SNS

家に戻るや否や、レトルトのご飯とオードブルを電子レンジで温めた。


電子レンジの音を聞いていると少しだけ気持ちが楽になった。

薄汚い私の姿を今は誰にも見られずに済む。


ただ、電子レンジの音だけでは根本的な解決にはならない。

やはり一刻も早く空腹を満たさなければならない。

空腹が続けば続くほど、不安で心が押しつぶされそうになる。



チンっという音が聞こえたので、早速空腹を満たすことにする。





ふう。




空腹を満たすことができ、少し精神も持ち直してきた。

こんなふうに一通のメールで気持ちが落ち込むのも全てSNSのせいだろう。

メールだけなら送り主の現状など知りようもなないから、事務的にメールに返信していたはずだ。




SNSはよくない。

私心を蝕む情報がここかしこに載っている。


20代前半くらいまでは、私も他の者と同様に楽しくSNSを利用できていた。

学生の頃はみな同じ境遇のように思えたし、たとえ格差があったとしても、目に見えなかったからだろう。

しかし、さすがに30にもなると格差が生まれてくる。




海外赴任でいろんな国を回っている者

管理職に抜擢される者

結婚し子供の写真をアップするもの

博士号をとり論文がどんどんアクセプトされるもの




自分の精神にとっては百害あって一利なしなのは分かっているのに、どうしてもやめられない。



なぜか?



おそらく人の不幸を探しているからだろう。



基本的にSNSは自らの幸せ誇示するものだ。しかし、時々不幸な出来事をアップする人もいる。また、当人は不幸と思っておらずとも、私の目から見ると不幸に思う出来事をアップしている人もいる。



炎上をしたり批判されているのを見るのも良い。



そんな報告や記事を見つけると、溜飲が下げることができる。



人の不幸なんてネット上に巨万とあるが、著名人や匿名者の投稿は親近感が沸きづらい。

やはり人の不幸で溜飲を下げるには現実世界でつながりのある人間でないとダメだ。



その点SNSというのは非常に便利なツールだ。家にいながら知り合いの不幸な出来事を窺い知ることができる。

投稿者はまさか自分の知り合いがそんな気持ちを抱いて自分の投稿を見ているとは夢にも思わないだろう。



きっとこのSNSの創始者もそんな使い方をされるとは思ってもないだろう。

私が何十回人生をやり直しても手の届かない額の資産を有するハーバード卒のエンジニアには、私のような低俗な人間の思考が理解できるはずもない。


ただ、SNSのここまでの広がりを鑑みるに、私のような目的で利用している者も一定数いるのではないかと思える。



ふわぁ、と大きなあくびが出た。



脂ぎった薄汚い体でベッドに横になる。

この部屋に人が入ること、ましてこのベッドを他人が使うことはないのだから、清潔にする意味もない。

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