(第4部)放浪の旅人スグルの嘆き

  さて、ここでこはアジア台地全体の様子に暴力、殺掠、破壊を繰り返すダーク帝国のまた東の国、北の国、水の国、文明の国、山の国、海の国の6つの大国は、それらの様子について触れてみましょう。

 

 アジア台地は今どうなっているのか、この台地の民が記した「放浪の旅人スグルの嘆き」よりその様子を見て見ましょう。

 

「スグルの嘆き」とは、東の国の優秀な外交官であったスグルがアジア台地で起きた出来事を古くはスグルがこの台地に生を受ける以前の遠い昔より、現在に至るまでのことを書き留めた壮大な叙々詩である。


 

 スグルは、東国連邦政府の外交の任を拝命した東の国の高官であった。栄光と繁栄の礎を築いた東の国その中心地はアジア台地を北から南に連なる高い峰々の山脈(野獣の王国)の北端の渓谷沿いにあった。

 

 後背地を山脈の険しい崖に守られ、左方は台地中央部に広がる原住民の住む広大な原生林の峡谷に守られ、右方は台地最大の河川、オウガの流域に守られた台地最大で最も堅固で壮厳なる美しさも兼ね備えた東国城であった。

 

 小高い丘陵に石造りの天守塔がいくつかそびえ立ち、廻りを円状に配置された二重三重の城壁に守られ、城壁内には食料、武器の備蓄塔、役人、兵士の居住塔、奉公人住居が建ち並び、城壁外周辺には住民の居住棟、商業施設塔が立ち並ぶ広大な城壁都市でもあった。

 東国城から西方に伸びる平地は大変肥沃な土地であり、穀物、果実の実りも良く、東の国の一大穀倉地帯でもある、東の国の領民の約7割はこの東国城からオウガ河川沿いに延びて居住し生活していた。


 各国からの人、物資の往来も盛んに行われ特に東国城周辺に広がる城下町は日が落ちても油火のかがり火がこうこうとたかれ不夜城のような明るさの賑わいでアジア台地の最大の中心都市でもある。


 

 この東国城、城壁都市の政府高官宿舎がスグルの居住地である。その任は台地各国の状況視察と各国高官への挨拶回りと情報伺いである、

 

 外交の任の他にも、国王より直属に国王への内政、外交、施政の助言を行う任も受けており国府内に設けられた枢密院の議官の一人でもあった。

 りっぱな体格の割には丸く柔和な顔つきをしており、特にその瞳はくりっとした二重で大変大きかった。誰しもそのくりっとした大きな瞳で見つめ話されると警戒心をなくしてしまう、またその気性は大変機転がきき弁も達者で相手は気ずかないうちにおだてあげられ大いに気を許してしまう。

 

 スグルは本能的な外交の素質をもった優秀な外交官であったし、スグル自身もこの拝命された外交の任が天命とも思える程好きであった。


 

 1年を通してスグルはほとんどが旅であった。北の国、山の国、海の国、そして美しい水の国、砂漠に囲まれた文明に国にも伺う今風に言えば各国への長期の遊説であり出張である。だがスグルからすれば公費を携えたはなはだ楽しい旅行でもあったのである。

 深い詰襟のついた漆黒のマントをはおり、胸に東国の紋章である竜が彫りこまれた黄金の胸当てをつけ腰にはこれまた竜がデザインされた国王より拝領の平刀を携え手だれの従者5名を従い台地の各国を遊説した。

 

 遊説先の各国では、台地最大国家の高官の訪問に対し国王自らが出迎え山海珍味のごちそうを用意し各国随一の女しょうをはべらせ最高の酒を振る舞うという最大級のもてなしを行った。

 

 「スグル卿、ご機嫌うるわしく御国の国王陛下殿のご健勝と、御国のご繁栄益々盛んにてお慶び申し上げます」  

 この挨拶の言葉より始まる盛大な宴の場においても、さすがスグルは天才的な外交官であるけっして尊大な態度をとることはない。そのクリクリとした大きな目をさらに大きくし、柔和な表情を崩さず、  

 「国王陛下には、益々のご健勝と御国のご繁栄益々こととお慶び申し上げます」と恭しく腰を低く返礼する。

 

 事前に調べてあった国王、妃、各高官の人柄、気質、趣味から国王一向が最も興味をもつ話へと話題を導く、スグルの外交の戒めの一つである

 

 「人には5話してもらい、其のうち3には相槌と問いかけをし、自らは2を話すのみ」

 典型的な聞き上手の話法である。


 この話法で常に笑みを絶やさず応対するのである。大方の国王とその高官達は大いに気を許してしまうのである。

 しかしスグルの柔和な表情の奥で時々その瞳がキラりと光る時がある、場のみんなは誰もそれに一切気づかない。


 スグルのキラり光るその瞳は、王族や重臣、高官の集うこの場においてこの国を動かす真の実力者は誰か、後継者問題は、後継者たる者の人柄、気質、度量を見抜くのである。

 また出されたごちそう、盛られた器、王府内の装飾品、備品よりこの国の気質、富、経済状態をすばやく見抜くのである。

 

 一国への滞在日数は4~5日かける。

 その間スグルの従者には必ず領民との話を義務づける、領民の暮らしの状況、経済状況、特産物、領土内の重要施設の状況などを徹底的に調べ上げさせるのであった。


 こうして調べ上げられた各国の情報は「スグルの記憶として記され」、東の国の国王への助言としても活用されたのであった。                                      スグルは本当に優秀なアジア台地随一の外交官なのであった。

 






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