第61話「謎多き剣と、神様と(1)」
トヴェッテ王国の王都の商業区にて、俺とテオは剣専門の武器屋に入った。
だがオススメの剣を見せてもらおうとしたところ『手作りの片手剣』が暴走。
思わず、店から一目散に逃げ出してしまったのだった。
「「……ハァ……ハァ…………」」
全速力で逃げてきた俺達は、商業区を抜けた辺りの裏路地に駆け込んで立ち止まり、上がった息を何とか整えた。
「あー……もう俺達、あの武器屋行けないなー」
冗談っぽく笑うテオ。
俺も「そうだな……」と苦笑いしてから言葉を続ける。
「それにしても何だったんだ、今の」
「さぁ……? ってか、タクトが神様からもらった剣だろ。タクトですら何が起きたか分かんないなら、俺が分かるワケないじゃん?」
「……それもそうだな……」
手作りの片手剣。
手によくなじむ
やや幅広の薄い刀身は、黄色味を帯びた金属製。
刀身と同じ素材で出来た
ぱっと見、あまり目立たない量産品のように思えるのだが……実は俺のためだけに、こっそり神様が作った1点物の特別な剣なのだ。
どんな素材を使って、どのような工程で作ったかなどは一切不明。
ゲーム上でも、同じアイテムをプレイヤーの手で生産できたという例は聞いたことが無い。
冒険開始当初から俺が装備しているこの剣が、初めて自力で動き出したのは、
色々検証してみたところ。
テオが剣を触ろうとすると、まるで彼の手から逃げ出そうとするかのように、軽やかにヒョイヒョイ動くことは分かった。
俺が触った場合は、特に大きな動きを見せない。
宝石部分だけをチョコッと突っつくようにした時だけ、小さく『ビックリするような表情』をする程度だろうか。
【
他の武器ではそんなことは起こらないはずなので、おそらく何かしらの力が働いているんだろうと俺は思う。
そしてボスから逃げたあの時のように、俺が剣を鞘から抜いて地面に置き、ダッシュしてその場から離れてみると。剣は慌てて飛び上がり、ピョコピョコ跳ねて俺の後を追いかけてきた。
同じように置いては逃げを何回か試しているうち、剣の宝石部分が大粒の涙――どのように生成されたか不明――を流し始める。
さすがにイジメ過ぎたかと反省した俺は「まぁ俺が使う分には支障なさそうだし、新しい剣を調達するまでは使い続けよう」と割り切ることに決めたのだった。
だが先程、剣は俺に体当たりをかましてきた。
体当たりのダメージ自体は大したことはなかったのだが、もしかしたら今後、勝手に俺達へ斬りかかってくる、なんてことも起こりうるかもしれない。
ハッキリ言って怖いし、気味も悪い。
できることなら、早く別の剣に持ち替えたい。
だけど剣を新調しようとしても、またさっきのように剣が暴走し始めるかも……。
このままじゃ他の武器屋にも入れないし……。
考えれば考えるほど、俺の気はどんどん重くなる。
「……なぁテオ、ちょっと時間もらっていいか?」
「いいけど何すんの?」
「うん……もう1回、この剣を検証したいんだ。ちゃんと解明しておかなきゃ、先に進めない気がするんだよな」
「さんせーいっ! 俺も色んな武器とか魔導具とか見てきたけどさ、そんな動きするアイテムなんて初めて見たし、実はけっこう興味あったんだよねー♪」
憂鬱な自分と正反対に、目を輝かせて楽しそうにしているテオを見て、コイツすげぇな……と、ある意味で感心してしまった。
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