巨大アリに襲われる


 異次元の別世界に飛ばされての初めての恐怖、オウジ達には何がなんだかわからなかったが取り合えず恐怖は去っていったのでした。

 しかしオウジ達には、ほっとする少しの間もなかった。

さらに危険で不気味な状況がオウジ達に迫っていたのである。

 あのカブト虫ほどもある巨大で凶暴な兵隊アリの大群が、


 ザァ、ザァ、ザァ、


 とオウジ達のもとに向かっていたのです。

小型の偵察アリは別のあぜ道に逃げこんだオウジ達をしつこく追跡し、無数の黒い触覚を触れ合わせ途切れることない侵入者の伝達を遠方の巨大な兵隊アリ達に伝え続けていたのである。

 みんなのへたり込んでいる窪地もまた追跡してきた偵察アリ達に囲まれていたのです。

「キャー、もうイヤ-!」


「なんなの、これ!またあのアリが来ているよ」


 サチがヒステリックな叫び声をあげ飛び跳ねる!

そのズボンのすそには無数のアリが絡みついている、気付くとみんなのすそにも無数のアリが絡みついている、みんな慌てて立ち上がりバサ、バサと必死ですそを払う、何匹かのアリはすそから払い落とされたがその足もとにはまだ無数の偵察アリがウジャ、ウジャと這いずり回っていた。

 払っても、払っても偵察アリどもはウジャ、ウジャと足元にまとわりつき這い上がりズボンのすそに食らいつく。

 たまりかねたデンスケが、近くの畝地うねちの高台にすばやく登りその場を逃れる。高台はかぼちゃの根や太い茎が絡み合い足場もない状態だ、デンスケは絡み合う葉や茎を押し広げみんなの足場を先ずつくった、サチを引っ張り上げるそしてスエヒロを引っ張りあげた。オウジとハカセは自力で登った。

 かぼちゃ葉の白いうぶ毛の葉茎はささくれだって触れるとチクチクする痛い!みんな触れないようにつま先立ちで抱き合い立っている、苦しい姿勢だ。

 オウジは腰に差したサバイバルナイフを抜いた。黄金の筒カンはデンスケに渡した、抜いたサバイバルナイフは刃渡り20cm、ハカセから貰った本格的ナイフだそれで廻りのかぼちゃ葉を茎元より切り倒す、幾枚も幾枚も切り倒した。

 やっとみんな両足を広げ、どんと足を踏ん張れた畝地の高台から伸びあがり廻りを見渡す。

 あの忌々しいアリどもが畝地の低い部分をあっちにこっちにいたる所で這いまわっている。


(本当にに忌々しい奴どもだ!)

 デンスケが切り倒した茎付のかぼちゃ葉をアリどもに向け投げつける。

 慌ててあっちこっちへと大混乱に陥るアリども!


「いいザマだ!ほれ、スエヒロもやれ!ぶつけてやれアイツらに、」


 デンスケは調子に乗りスエヒロを先導し、何枚も何枚も茎付のかぼちゃ葉を投げつける。

 何と、何とアリ達は退散していくではないか、オウジ達の廻りの畝地から遠ざかっていく、畝地の下方に向かい退散していくでないか。

 デンスケは有頂天になった。


(このバカアリどもが)


 畝地の高台から飛び降り黄金の筒カンを振り上げ退散してゆくアリどもを子供みたいに追った。

 黄金の筒カンを地面に叩きつけながらピョン、ピョンと飛び跳ねる、その滑稽な姿にみんなは一時この場の不安を忘れて声を上げて笑った。

 みんなのいる所より少し離れてしまったデンスケ、みんなのいる所より下方に来過ぎた、だがみんなの笑い声はまだ上の方から届いていた。

 しかしみんなの笑い声とは別の音が、デンスケのいる所よりもっと下方から響く。


 サァ、ザァ、ザッ


 それが次第に大きくなる・・・そして響く。


 ザ、ザ、ザ


 何かがこちらに迫りくる、デンスケは考えるよりもなんでも野性の本能で感じとる物凄い恐怖を本能的に体が感じ取った。

 あわてたデンスケはすぐさまオウジ達の所に戻ろうと振り返る、その時だデンスケの立つ畝地の下方よりあの不気味な行進音とともにそのものは姿をあらわした。


 畝地の底地いっぱいにひしめき合いこちら(デンスケ)に向かってくる。


 黒光するでっかい顎。


 カシャ、カシャ鳴らす顎バサミ。


 緑色の無機質な複眼、無軌道に振れる二つに折れた触覚。


 大きさはカブト虫ほどもある、巨大だ、巨大なアリだ!それがデンスケに向かってきた。

  デンスケは慌てた・・・

 しかし恐怖におののいた体はいうことが効かなかった。

 振り向きざま横に倒れこんだデンスケ、起き上がることが出来ない・・・

(助けて!)


