猛将キンゴーヤン苦渋の決断
そのころ、一面の瓦礫の山と化した東の国の東国城、城壁都市の民はダーク帝国の大軍団が東国城に向けゆっくりと進軍しているなんて誰もが露程にも思ってはいなかった。
東国の民は、己とその家族の消息の如何、明日に向けての生活の糧の確保に懸命だったのである。他の事に思いをはせる余裕などなかった。
そんな中、瓦礫の山と化した東国城の城壁内の丘にエンジの布地に黄金の龍があしらわれた東国、軍団旗が高く高く掲げられた。1本、2本~3本、4本と高く、高く掲げられた。
バタ、バタとはためく軍団旗、瓦礫と立ち昇る黒煙をふり払うかのごとく天高く舞い、数えて10の軍団旗はパタ、パタとはためいた。
その軍旗の下には木材が運び込まれ、屋根組が組まれ、厚布が掛けられていく、仮舎が立てられつつあった。
東の国の将軍、勇猛で名をはすヤン、キンゴー一族のキンゴーヤン将軍が生き延びていたのである。
キンゴーヤンは大地震の揺れと同時に、東国城の王族の住まう王府塔にかけつけた。
第2、第3の大きな横揺れが王府塔を襲う。左右におきく揺れる王府、続けざまにドスーンとした縦揺れが起こった倒れ込むキンゴーヤンの目前で王府塔はもろくも崩れ去った。誰一人王府塔より飛び出す者はいなかった。
ガラ、ガラ、ドドッー・・・次次と崩れ堕ちる石壁、立ち昇る土埃、山と化す瓦礫、王府内の王を含めた王家一族の全員の死を悟った。
それからキンゴーヤンは三日二晩、一面の瓦礫の山をさまよい歩き生存者の救出にあたった。
三日目には天はにわかに黒く曇り大粒の雨を降らせた。
土砂と黒煙にまみれ、ずぶ濡れとかしたキンゴーヤン三日二晩一睡もすることはなかっただがその足が止まった。キンゴーヤーンは降りしきる雨の中その場にドス―ンと崩れるように倒れ込んだ意識が飛んだのです。そしてそのまま深い眠りの谷に陥ったのだ。
だがそれもほんの一時の間である・・・キンゴーヤーンは瓦礫の山に足を踏ん張り再び立ち上がったのである。その瞳は天を仰ぎラン,ランと輝き、口は横一文字にばれていた。キンゴーヤンは東の国王、フランシス、ダイの声を深い眠りの中で聴いたのである脳裏の奥に響いたのである。
「東国の領民を!民を頼むぞ将軍、頼むぞ将軍!」
国王フランシス、ダイは王府塔の王門の入り口に立ち必死に手を差し出していた。
「国王、国王そこは危険です。こちらに、こちらに・・・」
キンゴ―ヤンが国王の差し出す手に触れたかの瞬間、キンゴ―ヤンは意識を取り戻した。
死者数万人、瓦礫が広がり黒煙の立ち昇るこの廃墟の風景。世の終末思想に取りつかれただただふらつきまわる領民達、心も精神も病み、死の淵を彷徨っていた。
キンゴーヤンは東国城の城壁内の丘に立つや、すぐさま城壁内をふらつきまわる兵士達、政府の役人達を呼び集めるや、彷徨う領民達へも集合をかけたのだった。
そして、国王より拝領の大振りの両刃の剣を大地にブスッと突き立てるや、あらんかぎりの大きな声で叫んだ。四方が一瞬静まるかのような大声だ。
「東の国の軍旗を立てろ、高く高く、領民の皆が見えるように、1団、2団、10兵団、全ての軍旗だ!この瓦礫の山の上にはためかせろ!」
「東国の民よ、今こそ民の魂をこの軍旗の元に取り戻せ!」
「仮舎を建てろ!」
「傷病者を集めろ!」
「水、食料を集めろ!」
「兵団を組め、兵団ごとに生存者の救出にあたれ!」
「武器庫、宝物庫、食糧庫をあたれ!」
「薬、薬剤、包帯、至るところから集めろ!」
「逃げ出した騎馬もあつめろ!」
キンゴーヤンは誰彼かまわずつ捕まえてはやつぎばやに色々指示を出し、大きな身振り手振りで叫びまわる。
その時、天才的外交官スグルは一面の瓦礫の中に東国軍団旗がはためくのを見てすぐさま軍団旗の元にはせ参じた。軍団旗の元には、幾人かの政府高官達、多数の兵士達がはせ参じていた。皆土砂と黒煙にまみれ、政府高官、兵士の様相はなしてなかったがその瞳は輝いていた。
キンゴーヤンは目ざとくスグルを見つけるや、
「スグル生き延びたか良かった、お前に頼みがある・・・すぐ出発してくれ」
