじゃのう!
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「はい……あの、1つ質問いいでしょうか?」
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■神の一言メモ■
なんじゃ?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「どうして今日は、いつもと違って、細かく親切に教えてくださるんでしょうか?」
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■神の一言メモ■
ほへ?!
……あ、そうそう、真面目に鍛錬しておった事への特別な褒美じゃ!
ワシは勇者であるお主が世界を救う事を真剣に願い、見守り続けておるだけであってのう……決して……
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「……そうですか…………色々と教えてくださりありがとうございます」
メモの慌てぶりを見て、フルーユ湖で勇者の
あの事気にしてたんだな……ただここでツッコんで神様を怒らせでもしたら面倒だろうし……とグッとこらえ、無難な受け答えに留めておいたのだった。
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