と叫んだ・・・はずだった・・・だが声が出ていなかった。


 ただ「アッ-、アッ-ッ」と叫んだだけだった。

 当然オウジ達には聞こえようもなかった。

 真っ黒な巨大なアリの大群が益々迫る。


 逃げようとするがもがき起き上がれないデンスケ、恐怖で体は硬直した。かろうじて動かせる両足はむなしくただ、ただ底地の赤土をひっかいただけだ。


 そのバタつく両足に巨大アリ達が何匹も何匹も食らいつきだした、もう両足のひざ下は巨大アリ達に埋め尽くされた。


 両足先は真っ黒い塊と変貌した。

 真黒なカギ爪と黒光りする顎バサミが両足先でカシャ、カシャなる。

 それを見るやゼンサクは「ギャー」と悲鳴を上げ、意識を失った。

 「ギャー!」


 悲鳴を聞いたオウジは畝地の高台を転げ降りる。


 サチとスエヒロに「ここにいてよ」言うやいなやハカセも続いた転げ降りる。

 畝(うね)地の下り勾配を2~3回転し倒れ込んだ・・・そのオウジとハカセの目にしたものはそれはおぞましい見るに堪えない光景であった。

 デンスケが黄金の筒カンを握ったまま両手を投げ出し仰向けに倒れている。目は白目をむいている、その下半身には巨大なアリ達が這い上がってきている。


「でっかい、でっかい巨大だ、でっけいアリだ」


 それがウジャ、ウジャと何匹も何匹もだ。


 針金のような鋭い足をカシャ、カシャさせ這い上がる。


 二重にも三重にも重なり黒い塊となり這い上がる。


 もう既にデンスケの腰から下は見えない。


 黒くべたつき黒光りするタール状のアリの濁流に飲み込まれ溶けてしまった感がした。

  目前の光景に恐怖のあまり一瞬ではあるが気が飛び、体が硬直したオウジとハカセ。


 だがすぐに我に返った。


「ウォー!」


 と叫び声をあげるや投げ出されたデンスケの手を引く、物凄い力だ、下り勾配のうねを上へ上へとデンスケを引きずり二人は這い上がる。


 デンスケの体はズ、ズーっと物凄い勢いで引っ張り上げられる黒いタール状のアリの塊から腰から下はすっぽり抜けた。


 ズズー、ズル、ズル、それでもオウジもハカセも必死だ、力を抜かない。今度はあの畝の高い所、アリ達のいない所、サチとスエヒロのいる所に向かいデンスケを引っ張った。


 真っ赤な形相で口を大きく開け目をつり上げ、片手はデンスケの手をしっかり握り、片手は巨大かばちゃの根や茎を思い切り引っ張り込む。二人の心臓はバク、バクし今にも張り裂けんそうに波打つ、デンスケの腰下にはまだ何匹ものカブト虫ほどもある巨大な真っ黒いアリが無数に絡みついたままだ。


 その光景に畝の上にいたサチもスエヒロも慌てた、必死でオウジとハカセの肩口に取りつき二人を引っ張った。

 この状態で、ようやくデンスケが意識を取り戻した、

 「ウォー、ウォー」


 金切り声を張り上げるや両足をバタつかせる、気が狂ったかのように大暴れし両足に絡みついた無数の巨大アリを振り払おうとした。

 物凄い力だ!抑えきれない。


 オウジもハカセもデンスケともどもうね地の底に、あの巨大な兵隊アリのカシャ、カシャする顎バサミの渦中にまた転げ落ちそうになった、

 オウジがデンスケの頬を思い切り叩いた。

 バシ、バシ、バシンとデンスケはようやく正気に戻った。

 おとなしくなった。

 そのころ、畝地の高台を除いての廻りの低地部分はどこもかしこも全てあの巨大な兵隊アリのコールタールのような黒い濁流に埋め尽くされようとしていた。


 巨大な黒いアリがウジャ、ウジャと幾重にも重なり絡みあいカギ爪の付いた針金のような無数の足が黒いタール状の塊から突き出ては上へ上へせりあがろうとしている。

 危機的状況である最悪の状態である。

 一時も経たないうちに、オウジ達の立ちすくむ畝地の高台もこの巨大アリの真っ黒な濁流に飲み込まれてしまうだろう。

 そしてオウジ達も巨大アリの濁流の真ん中に沈み込み、あの大顎でかみ砕かれ、鋼鉄をも溶かす蟻酸で溶かされ跡形もなくなってしまうだろう。

考えたくもないことだ!

 最大最悪の危機的状況である。オウジ達は一体どうするのか!この危機的状況を逃れられるのか、それともこの物語はここで終了してしまうのか?

 神に与えられた使命を、まだ会うことのないモルぺスと共にオウジ達は果たすことができるのだろうか?一体どうなることでしょう。

   







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