東国騎馬軍団の壊滅とキンゴーヤンの最後

 その夜、ダーク帝国軍団宿営地は10の兵団に分け陣が敷かれ多くの宿営幕が張られていた。いくつかのかがり火がたかれ歩哨兵が見回りを続けている。

 宿営陣の後方には多くの騎馬が繋がれ馬場となっていた。

 そこに全身黒づくめの顔にまで泥を塗りたくった東国兵団の斥候兵が音もなく忍びこむ、見回りを続ける歩哨兵の背後に回り込や平刀を突きたてる。


 悲鳴をあげる間もない、倒れ込む歩哨兵、黒づくめの斥候隊は宿営陣の後方に回りこむ。馬場に繋がれた騎馬の友綱を切り離なすや、かがり火を倒し宿営陣に火を放った。


 たちまちのうちに燃えさかる炎に包まれた宿営陣。怯え逃げ惑う騎馬、ダーク帝国軍団の10の兵団の宿営陣から次々と炎が立ち昇っていく。

 闇の中に真っ赤に立ち昇った炎を合図に、東国兵団が火矢を放ち突撃を開始したのである。


 静寂の闇の中を、突然に襲う騎馬の蹄音、響き渡るトキの声、燃えさかる炎、寝ばなをくじかれたダーク軍兵士はいったい何が起きたかわからない、傍らの平刀をわしづかみにするや炎に包まれた宿営陣を我先にと飛び出した。

 その目前には、闇の中にグエンの炎に照らし出された東国の騎馬兵士軍、片手に松明、片手に平刀を振りかざし突進してくる。


 敵か味方かも判別もつかぬ間だ、あっという間に数十人の半獣半人のダーク兵団騎士達が斬り倒された。

 闇に乗じた東国の騎馬兵士軍団はダーク帝国軍宿営地に松明を投げ込み、火矢を放ち、平刀を振りかざして、縦横無尽に駆け抜ける。累々としたダーク軍兵士の屍が築かれていった。

 そして闇が白み始める夜明けの一刻前、東国の騎馬兵士軍団は潮がひくかのごとく平原の奥深くの森林地帯に撤収、逃げ込んでしまったのである。

 その夜襲が3日3晩続いたのである。広大な漆黒の闇の森林、グエンの炎を背負った東国騎馬軍団が闇を切り裂き時を定めづ場所を定めづ飛び出してくる。ダーク帝国軍団は思いもよらぬ甚大なる戦害を受けた、1兵団に相当する戦死傷者、相当数の騎馬の逃亡、野営陣の火災による弓、矢、長槍、糧食の焼失である。

 かってアジア台地には夜襲なる戦法はなかった。合戦とは両軍が大軍を率い一定間をおいて合い対峙し鬨の声とともに合戦に突入するのが常だった。

 東国の将軍キンゴーヤンは、合い対峙することなく、姿を見せず、攻めては引く、夜襲をかけるというゲリラ戦法をアジア台地の合戦の場において始めて用いたのであった。

 ダーク帝国軍団はこの地にて早や3日の足止めをくっていた。進軍が止まっているのである、ダーク帝国将軍デォールは大きな焦りを見せた・・・やはり老魔術師オルビスの言うことは当たったのである。


「東国の軍団をあなどってはいけない、ヤンキンゴー一族の勇猛なる将軍、キンゴーヤンをあなどってはいけない!」

 ダーク将軍デォールは東国城へ向けての進軍を止めた。全軍を東国軍団の逃げ込んだ平原奥の広大な森林地帯に向けたそして東国兵団が逃げ込んだであろう森林地帯を全軍で2重3重に取り囲んだのである。

 森林地帯には、いたる所に枯れ木、枯れ枝、枯草が積まれる、ほどなくして数千本の火矢が森林地帯に射込まれた。


 森林地帯はプス、プスと炎が発生するや、いたる所に渦巻き状の炎が立ち昇り、たちまちのうちに黒煙が充満していったのである。


 そこに恐怖も、死の恐れも、痛みも感じない、ただただ平刀を振りかざし突進するダーク軍ゾンビ兵士の大軍が投入されたのであった。

 森林地帯の奥深くで東国軍団とダーク軍ゾンビ兵士の戦いが開始された。


 森林地帯の樹々の間を縫うように下草の上を這い、細い炎が何本も走り黒煙を伴って東国兵団に向かってくる。


 その後方では、バキバキ、バキと何本もの生の立樹が炎に包まれ崩れ落ちたちまちのうちに火炎の渦が巻き炎と黒煙が立ち昇る。


 その炎と黒煙の中をゾンビ兵士が背に炎を背負いながらも、それでも平刀を振り上げ前へ前へと突進してくるのである。

 切り倒しても、切り倒してもゾンビ兵士は炎の中から後から後から続々と湧き出して来るのである。


 一人の東国兵士を炎を背負う無数のゾンビ兵士が襲う。折り重なるように平刀を突き立て燃え尽きてゆく・・・森の奥では、東国騎馬兵士軍が炎と黒煙とゾンビ兵士に徐々に徐々に追い詰められていた。

