第100話「新たなスキルを、習得しよう(1)」
原初の神殿を後にした俺とテオは、ニルルク村を目指す。
今回も戦闘訓練などを兼ねつつ、基本は徒歩で地道に進んでいく予定だ。
テオが言うには「たぶん今回も2~3週間もあれば着けるんじゃないかなー」と。
だがテオが最後にニルルク村周辺を訪れたのは4年前であり、それ以後の情報は伝え聞いた大雑把なものしか分からない。テオが知る頃から大きく状況が変化している可能性も高く、何かあればその都度、臨機応変に対応していくつもりだ。
さて今回の道中において、俺は新たに目標を2つ掲げている。
1つ目は、今のうちに新たなスキルを習得し、使いこなせるよう練習すること。
ずっと今まで
だけどこれまでは余裕が無さ過ぎた。
いくらゲームで蓄えた知識があっても、やはり実際の戦闘経験が無い以上、とにかく他に覚えなければならない事が多すぎたのだ。
目前の事で精一杯だった今までは、すぐに必要そうなスキル以外は放置していたが、色んな意味で余裕が出てきた今のうちに、将来を見据えてスキルを習得しておくべきだろうと思ったのだ。
2つ目は、状態異常系スキル攻撃・不意打ちといった
エイバス~トヴェッテ周辺に出現するのは、体当たりなどの分かりやすい物理攻撃しか仕掛けてこないような魔物ばかりだったため、目前の敵への対抗策を優先すべく、回避や防御がメインの剣での立ち回りや、純粋な攻撃魔術の鍛錬を中心に経験を積んできた。
その結果、確かに単純な物理攻撃だけを繰り出してくる魔物相手であればそこそこ戦えるようになったものの、
今まではその状態でも、特に問題は無かった。
しかしこれから向かうニルルク村周辺には、特に【火魔術】を扱う魔物がよく現れるため、少なくとも敵魔術への対策は必須となる。
そしてゲームでもそうだが、いくら攻撃力や防御力を上げていても、油断して状態異常系攻撃や不意打ちをくらって全滅……というのは珍しい話ではない。
早めに対策しておいたほうがいいだろうな。
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出発初日の夜、街道沿いの野営地に設営したテント内。
テオは床に座って、愛用楽器の『星屑のリュート』を調律中だ。
リュートのペグをいじってはポロンポロンと弦をはじいてを繰り返し、時折満足げな表情を浮かべている。
俺はというとベッドに寝転がり、ゲームや現実を通してのこれまでの経験を通して自分でまとめた『習得候補スキル一覧』のメモを眺めていた。
リストには、習得したいと考えているスキル名・発動時の効果・習得条件を記載。
ゲームに出てきたスキルは、それなりに把握している。
多過ぎて把握し切れていないスキルも、大抵は攻略サイトにゲームでの発動時の効果・習得条件が載っており、調べればすぐに分かる。
ただ、いまだに習得条件が解明されていないスキルもあれば、【偽装】――ステータスの項目を任意の内容に見せかける事ができるスキル――のように現実に来てから初めて目にしたスキルも少なくない。
またゲームでは死にスキルとされていた【防汚加工】――対象の防汚性を上昇させる生産系スキル――が現実では凄く有用だったという例もある。
俺は冒険の中でテオに聞いたり、街で本を買って読んだりなどしながら、ゲームと現実の違いを埋める努力を重ね続けているのだが、知れば知るほど新たな発見と疑問が生まれて楽しくなり、もっと知りたいと思ってしまうのだ。
時々リストメモに書き込みを加えつつ、ああでもないこうでもないと俺が考え込んでいると。
「なぁタクト、何見てんだ?」
いつの間にかリュートを片付けたテオが話しかけてきた。
「調律はもういいのか?」
「とりあえず一区切りつけたとこ! で、それ何?」
「習得候補スキル一覧を、自分なりにまとめたやつ。やっぱ長い目で今後を考えると……俺、もう少しスキルを習得しときたいんだよな」
手元のメモに目をやりながら俺が真面目に答えると、テオはうんうんうなずいた。
「そうだねー。最近のタクトは剣も魔術もそれなりになってきたし、そろそろステップアップを考えてもいい頃かも。俺も手伝うぜっ!」
「
「でさー、まずどのスキルから覚えるつもり?」
「それが悩みどころなんだよ……どうせ習得するなら効率よく、使えるスキルをものにしていきたいからさ。そのためにこれまで、色んなスキルの有用性とか緊急性・習得条件の実現性についてなんかの情報を中心に、地道に集め続けてきたんだよ。で、情報もかなり集まってきたし今度は次の段階として、どの順番でスキルを習得していけば効率よいかってのを諸々ふまえて考えてるんだけど、これがなかなかしっくりこなくてなぁ……」
例え失敗しても、ゲームならばセーブ時点に戻って気軽にやり直せばいい。
だが現実はそうもいかない。1度の失敗が取り返しのつかない事態を招いたり、下手すると命を落としたりという可能性だってある。
まだまだ
そう考えると、どうしても慎重にならざるを得ない。
「……例えばこのスキルを先に覚えるとするだろ? 確かに強力なスキルとされてるけど、習得条件が面倒で、スキル自体のクセも強いから習得後に自分の物にするための練習期間も必要だろうってことを考えると、実戦に投入できるまでに随分と時間がかかりそうなんだよな。だったらむしろ先に、別のこっちのスキルを習得しておいた方が賢いんじゃないかとか――」
何を悩んでいるかを説明していく俺。
最初は笑顔で相槌を打っていたテオだったが、徐々に声や表情へ苛立ちが混じり始め……そして、限界を迎えたらしい。
「だぁもう、めんどくせーっっ!! 出たよタクトの悪い癖! うだうだ言わずにとりあえずやれっ!!」
「いやでもせっかくやるなら、効率の良さを追求した方が絶対いいぞ? やるべき事を絞り込んで、より短時間に少ない努力でだな――」
「その結果、効率悪くなってんじゃねぇかよ!」
「え?」
思わずきょとんとする俺。
「タクトがこっちの世界に来てから、どれぐらい経つ?」
「えっと……大体2ヶ月ぐらい?」
「その間に、新しく覚えたスキルの数は?」
「【偽装】【気配察知】【防御】……全部で3つだな」
「そう、
「う……」
俺は言葉に詰まるものの、何とか反論を試みる。
「……でも1つのスキルを物にするにはそれなりに時間がかかるだろ? もし、あるスキルを習得してさらに練習もして、その上で自分に合わなかったなんてなりでもしたら、それに割いた時間が無駄に――」
「無駄かどうかなんて、やる前に分かんのかよ?」
「そ、それは……」
「分かんないから悩んでんだろ?」
「……」
黙り込む俺。
ほんの少し考えてから、納得したようにうなずく。
「……確かに余裕がある今のうちに、とりあえずスキルを習得したり試したりをやってみて、やった結果合わないと思ったらすぐ次のスキルに切り替えるって方法なら、最小限の時間で済むし……とりあえずやるのも、悪くないかもしれないな」
「だろ? ま、試した時は『無駄だったー』って思っても、後々になってそのスキルが生きてきて、案外無駄じゃなかったってパターンもあるしさー。俺も手伝うから、ガンガン試していこうぜっ!」
テオは、明るく言うのだった。
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