指示の内容だけスグルに伝えるやいなや・・・はや幾人かの兵団長,役人を呼びつけ、指示を出しまわっていた。
スグルの受けた指示はこうだった。この東国城城壁都市からオウガ河川の中流域まで馬を飛ばし東国領土の災害の様子を探って来いとの事であった。
そしてオウガ河川沿いの豪族達に対しては、
(先ず生存者の救出、傷病者の介護を優先し、次に領民への食料の配給を実施しろ)
との命令を伝える事だった。
東の国の第2国府城のある東海岸の災害状況確認、第2国府城より東国城への災害復興応援の依頼は別の高官インカムが受けた。
スグルとインカムはすぐさまそれぞれの命に従い瓦礫の山と化した東国城を後にしたのである。
7日の昼夜をかけ、道路の亀裂や陥没、丘、崖の崩落、全半壊した家屋、河川の氾濫、田畑の浸水の地を通り過ぎたスグルはオウガ河川の中上流地域にある東国の北の出城に着いた。
出城では騎馬騎士団百余名が半壊した出城の修復にあたっていた。スグルが到着するやいなやすぐさま騎馬兵団長パンダックが深刻な表情で駆け寄ってきた。
「スグル卿、どうもオウガ河川上流域ハウマン一族いる領域がおかしいようなのですが」
「おかしいいって、どのような事かの」
「偵察に行った者によると、河川の最上流域で相当の騎馬が集まっているようらしいとの報告で夜間になった為、折り返さざる得ず明日再度偵察に向かわせるのですが・・・」、「スグル卿ご同行いただけますか」
スグルとパンダックは日が明けるやすぐさま上流域への偵察に向かった。途中はやはりオウガ河川の中流域同様、地面亀裂、陥没、河川の氾濫で相当の災害状況であった。だがオウガ河川の最上流部に近づくにつれ、スグルとパンダックともただならぬ雰囲気を感じづには居られなかった。
馬のいななき、踏み鳴らす馬蹄、軍貨のざわめき、かすかにではあるが騎馬兵士のみが敏感に感じとることが出来る戦場感である。
スグルとパンダックはここで馬を降り、草原に身を潜め遠方の高台の丘を目指した。
高台の丘に着き、大木によじ登った二人の見たものは・・・
オウガ河川沿いに広がる平原一帯を埋めた騎馬軍団である、漆黒の軍旗である。馬上の騎士は半人半獣である、大軍団である、それが整然と進軍しているのである。大軍団が一団、2団、3団と続いているその後も軍団は続いている、最後尾はここからでは見ることが出来ないそれほど多く軍団が続いているのである。
スグルとパンダックは体がガタ、ガタと震え止まらない、大木から降りることもままならない。それほど身体は震え抑えが効かないのであった。
スグルにはキンゴーヤン将軍の指示を仰いでいる暇はなかった、緊急である即刻決断をした。先ずこの状況を東国城のキンゴーヤンに鳩を使い伝達する。
馬では間に合わない一刻の猶予もなかった。
鳩は出城の鳩全てを飛ばした。2~3匹だとその鳩が鷹等に襲われ全滅の可能性があったからだ。スグルの伝文筆記の手はガタ、ガタと震え続けた。
それから、出城の騎馬兵士団に東国城へ向けての即時の撤退を命じた。また騎馬兵団長パンタックには先行してもらいオウガ河川沿いの東国豪族達へこの状況を知らせ軍備を整えさせる事、また河川沿いの領民を引き連れ東国城へ向かう準備をすぐさまとらせることを命じた。
この鳩の伝達をキンゴーヤン将軍は復興作業の真っただ中で受けた。
ヤン、キンゴー一族の中でも最も勇猛で名をはしたキンゴーヤン将軍であったがこの伝達には手足、体がガタ、ガタと震えた。伝達文を握りしめガタ、ガタ震える手を止めることが出来ない。
傍らに立つ幾人かの司令官達が
「将軍!いかがいたしましたか!」
と怪訝げに叫ぶ。
キンゴーヤーンは一言も発することなく、皆の前にその伝文を広げ示した。
すぐさま生き残った兵士が集められたまた騎馬も集められた。そして矢、長槍、盾、平刀、鎖鎧全てが集められた。
兵団の兵力は通常兵力の過半にも満たない。相当数の兵士が死亡、行方不明、傷病重篤した。また騎馬は過半が地震により逃げ出した、その上武器庫が炎症し大半の剣、弓、矢、槍、鎧、多くの武具武器が燃失した。
