第67話「いざ、フルーユ湖へ」


 翌日以降も予定通り、俺とテオは王都の外へ魔物狩りに出かけた。


 運よく初日にレア魔物を倒せたおかげで、『資金稼ぎ』という目的は達成済み。

 ということで冒険者が多いスラニ湿原には行かず、他の穴場的な狩場を転々としながらのんびり魔物を狩っていく。次のダンジョン攻略に備えて、腕がなまらないよう、人目のなさそうな場所で【光魔術】の練習もしておいた。



 フルーユ湖出発の前日は魔物狩りを午前中のみにし、午後は商業区で出発準備の買い物にあてる。

 剣が暴走しないよう武器屋だけは注意深く避け、消耗品を中心に色々と購入。


 トラブルもなく買い物を終えることができ、俺はホッと胸をなでおろした。






 そして、フルーユ湖出発当日の早朝。



 6日間泊まった宿を発った俺とテオは、待ち合わせ場所へと向かう。


 ネレディに指定されたとおり、東門近くの小さな喫茶店へ。

 雰囲気のあるカウンター席でコーヒーを飲みつつしばらく待っていると、地味な魔術師風のローブを羽織った小柄な女性に声をかけられた。


「失礼します。大変お待たせいたしました」

「あ、この間の!」


 その女性の顔には見覚えがあった。


 服装こそ異なるものの、彼女はネレディの家に仕える従者で、先日ナディを追いかけて冒険者ギルドへ飛び込んできた若いメイドの1人だったのだ。



「覚えていてくださり光栄でございます、タクト様」


 ペコリと丁寧にお辞儀してから、メイドは『イザベル』と名乗った。

 そして俺とテオを、大通りの路肩に止まった黒っぽい箱馬車へと案内する。

 




 一行が目的の馬車へ近づくと、金ボタン付きの黒い上着を羽織った男が、御者台からサッと飛び降り、深く被った帽子を取って頭を下げる。


「タクト様、テオ様、おはようございます」


 彼は同じくネレディに仕える従者で、ネレディ達との食事の席にも同席した執事のジェラルドであった。



「おはようございます」

「おはよー! 今回はジェラルドが御者なのかい?」

「さようでございます。どうぞ、お乗りくださいませ」


 そう言って、ジェラルドは礼儀正しく馬車の扉を開ける。




「2人ともおはよう! ほら、ナディも挨拶しなきゃ」

「……おはよぅ……」


 俺達が馬車へ乗り込むと、笑顔のネレディと、とろんと眠そうな目をしたナディが出迎えてくれた。

 俺達も挨拶を返したところ、大きくあくびをしたナディは、ネレディにもたれかかるようにして眠ってしまうのだった。



 困ったようにネレディが言う。


「……ごめんね。今日は準備やら何やらで、いつもより早くナディを起こしちゃったから、まだ寝足りないみたいで」

「大丈夫だよ! どうせフルーユ湖まで数時間かかるし、今のうちに寝といたほうがいいって! な、タクト?」

「ああ」


「……ありがとう。それじゃ、出発しましょう」



 俺とテオの返事を聞いて、ネレディは微笑む。

 そしてナディを起こさない様に気をつけつつ、ジェラルドに出発の指示を出した。

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