アジア台地(大地震)
益々の繁栄と栄華が続くかと思われていたアジア台地に、静かに静かに凶行の暗雲が忍びよっていた。
台地の民は誰一人気づかない、繁栄と栄華の果実に酔いしれていた頃、ダーク帝国との合戦よりはもう既に100年が過ぎ去ろうとしている頃なのである。
天才的外交官スグルが東の国において外交の任を拝し、益々その外交技術に磨きをかけていた頃、アジア台地の中央部原人の住む原生林北端で大地震が起きるのである。
震度8強、数百年に一度あるかないかの大地震がアジア台地内陸部を突然に襲うのであった。
「放浪の旅人スグルの嘆き」にはこう記されていた。
「これは神の戯れなのか、神は時として大変残酷なことを下される、それとも神はこの試練を乗り越えろとおしゃるのか」
漆黒のマントを羽織り国王より拝領の平刀を携え、5名の従者を従って優雅に各国を遊説していた外交官スグルが、この大地震を境にボロをまとい1名の従者も従えることなく背丈程の棒きれをつき、ひもじい思いをし、ただただ台地を放浪する事になろうとは思いもよらなかったと記されている。
この大地震の被害はアジア台地全体に及んだ。特にその被害の大きかったのは地震の震源地に最も近かった東の国の東国城周辺の城壁都市だった。
小高い丘陵にそびえ立つ石造りの天守塔、二重、三重の城壁、城壁内の堅固な食料、武器の備蓄塔、役人、兵士の居住塔、奉公人の住居、城壁外の住民の居住棟、広大な商業施設塔はみな全て崩壊し瓦礫の山となった。
土砂崩れ、地面の亀裂、陥没が起きたのである。そしてほどなくして火災が起きた。竜巻状の渦が発生し炎が立ち昇り黒煙が舞い上がったのである。
地震発生から三日間余震は続いた。発生から三日目には、天はにわかに黒く染まり大粒の雨が降り出し一面は豪雨にさらされた。火災は収まったものの今度は大規模な土砂崩れオウガ河川の大氾濫がオウガ河川沿いに住む東の国領民を襲った。
この災害で東国城、城壁都市周辺の領民、兵士、役人の多数に死者、行方不明者が出た。またオウガ河川沿いの東国領の豪族達とその領民も河川の氾濫で相当数の溺死、行方不明者が続出その被害は甚大だった。
この時天才的外交官スグルは、地震発生と同時に東国城、城壁内の岩山の洞窟、宝物庫に逃げ込みグエンの炎に囲まれ三日二晩を過ごした。生き延びたのである。
・・・宝物庫の洞窟をやっと脱け出したスグルの見た光景は・・・
一面の瓦礫の山であった。豪雨にさらされ濡れた瓦礫の山であったがまだか細い黒煙は至る所から立ち登り、三日を過ぎても一面の瓦礫の山からは瓦礫に飲み込まれた生存者の最後の悲鳴なのか、野獣の嗚咽ともとれる低い唸り声、叫び声がこだまのように響いていた。
血にまみれた、土砂にまみれた、また焼けただれた領民や兵士達がふらふらと彷徨い瓦礫の山には気がふれんばかりの幾人もの者達が泣き、叫び、取りつく。瓦礫の奥の奥の穴倉よりか細く響く嗚咽、悲鳴。血まみれの手で必死に瓦礫を掘り起こす者、しかしか細い嗚咽も悲鳴も次第に途絶えた。
この世の地獄絵図とはまさにこのことか。スグルは一面の瓦礫の山の中にただただ立ち尽くすだけだった。立ち上る黒煙の中ただただ天を仰ぎ神を恨み嘆き続けるのみだった。
この大地震で東国城王府内にいた東の国の国王、王妃、3人の子供達は崩壊した天守塔の山のような瓦礫の奥深くに埋もれた。
東の国の領地はこの東国城周辺とオウガ河川沿いを中心に東の海岸沿いまで細長く伸びている。東の海岸沿いには第二の国府城があり東の国、国王の義弟がこの海岸沿い一帯を治めていた。
この海岸沿い一帯も地震の大きな揺れと大きな津波に襲われた。だが第二国府城は堅固な岩山の小高い丘陵にあった為か建物の崩壊や津波の被害は免れた。領民の大半もその住居は山々の小高い山腹にあったため建物の崩壊はあったものの津波の被害は免れた。
東の海岸沿いは浜辺の広がる海岸沿いでない、鋭い岩山が立ち並ぶ岩礁の海岸沿いであった。津波の被害が少なかった岩礁が幸いしたのである。