 森林地帯の正面ではダーク将軍デォールが、全軍を3段に分け布陣させた。


 1段目に弓に矢をつがえたままの弓隊、2段目には長槍をかざした長槍隊、3段目は漆黒の軍旗を掲げた半人半獣の騎馬隊、その隊列を幅1キロにかけて布陣しその中央に軍指令部を設け将軍直属の騎馬軍団300騎を布陣させた。


 そして炎が燃えさかり、黒煙が舞う森林より飛び出してくるであろう・・・東国の騎馬軍団を待ち受けるのであった。

 その東国の騎馬軍団は、森林の右翼端よりその軍姿を現すやダーク軍団の右の戦陣を数個の兵団に分かれ波状的にいきなり襲った。


 慌てたダーク弓隊は第一矢を放つも第2矢を放つ間がなかった。それほどに東国騎馬軍の突撃の勢いはすざましかったのである。

 平原の至る所で東国騎馬兵士は長槍を振りたて、平刀をかざし鬼気迫る勢いで縦横無尽にダーク兵軍の陣を斬り開く、バタ、バタとダーク軍兵士の屍の山が築かれ、ダーク軍は徐々に徐々にダーク将軍デォールの布陣する中央の陣に向けてその戦軍が押し込まれていく。

「死に狂いする敵に、向かう術なし、半端な戦いは挑まぬこと」

 

 ダーク帝国将軍ディールがこの合戦において肝に命じたことであった。

 ダーク帝国軍団は、将軍デォールの直属騎馬軍団のみを残して幅1キロにもかけて布陣された全ての軍を右翼端に向けゆっくりと移動させ集結させた。


 そして、いたる処で縦横無尽に平刀を振りかざす東国騎馬軍団を3重、4重に取り囲む、四方八方より矢を放つや長槍を突きたてる。さすがの勇猛なる東国騎馬兵士も一騎、また一騎と全身に矢を受け長槍を突き立てられ討ち死にしていった。

 アジア台地最大で最強の戦力を誇った東国騎馬軍団は、大地震の被害と圧倒的兵力を有すダーク帝国軍との戦いにより今ここに壊滅の時を迎えるのであった。

 その時ダーク将軍デォールのいる本陣の軍団司令部の陣は、将軍直属の騎馬軍団300騎が布陣しているだけであった。その布陣している正面の森林からは黒煙がうっすらと晴れていった。


 そこには、そこにいるはずのない東国の騎馬軍団が目前に布陣していたのである。将軍デォールから300mも離れぬ所にエンジもの旗に黄金の龍があしらわれた東国騎馬軍団の軍旗が黒煙を振り払うがごとくバタ、バタとはためいている。


 ダーク将軍デォールは驚愕した。100騎足らずではあるがその東国騎馬軍団は手薄となっている将軍デォールの本陣に向け一直線に矢のごとく突進して来た。

 完全に裏を突かれたダーク軍は将軍デォールの前に幾重もの騎馬の壁をつくり応戦する。

 その乱戦の最中、ダーク軍のつくる騎馬の壁を蹴散らすや、東国将軍キンゴーヤンがダーク将軍デォールに斬り込みをかけた。


 将軍デォールの目前でキンゴーヤンの跨る騎馬は高く高く飛んだ、その高く飛んだキンゴーヤンの右手からは短い槍がデォール目がけて一気に放たれた。


 デォールは両刃の平刀を横に払う、だが放たれた短槍に触れる事はなかった。

 放たれた短槍はデォールの左肩にグッサリと突き刺さった。がっくりと崩れこむデォール。


 そのデォールの頭上を飛び越えたキンゴーヤンの騎馬はダーク本陣を駆け抜けるや一直線に平原を駆け奥に広がるオウガ河川を目指した。


 その後を数十騎の東国騎馬兵士が後を追う。

「逃すな!」


「殲滅しろ!」


 血にまみれたダーク将軍デォールの叫ぶ。

 怒号の中、ダーク騎馬兵士百数騎が数百本の矢を放っや、すぐさま怒涛のごとく追撃を開始した。


 東国騎馬兵士軍は背に何本もの矢を受けるが、全騎、騎馬の手綱を緩めることはなかった疾風のごとく駆けつづける。

「死して敵に屍を残すことなかれ!」


「我に続け!」


 目前に迫る大河を前にキンゴーヤンは馬上にて叫んだ!

 東国将軍キンゴーヤンとそれに付き従った数十騎の騎馬兵士はダーク騎馬軍百数騎の追撃をかわして・・・大地震の豪雨により未だに氾濫しているオウガ河川の渦卷く濁流に、騎馬もろとも続けざまに飛び込み再び川面にその雄姿を見せることはなかったのである。




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