第60話「商業区での、装備品探し(2)」


 トヴェッテ王国の王都で最も大きな商業区にて買い物中の俺とテオが続いて訪れたのは、武器屋が集中しているエリア。



 武器には、様々な種類が存在する。

 中でも剣はメジャーな部類の武器であるため、取扱店が多い。


 防具と同様、時間をかけてじっくり色んな店を見て回りたいと思う俺達は、まずは最初に目についた剣の専門店へと入ることにした。





 剣のイラストが大きく描かれた入口扉を開けた途端、少し派手めな女性店員が笑顔で話しかけてきた。


「いらっしゃいまっせぇ♪ 何かお探しでしょうかぁ~?」

「え、えっとですね……」


 いきなり過ぎてビクッとした俺だが、気を取り直して自分の希望を伝える。

 店員は「少々お待ちくださいまっせぇ♪」と礼儀正しくお辞儀してから、店の奥へと入っていった。




 待つ間、店内を軽く見回す。


 広い店内には、ガラスケースがいくつか置かれている。

 見えるところだけで店員が7人。

 客もそれなりに入っていて、なかなかの繁盛店であるようだ。



 いつの間にかガラスケースをのぞきに行っていたテオが、俺の元へと戻ってきては小声で言う。

 

「飾ってあった剣の値段も、思ったより高くなかったし……案外、1軒目から当たりかもなっ」

「そうなのか?」

「うん! あっちのケースのぞいてきなよー」


 俺も早速ガラスケースを見学に行く。


 ケースの中には、大きさも形も様々な、色とりどりの剣が美しく飾られていた。

 そして値段も500リドカ程度からと、俺の手持ちでも十分買えそうな品も少なくないようだ。



 ホッとしながらケース内の剣を眺めていると、先程の女性店員が数本の剣を大事そうに抱え、店奥のほうから姿を見せる。


「お待たせいたしましたぁ♪ いくつか候補をお持ちしましたのでぇ、あちらのお席へど~ぞぉ~♪」


 笑顔の店員に誘導されるまま、俺達は店の奥の商談スペースへと向かった。





**************************************





 衝立ついたてで個別に区切られたスペースには、他に数組の客がいるらしく、何やら話し込んでいるような声が聞こえる。


 俺とテオが案内された席に座ると、女性店員は抱えていた3本の剣と、それぞれの値札を丁寧に目の前のテーブルへ並べてから、俺達の対面に座った。


「お客様のご希望に近そうな物を選んでまいりましたぁ~♪ 当店では新しい物からヴィンテージな逸品まで多数の剣を取り揃えてましてぇ、色違いや素材違いなどぉ、ご要望に応じて他の剣もお持ちできますのでぇ、遠慮なくぅ、気軽ぅ~にリクエストしてくっださいねぇ~♪」


「OK!」


 笑顔で答えるテオ。


「は、はい……」


 やや戸惑いつつ返事をする俺。




 目の前の女性店員は明るくて顔立ちも整った美人系ではあるのだが、ちょっと距離が近すぎるというか、どうにも押しが強すぎるというか…………要するに、俺が苦手なタイプの典型だ。


 だけどテーブルの上に置かれた剣は素人目にも出来がよさそうなものばかり。

 そして値段も手が届く範囲。


 うち1本は手持ちじゃ少し足りないが、出直してスライムを狩りまくれば数時間で差額を稼げる範囲なので、出直せば問題なく買えるはず。


 

 というかこの世界リバースにはそもそも、日本のスーパーマーケットみたいにセルフサービス方式を採用した販売店は見当たらず、どの店も基本は対面販売なのだ。


 ここで生きていく以上、こういう接客にも慣れていかないと……富裕層向けな店ばかりのトヴェッテじゃ、この店を逃せば自分に合う剣は見つからないかもしれないし……そう思った俺は、自分に言い聞かせるように深く呼吸をした。




「それじゃ説明いたしまっすねぇ~♪ 1本目のこちら! なんと今日入ったばっかりでぇ……」


 女性店員は詳しく説明しながら、剣を鞘からゆっくり抜いたり、セールスポイントを強調するように見せてきたり。

 俺とテオは時々質問を挟みつつ、説明を聞いていく。




 1本目の剣は『ミスリルブレイド』。

 物理攻撃力+19、魔術攻撃力+9、値段は970リドカ


 薄くしても丈夫で折れにくく軽いというミスリルの特性を生かし、扱いやすく仕上げた1品なのだという。

 優雅な装飾が施されたテオの武器『シュミルの魔銀剣ミスリルソード』と違い、実用性のみに特化した形状にすることで加工の手間が省かれており、また素材のミスリルの質もテオの物よりかなり劣るため、ミスリル製の割には手頃な値段らしい。