だが東の国はその中心地である東国城の城壁都市が壊滅状態い陥り、城壁都市から西方に伸びるオウガ河川沿いに居住する領民も河川の氾濫により大きな被害を受けた。
被害を免れたのは東の海岸沿いの第二国府城とその周辺の領土の狭い範囲のみで、国を統治する国王一家も生死不明となりまたその王族や王府の役人達もほとんどが死亡、行方不明となり、東の国はこの大地震によりその統治機能が壊滅した。
アジア台地、最大の国家が統治不能の壊滅状態に陥ってしまったのであった。
この東の国と同様に大きな被害を受けたのが、西方の山岳地帯から海岸沿い一帯を治めていた海の国であった。
特に海の国の海岸沿いの領民の被害はひどかった。海の国の海岸沿いは東の国の海岸沿いのような岩山が立ち並ぶ岩礁海岸ではない。
何処までも白い砂丘の続く大きな浜辺の海岸であった。そこに地震による大津波が押し寄せたのである。
大津波の被害は海の国の国府城のある山腹一帯の揺れによる地盤沈下や家屋の崩落、火災、崖崩れ等の被害とは比べものにならなかった。
その時海辺の者達は大きな揺れが収まるやいなや皆家々を飛び出した、入り江に括り付けた小舟や浜辺の小屋の漁具が心配だった。
入り江の小舟は高波にのまれ大きくせり上がっていた、浜辺の小屋も高波にのまれ波間に姿を消していた。
高潮の第一波が来たのである。潮は海辺の者達の目前で高く高くせり上がり何艘かの小舟やいくつかの小屋を飲み込み今度は沖まで大きく、大きく引いていった。
はるか沖まで潮は引いた今までに見たことがない光景だ。遥か沖まで多くの魚が干上がり浜で銀色に輝きピラ、ピラと飛び跳ねた。人々は不思議がり魚を拾おうと多くの者が浜を目指した。手に籠を下げ、そこに津波の高潮、第二波が襲った巨大津波である涙高10m山のごとき高潮である。
あっという間に浜辺の魚を手にした者達を飲み込み、さらに波は浜辺より遠く離れた小高い丘をも蹂躙し飲み込んだ。そこに建つ漁村の人々の家屋を一気に飲み込んだ。
あっという間に海の国の海岸沿いの人々や村々は消滅した。
高潮は第一波より第二波の方が数段に大きいのである。その波はまるで海中より湧き出た数万の軍勢にも見えた・・・その軍勢はバシャ、バシャと大きなトキの声を上げ一気に攻め寄せて村を襲い・・・浜辺の家々を蹂躙し去って行ったかのようであった後には何も残っていなかった。
海の国では、国府城のある山腹一帯の山側を除き海岸沿いは全て壊滅した。領土の半分はこの大地震により壊滅してしまったのである。
一方山の国では、王府城や領民の住居の大半が全半壊し王城に通じる道路に大きな亀裂、陥没が起きいたる所で火災が発生したが領民の命にかかわる被害は少なかった。
南部の広大な湿原地帯を統治する水の国では、王城や領民の住居は倒壊せずほとんど被害を被らなかったが王城周辺に張り巡らされた水路が崩壊しいたる所で水害が起き実り間近の田畑は水没し全滅した。王府城や住民の住居も大半が床上水没した。
また南部に広がる広大な砂漠の東端位置する文明の国と北方の山岳地に位置する北の国はこの大地震の被害が最も少なかった。
高い峰々のそびえ立つ堅固な地盤上に広がる平地一帯にある文明の国は地盤が堅固だった。またその国府の施設や住民の居住棟が他国よりその建築技術が優れていたためか、ほとんど地震の被害を被らなかった。
北方の北の国も、高い峰々の中腹から平地一帯にかけて王府城や住民の住居があったので地盤が堅固だった。王府城に通じる山岳路が地割れ、陥没、崖崩れを起こし通行は不能となったが建物や領民にはほとんど被害がなかったのである。
だが、この大地震を境にアジア台地の各国はまたその領民の運命は一変するのです。暗い闇の世界へ堕ち込むかのようにその運命は変わってゆくのです。
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