そして、2重3重の防壁に囲まれた台地最大の堅固な東国城は今は全て崩壊し、一面の瓦礫の山と化している、一面の
野戦(平地戦)を覚悟したキンゴーヤンは王に代わり苦渋の決断を下した。
東国城に生き残った兵士は3万余か、キンゴ―ヤンはその内屈強の兵士1千を選びオウガ河川沿い中流域に向かわせる事にした。中流域から東国城にかけて居住する領民達を東の国海岸沿いの第二国府城へ移す大移動を決断したのである。
東の国の領土幅はオウガ河川の河岸沿いから果てしなく伸びアジア台地中央部の原生林の端の森林地帯まで伸びて幅広い。その内ダーク帝国軍の進軍路にあたるであろうオウガ河川の河岸沿いに住む領民20万余の民を救うことにしたのである。
20万余の民の大移動を決断したのである。
「頼むぞ将軍!東国の民を民を頼むぞ!将軍・・・」
国王フランシス、ダイの最後の魂の叫びだ・・・キンゴーヤンの脳裏を離れることはなかった。
その領民大移動の引率と護衛に1千の騎馬兵士を充てた。
筆舌を欠く、壮絶な困難を伴う大移動になるだろうキンゴーヤン将軍はこの大移動の総指揮の大任をスグルに命じた。
スグルにはすぐにキンゴーヤンより鳩が飛ばされた。
「オウガ中流域に向かい進軍している1千騎の騎馬隊と合流せよ、そしてその指揮を取れ、オウガ河川の領民20万の民を無事東海岸王府の領地に送り届けよ!」
スグルは押しつぶされるような重圧と心の高ぶりを押さえるや、すぐに騎馬に跨りオウガ中流域へと向かうのであった。
残る兵士3万をもって、キンゴーヤンはオウガ上流域へと進軍を開始した。
キンゴーヤンとしては少しでも時間がほしかった。
20万余の領民が東の海岸めがけ大移動を開始するのである、ダーク帝国軍をオウガ上流でいかに食い止め時間を稼ぐか、20万余の領民がいかに東の海岸の兵士が統治する地にどこまで近づけるかキンゴーヤンの戦いにかかっている。
キンゴーヤンはもう既に死は覚悟していた。
軍団の先頭に立ち騎馬の歩を進める、後方に付き従う3万余もの兵士達もう既に死は覚悟したのだろう、誰も一言も発しない、東国領民の民の為に父母、兄弟、縁者の為に皆死を覚悟したのだろう。
(生きて再び、この地を踏むことは無いと)
・・・それを思うと・・・天を仰いだ猛将キンゴーヤンの瞳からは涙がとどめなく流れ落ちた。
オウガ河川上流の出城から撤退を開始した出城軍団は河川中流沿いでキンゴーヤン率いる軍団と合流した。
出城軍団よりダーク帝国軍団の状況を聞き取るや、キンゴーヤンは率いる東国兵団の進軍路をオウガ河川の中流域より変更した。オウガ河川沿を離れ大きく左折した。河川沿いの平原の奥の森林地帯その奥へ奥へと兵団を向かわせた。
平原の奥は広大な原生林と繋がる森林地帯である。
兵団はこの森林地帯の木々に紛れ込んだ。そして静かなること、林のごとく、兵団は静かに静かにオウガ河川の上流域を目指し森林地帯の木々の間を縫うように進軍の歩を進める。
森林地帯を静かに進軍する事10日間、放たれた斥候がついにダーク帝国大軍団の進軍をとらえた。東国兵団より丸1日のオウガ河川沿いの平原だ。
漆黒の軍旗をはためかせゆっくりと進軍しているとの報だ。相当な大群とのことだ、東国城へはまだ14~5日はかかるだろう。
キンゴーヤンはこの林の中に陣を張った。
そして3万の兵団を10団に分け編成し直し,各司令官に集合の号令を出した。
「この戦いは、城での籠城戦ではない・・・平地での野戦だ、白兵戦だ」
「ダーク軍団兵力は・・・我が兵団の倍を優に超える」
将軍キンゴーヤンはかがり火の揺れる林の中で、車座に坐した兵団長を前にさらに続けた。
「ダーク帝国軍の圧倒的な兵力には対抗する術がない、我が勇猛なる東国兵団の果たすべき事は、我が東国の20万余の領民を第2国府の領土に兵士の元に無事に送り届ける事だ。この地でダーク帝国の軍団を4~5日足止めする」
「戦いは全て夜襲とする。闇に乗じて攻め、明けに乗じて森林に撤退する」
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