「……見たところお客様の剣はぁ、刀身が薄くて切れ味が良さそうな感じだったのでぇ、まずは似たようなのにしましたぁ♪」

 



 2本目の剣は『スライムスチールコートエッジ』。

 物理攻撃力+22、魔術攻撃力+15、値段は1150リドカ

 

 青銅ブロンズ製の剣のやや肉厚な刃部分に、魔術と相性が良い『スライムスチール』をコートした剣。

 素材として使われている『スライムの欠片かけら』はミスリルほど高級品ではないのだが、とにかくスライムスチールへ加工するのが難しく熟練の技術が必要なため、技術料が高い。

 だが割安な青銅ブロンズ製の剣をベース部分に使うことで、全てをスライムスチールで作るよりも制作難易度を下げ、かつ原材料の費用もおさえられるため、この価格を実現している模様。


「……斬るよりもぉ、殴るほうが得意な鈍器どんきっぽ~い剣ですよぉ♪ スライムスチール系のアイテムはトヴェッテの名産なのでぇ、他の街で同じ物を買うよりだいぶ安いと思いまぁす♪」




 3本目の剣は『東雲剣しののめのつるぎ』。

 物理攻撃力+43、値段は3680リドカ


 東方の海を航海しながら暮らす少数民族『八雲ヤクモの民』によって造られた剣。

 独特な形状と切れ味の良さが特徴で、質流れの中古品として入ってきたらしい。


「……この攻撃力でこの切れ味でこのお値段ってぇ、ものすっご~く破格だと思うんですよぉ♪ でもちょっと見た目が変わってるんでなんか売れ残っちゃっててぇ、うちとしても早めに処分しちゃいたいんですよねぇ♪」




 正直、俺は3本とも気になってしまった。ある意味どれもワケあり品ばかりとはいえ、こちらとしては全く気にならない理由だらけだったというのも大きい。


 剣を見る目は相当あるっぽいな、と俺は女性店員のことを見直したのだった。



 ミスリルブレイドは、性能だけで言えば、今使っている片手剣の完全上位互換に思える。正直なところ少し不格好なのだが……現在の手持ちを考えれば、見た目より実用性と値段を重視すべきだろう。


  スライムスチールコートエッジを買った場合、今とは立ち回りを変える必要がありそうだが、この値段で魔術攻撃力がこんなに上がる武器は他になさそうに思える。



 そして、どう見ても完全に日本刀である東雲剣しののめのつるぎ


 日本刀ってやっぱ日本男児のロマンだよな!

 こんな序盤にこんな激安価格で手に入るなんて、これを逃せば二度とないかも?!

 ただ魔術攻撃力の補正が入らないのは気になるんだよな……。





 揺れ動く俺だが、ようやく心を決めた。


「すみません、東雲剣しののめのつるぎを見せてもらってもいいですか?」

「もっちろんですぅ~♪ お客様やっぱりお目が高ぁい♪」

「は、はぁ……」


 さらにテンションが上がる女性店員。

 忘れようと努力していた苦手意識が瞬間的に強くなってしまった俺だったが、グッとこらえる。



「じゃあお客様ぁ、こちらじ~~っくりご覧くっださぁい♪」

「あ、はい……」


 女性店員は東雲剣しののめのつるぎを両手で持って立ち上がり、差し出してくる。

 同じく立ち上がって両手で受け取ろうとする俺だったが……。




――ぴょこっ!!




「痛ッ!」

「「!?!?」」


 急に左腕を襲った痛みに、俺は思わず小さく叫ぶ。


 そしてテオと女性店員は、驚きのあまり声を失っていた。

 俺の腰に刺さる『手作りの片手剣』がさやから勢いよく飛び出し、そのグリップ部分が俺の左腕を払いのけるという、にわかに信じがたい光景を見てしまったんだろう。


 俺が思わず痛む左腕を押さえた瞬間。




 剣と俺との



「「「「……」」」」




 剣は「てへっ」という表情を見せたかと思うと、鞘へと戻り動かなくなった。




 数秒間、空気が固まる。




 沈黙を破ったのは、東雲剣しののめのつるぎを持ったまま、すっかり怯えて立ち尽くしている女性店員。


「オ……オ……オキャクサ……マ?」



 俺とテオは無言で顔を見合わせ、大きく1度うなずく。

 そして。




「すいません!」

「今日はこれで!」



 2人そろって、目一杯急いで店を後にしたのだった。

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