護衛騎馬団長ニラワティーの決意

 この戦において甚大なる戦害をこおむったダーク帝国軍は、3千騎の騎馬軍団はそのまま東の国、東国城へ向けて進軍を続けさせたが数万規模の本体は北西 部奥のダーク城に向け撤収を開始した。

 

 この頃、大移動を続ける東国オウガ河川沿いの20万の領民と護衛の騎馬兵1千騎は漸く瓦礫と化した東国城、城壁都市を通過した。東の海岸へ抜ける最大の難所北側山脈の険しい渓谷の狭い山路まであと2昼夜と迫っていた。


 ここを登りきれば、抜ければ後は緩やかな傾斜の続く渓谷のあぜで東の国第2国府城の統治権の及ぶ領地である。さしものダーク帝国軍もこの険しい渓谷の狭い山路の難所を大軍を率い進軍するとは思われない。

 20万の民の大移動の総指揮の命を受けたスグルは、ここに居たりほっと胸をなでおろすのであった。

 「スグル卿、後2昼夜ですな、無事領民を送り届けられますな・・・」


 護衛の騎馬兵団長ニラワティーが騎馬を並べてきた。後に何か口ごもったがそれ以上に口を開くことはなかった。


(将軍はご無事か!、東国軍の戦況は!)

 多分のこう続けたかったのだろう。だが、スグルもニラワティーもこのことを口に出すのは控えた・・・重苦しい空気が流れる・・・


「兵団長、我々は我々の果たすべきことのみ考えよう。今はそれのみ!」


 スグルは唇を噛みしめニラワティーを見やう。

 だが、そんなおり大移動のしんがりを務める騎馬軍団の斥候より緊急な知らせが入った。

 ダーク帝国軍が近づきつつあるというのだ。兵力はおよそ3千騎、小規模ではあるが、東国護衛騎馬団の優に3倍の兵力だ!後1昼夜の内にこの大移動団に追いつくだろう。

 ダーク兵団は騎馬で進軍している。大移動団は徒歩の老若男女だ、足が遅い、北側渓谷の険しい難所に到達する前に追撃されるだろうとの知らせであった。

 スグルには、重苦しい時が過ぎた決断の時が迫っている。スグルの目前には、一抱えの手荷物を携え赤子を抱き幼子おさなごの手を引く者や老人に肩をかし重い足取りを運ぶ者、老若男女の疲れ切った長い長い行列である。皆オウガ河川の中流域から飲まず食わずの強行の行軍だ、これ以上に行軍の歩を早めることは無理だ!・・・スグルは天を仰いだ。


 スグルの心中を察するがごとく兵団長ニラワティーが口を開く、その瞳はまっすぐにスグルを見据え強い意思がこもっていた。


 

 「スグル卿、我々はすぐさま引き返します。東国城のいたる所の瓦礫の山に隠れ、追跡してくるダーク兵団を待ち受けます。東国城の瓦礫が城は崩落しても我々に味方します。守ってくれます、1昼夜は我々がダーク兵団を足止めします」



「その間にあの渓谷の難所を抜けてください」


 

 「スグル卿、我が軍のうちより100騎の騎馬兵士を伴って移動を続けて下さい、20万の東国の民をどうか、どうか、第2国府の地に無事送り届けてください!」


 

 「スグル卿、我々に王の眠るあの瓦礫の王城で、幾多の兵士の眠るあの瓦礫の城壁都市で最後の戦いを・・・我らに挑ませて下さい!」


 かあっと見開いたその瞳からは、一滴の涙も垂れることはなかった。

 スグルはただ、ただ頷くことしか出来なかった。

 

 それからのスグルは、100騎の騎馬兵士とともに20万の東国の民を先導しあの北側渓谷の険しい難所を無事渡りきった。

 皆の目前には、崖と岩場と岩礁の広大な海岸線が姿を現した。その中を段々に整理された狭苦しい田畑が至る所にへばり付き点在していた。

 荒々しい風情の東国第2国府の領土である。

 20万の民はその場に倒れ込む者、へたへたと座り込む者、抱き合い歓声をあげる者さまざまだった。


 

 東国城、城壁都市の瓦礫の山ではニラワティー率いる護衛騎馬団が鬼人のごとく、死に狂いするかのごとく、平刀を振り下ろしダーク軍兵士を斬り刻んだ・・・だが日中から続いたこの激しい戦闘は、夜が白み明けるあたりには終焉を迎えるのあった。一面を漆黒のダーク軍の軍旗で占められていくのである。


 

 兵団長ニラワティーと彼に率いられた護衛騎馬軍団は皆壮絶なる死をとげた。鬼気奮迅の手柄を土産に東国将軍キンゴーヤンの元に旅だったのである。







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