オウジ達神の国に飛ばされる

 さて、今度は運命の碧い光に追いかけられていたオウジ達の話に戻ってみましょう。

 あの日、日暮れ山の崖下の洞窟の陥没穴に落ち込んでしまったオウジ達は一体どうなってしまったのだろうか?

 どうなってしまったかというと、オウジ達はとんでもない所にいや!とてつもない所に転がり出ていたのである。


可哀そうにとうとう異次元の世界に飛ばされてしまったのである。

 あの惑星マーズのアジア台地の南端に突き出た半島(南の島)の付け根あたりにある山麓、そこの緑の平原に転がり出ていたのである。

 

 太陽系に最も近い恒星(別の太陽系)の惑星マーズである。最も近いといっても地球からでは数百光年以上離れたところである。


 そんな所、もう人知では理解できない。ましては中学生だ、それほど科学が進んだとは言えない時代の子供達が飛ばされたのだ。なにせコンピューターさえ存在しない時代なのだ。宇宙のなんのって言っても始められるような話ではないのだ。

 それにアジア台地の南の島と言えばあの神の国である、いかなる物体、生物の侵入も絶対許さない神の国である。

 アジア台地最大最強の生物、恐竜の体に巨大なコウモリの翼をもったあの凶暴なドラゴンでさえ、一時いっときを経たないうちに跡形もなく消滅させてしまった巨大ミツバチと巨大アリの大群が生息している神の国である。

 

 そんな大変な所にオウジ達はなんの予備知識もなく、しかも意識を失ったまま放り出されてしまったのである。神の意志により飛ばされてしまったのである。

 まず最初に意識を取り戻したのはサチであった。

サチの転がり出た所は、とてつもなく大きな草葉の生い茂る小高い岩山の傾斜地だった。異様に太いツル茎が縦横無尽に伸びて小岩に絡みついていたし、そこからは異様に大きい日傘のような濃い緑の厚い葉が胸の高さ位までせり上がり頭上に幾重にも覆いかぶさっていた。

 

 そこからは大葉の葉脈を伝わり雫がポタポタと落ち、横たわるサチの背を濡らしながら赤土に吸い込まれていた。

 

 朝露に体を冷やされたような冷たさに意識を取り戻したサチ、目を開けるが一体どうなっているのかここが何処だかわからないサチ。意識が混濁しているのだ。考えが集中しない、横たわる目前には茂る大葉がアーチ状の緑の大きなトンネルを造っていた。


(ム~とする草葉の青臭い匂い・・・)


(草むらの中?)

 立ち上がろうとするが軽い吐き気が襲う。中腰で吐き気としばらく戦っていると意識が次第にはっきりとしてきた、記憶がよみがえってくる。

(洞窟が陥没した。落ち込んだ暗闇、遠のいた意識)


 あの恐怖が頭をかすめた!


「スエヒロは!」


 まずサチの頭に浮かんだのは9歳の弟スエヒロのことだ。

サチはソロソロと立ち上がり大葉をかき分け廻りを見渡した。もう既に吐き気は飛んでいたスエヒロはサチから体二つ分の所に大葉に埋もれ磐かどに横たわっていた。

「スエヒロ!」


 横向きから仰向けに抱きかかえ頬たたく、、、


「うん、ん、あ~姉ちゃん~」


 寝ぼけまなこでまったくのんびりっ子だ!それでもサチはすごく安堵する。


 起き上がろうとするスエヒロを


「ちょと待ってスエヒロ、急に立ち上がると気持ち悪くなるから・・・そのままね」


 と制止し、スエヒロの頭部さすり、顔を折り曲げ、手首、足首をひっくり返した。


(大丈夫、磐かどにぶっかったような怪我はなかった)


 ・・・スエヒロの小さなおしりをポンと叩いた・・・

 それからサチは、同じく大葉に埋もれ横たわっているデンスケとハカセを起こした。デンスケはオウジを起こした。


 

 ようやく意識を取り戻したオウジ達はヨタ、ヨタと起き上がり腰に絡みつく大葉をかきわけて辺りを見渡した。

 

「なんなんだ・・・ここは!」、「どうしちゃたんだ!」


「穴へ堕ちたんだよな俺達」、「堕ちた堕ちた・・・」


「なんでこんな所にいるんだ!」、「穴の別の出口に出たってことか」


 みんな唖然とした。見たこともない風景が一面に広がっていたからだ。

 眼前もくぜんは、見渡す限りに緑の厚い大葉が波がしらのように幾重にも折り重なっていた。それが風に吹かれザザァー、ザザァーと大きく波立っている。

あの見慣れた日暮れ山の風景ではない。日暮れ山周辺には絶対にない風景だ!

 みんなの思考は完全に一旦停止した。何も考えられない・・・ただ、ただ茫然とこの風景を眺めていた。

 

「別の出口じゃないな、違うな・・・別世界ってことか」


「日暮山の洞窟に居たんだよな俺達」


「いた、いたよ、それから先はわからない」


「気失ったんだろう・・・」


「気失って穴に堕ちて行った、深い深い穴だ」


「穴からは出たってことか」


「別のところに出てしまったってことか」


「飛ばされたってこと・・・いやそんなこと考えられない・・・」


「どうなんだハカセ」、「ううん~」


さすがの物知りのハカセも無言のままだ・・・


「俺達のいる所にはないよな、こんな葉の大きい植物」


「これなんの葉だ!」

 チクチクとする手触りの大葉を引き寄せ、オウジがしげしげとその葉を観察する、

 「これは、かぼちゃだ!かぼちゃの葉だ!」

 「でっけい葉だが、かぼちゃの葉だ!」

 ハカセは別だが、オウジとデンスケの家は農家だ、オウジもデンスケもかぼちゃの葉位は区別がついた。

 「すげえ大きな葉だが、これはどう見てもかぼちゃの葉だ、そうだよなデンスケ、サチ」

 オウジは見て見ろと言わんばかりに大きな葉をグィっと裏返し、デンスケとサチに見せる。

 デンスケもサチもその通りだと大きく頷く。

                     


 サチは一瞬、思った。


(えっ!ここって巨人の国。まさかおとぎ話の世界じゃないよね?)


 だが口にだすことはやめた。

まだまだサチの脳裏では、ここは日暮山からは少しは離れるが、多分凄い崖や山で有名な景勝地、落石辺りのどこかじゃないか、日暮山の洞窟が長く長く地下を通り落石辺りまで続いているのではないかと楽観していたのだ。

 だから、こんなのんきに絵本の世界のような巨人の国って、心のつぶやきがでてしまうのだ。

 オウジ達もここがどこだかわかならないが、口では(ここは別世界か?)なんて言ってはいるがやはりサチ同様楽観していた。ここは日暮山からそれほど離れないどっかの洞窟の出口だろう。そう思いたかったのであった。



 オウジ達は、巨大なカボチャ葉をバサバサゆすりあらためて廻りを見まわした。本当にここは巨大なかぼちゃ葉の群生地だ。見渡す限り濃い黒褐色の緑の葉が段々に続き、所々に黄色い大きなつぼみがニョキっと顔をだしていた。多分その下辺りには黒ずんだドラム缶ほどのかぼちゃがゴロンゴロン転がっていることだろう。

 この巨大なかぼちゃ葉の段々は岩山の傾斜地よりなだらかに下降しながら見渡す限りに遥か下のふもとまで続いていた。その彼方の麓には林列する木々の林がおぼろげに霞んで見えていた。





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