第90話「古き港町、インバーチェス(3)」
昼前にインバーチェスの街へと到着した俺とテオは、港通りの屋台街で早めの昼食をとったあと、再び灯台の方向を目指し歩いていく。
歩き始めて数分後。
坂道を上りきったところで、ふいに声が出る。
「海だ!」
その場所は小高い堤防のようになっていて、爽やかな潮風を感じつつ、柵越しに海を見渡すことが出来た。
雲ひとつなく澄み渡った水色の空と、波も無く穏やかに輝く群青色の海、岬の先端にあるインバーチェスのシンボル・真っ白な高い灯台とのコントラストが美しい。
もちろんこの光景も、ゲームでは飽きるぐらい目にしていた。
それでもやっぱり、
「やっぱ、海はいいねー」
気が付けばいつの間にか、テオも嬉しそうに海を眺めていた。
俺は「そうだな」と短く答え、しばらくは目の前の広大な景色を楽しむのだった。
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ほどなくして、俺達は港へと到着。
岸壁には大小様々な数十席の船が停泊していて、そこかしこから活気に満ちた声が聞こえてくる。荷物を運ぶ人々や馬車にぶつからないよう避けながら、港中央付近にある船舶案内所へと向かった。
船舶案内所とは、船に乗りたい人と、船に乗せたい人とを仲介する施設である。
基本的には案内所を持つ国や街などの直営であり、インバーチェスの案内所も街が運営する形となる。
紹介してもらえる船は2種類。
1つは定期船便。
国や街などが運営し、定期的に決まった航路を往復する船便だ。
窓口でチケットを買うだけで誰でも乗船可能。
公共交通のため融通はきかないものの、運賃はかなり割安である。
もう1つはチャーター便。
乗せてもらえるかどうか、運賃等の諸々条件は、船所有者との交渉次第で決まる。
ゲームでは、特定の所有者の船に乗り込むと起きるイベントも多数あるため、それ目当てで色んな船をチャーターしていくプレイヤーも少なくない。
今回の目的地であるニルルク村へは、旅のスタート地点であるエイバス方面に1度戻り、そこから逆方向に進む形となる。
そのため俺達は、まずエイバスまで定期船便で戻り、そこからは主に陸路でニルルク村を目指すことに決めていた。
もちろんインバーチェスから直接チャーター便に乗ったり、エイバスから別の定期船便に乗り替えたりすることで、ニルルク村あたりまで向かうという選択肢もある。
だが予算を考えると、チャーター便より定期船便が遥かにお得だ。
それに船便だと魔物に出会う可能性が非常に低いことから、今後を考えるとある程度は陸路で地道に戦闘経験を積んだほうがよいと判断したのだ。
なお「全行程、陸路で」という案も一応検討はしたのだが、トヴェッテ~エイバス間の魔物はかなり強くなった俺の敵ではないため戦闘経験のプラスになりにくく、無駄に時間を使ってしまうだけになるという理由で却下した。
案内所の壁に貼られた『定期船便の空き状況のお知らせ』を確認した俺が言う。
「……お。今夜発のエイバス行きの定期船便、まだ空きがあるみたいだぞ!」
「やったー! 早速おさえようぜっ!」
急ぎ案内所窓口へ並んだ俺達は、定期船便チケットを無事に購入できたのだった。
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