素晴らしき時代

私はIT技術の発展は基本的に喜ばしいものだと考えている。


特にインターネットによる都市と田舎の情報格差は急激に縮まってきている。


最近では、体験を提供するタイプのサービスも増えているため、完全に格差がなくなることはないだろう。しかし、私のような田舎出身の者にとって、インターネットがなかったらと思うと本当に恐ろしい。


もっとも、IT化が運んできてくれる未来が全てバラ色というわけではないだろう。


IT化によって利便性は向上したが、分不相応にも何者かになりたいと考えてしまった「何者でもない人間」にとっては生きづらい世の中になっている。


人生の選択に言い訳ができないのだ。


一昔前なら、自分は農家に生まれてしまったから、家にお金がなかったから、親の方針で高等教育が受けられなかったからと、思うようにいかない自分の人生を人や社会のせいにすることができた。そして、世間もそのような人間の主張を受け入れてきた。


しかし、今やインターネットによって、やる気さえあればほとんどの情報が手に入ってしまう。


大学レベルの専門知識、節約方法、儲け方、さらには専門家や著名人に直接質問することだって可能だ。


現代は『やる気さえあれば何でもできる』時代なのだ。

本当に素晴らしい時代に生まれたものだ。


情報が入手できるにも関わらずそれをしない、手に入れても行動に移さない人間は、結局やる気がない人間だとみなされている。


自分の不遇を嘆いても『自己責任』というリプが飛んでくる。


そんな状況で何者にもなれなかった自分に対して折り合いをつけるのは難しい。


何者かになろうとした人間は、一度は自分を奮い立たせ行動を起こそうとした人間だ。そんな人間がこの状況で過去の自分を許せるだろうか。


否。


現状の自分の全てを過去の自分へと責任転嫁するであろう。世間から厳しい目を向けられるだけではなく、自分さえ自分を許すことはできない。


現代は何者にもなれなかった者にとっては地獄だ。

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